おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2018.05.23infomation

「新野敏也のレーザーポインター映画教室第3弾」のレポート(1)

今年1月28日に、喜劇映画研究会代表新野敏也さんをお招きして、恒例となった「新野敏也のレーザーポインター映画教室」の第3弾を開催しました。

首を長くして、その折のレポート到着を待っていたので掲載しそびれてしまいましたが、記念の集合写真です。当然乍ら皆さん真冬のいでたち。新野さん(写真前列中央)自ら「歩く大寒波」を称しておられる通り、今年も寒波と共にお越しになりましたが、既に初夏を思わせる気候です。それだけ力を込めて書き上げてくださったレポートは、読み応え充分‼ 文章量が多いので、8回に分けて一挙掲載します。

では皆さま、ゆっくりとお読みくださいませ。

…………

またまた寒中の『レーザーポインター映画教室』に最後までお付き合い下さいました皆さま、そしておもちゃ映画ミュージアムの皆さま、重ねてお礼を申し上げます!

今回は、古典映画にかなり詳しい人でもご存知ないような激レア作品ばかりを厳選しました故、時間内に説明できなかった事、当日のご質問から新たに発見した事(?)も加え、ここに改めて上映作品の解説をお届けしたく存じます。

この記事から初めて僕、及び喜劇映画研究会と接する方、古典映画を勉強されている方のためにも、この拙文がちょっぴり参考になればと願っております。

 

【第一部:発掘されたフィルム!埋もれた問題作!】その1

 

「殲滅飛行船」 The airship destroyer  
1909年 チャールズ・アーバン・トレーディング・カンパニー作品(イギリス)
製作:ロバート・ウィリアム・ポール 、監督:ウォルター・R・ブース 
原作:ジュール・ヴェルヌ 、出演者不詳
伴奏:坂本真理(キーボード/歌)
※2017年6月4日 イオンカルチャークラブ葛西「喜劇の王様たち」の公演より 

本作は英国映画協会より譲り受けたフィルムです。失われた映画とか発掘されたフィルムではありませんが、映画史から完全に忘れ去られ、まったく再上映されなくなったトンデモナイ問題作としてセレクトしました。この映画は、イギリス最古の映画製作者たち、ブライトン派によるSF映画(?)となります。

ブライトン派とは、ウィリアム・フリース・グリーン(1855~1921)、ウォルター・R・ブース(1869~1938)、ロバート・ウィリアム・ポール(1869~1943)、J・H・マーティン(1874~?)、アーサー・アルバート・コリングス(1859~1936)、セシル・M・ヘップワース(1873~1953)、ジョージ・アルバート・スミス(1864~1959)、ジェイムズ・A・ウィリアムソン(1855~1933)、アルフレッド・ダーリング(1862~1931)といった、19世紀末~20世紀初頭イギリスの映画黎明期に活躍した製作者たちの総称です。彼らは、連続写真の応用から独自に映画技術を発明したとの説もありまして、イギリス本国の一部の歴史家の間では、フランスのリュミエール兄弟(兄オーギュスト:1862~1954、弟ルイ:1864~1948)より発明時期が先行していたとも語られております。

そんなブライトン派ですが、活動当初こそリュミエール兄弟と同様に身近な実景の記録(今日では元祖ドキュメンタリー映画とされる)を発表しておりました。やがてフランスのジョルジュ・メリエス(1861~1938)やフェルディナン・ゼッカ(1864~1947)が作る娯楽色の濃いトリック映画やコメディに影響を受けて、多重露光やマスク合成を用いたファンタジー、またはホラーを量産します。ちょうどブライトン派の活躍した時期のイギリスは、ロンドンを中心に神秘主義や神智学が流行して、ニセ心霊写真が商売として成り立っている背景もあって(ボーア戦争や事故、病気などで亡くなった肉親の遺影と存命する自分たちをコラージュするような稚拙な合成が、写真館の正規業務として行われていたとのこと!!!)、幽霊や妖精をモティーフにした作品が大ヒットとなったようです。

但し、彼らは単なるメリエスなどの模倣作家ではありません。アメリカでD・W・グリフィス(1875~1948)が強調《クローズ・アップ》や同時進行による場面転換《カット・バック》を映画の文法として発表する以前でも、彼らブライトン派は既にサラッとこんな表現効果を使っておりました。近年に改めて、その先進性が注目されている映像作家たちなのです。

尚、「ブライトン派」というネーミングは、映画史の大家ジョルジュ・サドゥールが「ブライトン(イングランドのイースト・サセックス州)を中心に製作者や仲介業者たちが集まった」との理由により命名したとの説と、「ブライトン出身者が多かった」なる二つの説があります。僕個人として、同郷の寄り合い説は、いくら何でもちょっと見当違いに思いますけど、でも奇跡的に才能豊かな近郊の人たちが互いの評判を聞きつけて集まったという考え方も否定できません。

さて、前置きが長くなりましたけど、これより『殲滅飛行船』がなぜトンデモナイ問題作なのか?を解説しましょう。

まずはストーリー、若い科学者と恋人が結婚を許されず悩んでいたところ、二人の住む国へ謎の飛行船軍団が侵攻して市街地を爆撃、恋人の家も倒壊します。そこで若い科学者は、開発中の兵器で飛行船(母船)を撃破して一躍英雄となり、恋人と結ばれメデタシメデタシという、10分位の短編です。当然ながら現代の特撮クオリティと比べますと、チープでキッチュな寸劇にしか思えません。

しかし!まずこの映画が作られた時代の飛行機は、低空を数十メートルほど浮く程度の飛翔能力しかなく、空中を自在に旋回できる機体は数年後にヴォワザンやファルマンという機種が登場するまで存在しない筈ながら、何と本作では機関銃を装備した戦闘機として空中戦を描いているのです。飛行機を兵器利用する発想も、この映画から数年後に第一次世界大戦で考え出された戦術!それに加えて、無差別に市街地を焼き払う「戦略爆撃」も描かれておりますが、この発想は第二次大戦からとなります!「爆撃」自体は第一次大戦に考案された戦術ですけど、その頃もまだ敵陣地や軍事拠点を攻撃目標とする兵法で、この映画が作られた当時は一般的に無差別爆撃なんて発想自体がなかった訳です・・・が、この映画では教会まで焼かれてしまいます!

さらに、謎の飛行船軍団を地上で迎え撃つべく登場するのが、迫撃砲(高射砲?)を持つ装甲車!これは第一次大戦末期に初めて採用された兵器(戦車)です!第一次大戦時の戦車の発案は、動くトーチカとして地上戦を突破する目的のためであって、この映画が作られた当時の「対空兵器」なんて使用法は考えられておりませんでした!その装甲車(戦車)も空爆によって破壊されますが、戦車が上空からの攻撃に脆いという事実も、第二次大戦までは軍属ですら知らない理論の筈です!?

そして主人公の科学者により開発される新兵器が、第二次大戦でナチ第三帝国陸軍が考案したV1号によく似た形状のロケット推進式!しかもV1号と同じく、レールを用いて離陸姿勢と着弾方向を安定させる発射法!侵略軍の制服も何やらドイツっぽい・・・ジュール・ヴェルヌ原作となっておりますが、このヴィジュアルをヴェルヌ自身が描いていたかわかりません(原書も何だかわかりませんけど)。

そんな個人的な驚きから、本作を「映画黎明期の単なるトリック映画」「ブライトン派による空想劇」「百年以上前の古典フィルム」と片付けて良いものか?忘れ去られるにはあまりにも摩訶不思議な作品では?と考え、今回上映のオープニング作品として選んだ次第です。

上映後の懇親会にて、偶然にこの時代の戦争を調べておられたというお客様(おもちゃ映画ミュージアム会員の河田隆史氏)より、「今回の上映作品の中で一番衝撃を受けた」とのご感想を頂戴しました!

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