おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2022.08.10infomation

2022年9月3日に川端康成没後50年記念の講演と映画『戀の花咲く 伊豆の踊子』上映‼

トントン拍子に講演と上映が決まった『戀の花咲く 伊豆の踊子』(1933年、五所平之助監督)のご案内です。講師は昭和女子大学教授の福田淳子先生。思い返せば2016年5月22日開館1周年記念として『何が彼女をそうさせたか』を上映した時に最初の出会いがありました。そして今年5月21日に再会した折に、国立映画アーカイブ「発掘された映画たち2022」で5月4、13日に上映された弁士説明版『戀の花咲く 伊豆の踊子』がとても面白かったと目を輝かせて仰ったのに惹かれて、早速企画書を作成して、映画アーカイブに映像借用の申請をしました。7月27日の幹部会で承認され、ブルーレイで借用できることになり、晴れて広報に至りました。

7月30日当館でも坂本頼光さんの活弁で『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922年、監督:F・W・ムルナウ)を上映しました。版権問題で幻の映画となっていた背景の説明はもとより、凄まじい勢いで増えている新型コロナ感染者のことなど、臨機応変に様々な話題を盛り込みながら、巧みな話術で作品世界に引き込んで下さいました。無声映画時代は活動写真弁士が誰かによって客の入りが大きく異なっていたといいます。

今回上映する作品は、まだ東京国立近代美術館フィルムセンターだった1974年に開催された“五所平之助監督特集”の折に、西村小楽天が活弁を付けて上映した時の録音テープを活かした弁士説明版(伴奏は付いていません)。福田先生は「当時の人々が、ご覧になった折の反応が分かるのが面白い」と話しておられました。ちなみにこの年は戦後初のマイナス経済成長で、過激派による連続企業爆破が相次ぎ、政情不安を反映してか、映画『ノストラダムスの大予言』ヒットなど超能力ブームが起こっています。

今回、活動写真弁士片岡一郎さんから西村小楽天著『私は昭和の語り職人』(1978年、エイプリル・ミュージック)をお借りしました。

本に載っていた五所平之助監督と西村小楽天さん。表情からもお二人の気が合う様子が伝わってきますね。1902年生まれの同い年で、今年は生誕120年。本にはお二人の対談が載っていて、話題の一つに『伊豆の踊子』も。田中絹代で撮った時でさえ伊豆は開発が進んでロケーションができなくなっていて、信州の別所を使ったのだそうです。でも南国の山と北国の鋭角的な山とは異なるのを五所監督は気になさっていたようです。

対談時で既に田中絹代(1933年)に始まり、美空ひばり(1954年)、鰐淵晴子(1960年)、吉永小百合(1963年)、内藤洋子(1967年)が踊子を演じていて、その後に山口百恵(1974年)主演でも作られていますが、「『第一作の五所平之助作品にとどめをさす』と世間では言われている」という小楽天さんが投げたボールに、監督は「田中絹代さんという人を得たということでしょうね。ああいう土の匂いのする、肌に旅の風を感じさせる人は他にいないですからね。それで、田中さんの襟足が何ともいえない…。」と答えておられるのを読んで、ますます拝見するのが楽しみになってきました。

この作品が浅草帝国館で封切の時は、静田錦波と小楽天さんの二人で受け持ち、1974年フィルムセンターでの上映の時は五所監督の希望で小楽天さんが説明をされたと本にも書いてあります。

二人の対談には、五所監督が手掛けた日本最初のトーキー映画『マダムと女房』(1931年)についても興味深い話が載っていました。サイレント時代は手回しの時代だったので、「変わった喋り方をしようと思えば、早く回してくれとか、ゆっくりとか、注文ができましたが、24コマのトーキーになったらそういうことが全然できなくなって…」と小楽天さん。トーキーになって弁士という仕事がなくなるという不安はさぞかし大きかったことでしょう。

今と違って同時録音しかない時代のことで、音楽に関する苦労も相当だったようです。世間の見方は厳しく「普通のいわゆる芸術家という人なら映画なんかに参加しませんからね。あんなものはくだらないというふうに考えて」、当初はどなたにも協力して頂けなかったそうです。でも「映画から音が出たというのは大革命ですよ」と五所監督。この『マダムと女房』の後で二人は親しくなったようですが、それ以前から西村さんは五所監督の作品を得意とされていて、その評判は監督の耳にも入っていて、その信頼ゆえにフィルムセンターでの説明担当になったのでしょう。でも五所監督の作品はカット数が多くて苦労したそうです。

チラシの一番上にも書きましたが、今年はこの映画の原作『伊豆の踊子』(1926年)を27歳の時に書いた川端康成(1899年6月14日-1972年4月16日)が72歳10か月で自らの生涯を終えてから50年の節目です。講師の福田先生は、川端康成の研究者として活躍で、下掲の通り8月19日に開催される川端康成学会第48回大会・国際シンポジウムで発表や司会もされます。チラシのQRコードからどなたでも、対面(500円)あるいはzoom(無料)で参加できるそうです。先日お越しいただいたイエール大学のアーロン・ジェロ―教授も発表されるのですね。私も早速申し込んで、事前学習しようと思っています。

偶然ですが、東京大学大学院教授韓燕麗先生の企画で、8月2日国立映画アーカイブで『流星』(1949年5月3日公開)を鑑賞しました。原作は富田常雄、監督は阿部豊。刑事の藤岡俊作役が『戀の花咲く伊豆の踊子』で主人公の学生を演じている大日向傳(伝)です。他の出演は、集団ギャングの頭目、松井義夫こと“むら雲の鉄”が山村聰、その情婦原口愛子役が“李香蘭”改め山口淑子、鉄の妹役松井恵美子を野上千鶴子が演じています。大日向伝傳は若手人気スターとしての地位を確立し、昭和初期から第二次世界大戦後にかけての日本映画黄金期に高い人気を誇った俳優さんでしたが、1953年突然、ブラジルに移民すると発表。家族で移民したサンパウロ州に牧場を経営するだけでなく、映画出演や監督もこなすなど野性味のある風貌同様生き方もワイルドな印象です。また、野上千鶴子は、9月11日轟夕起子研究家山口博哉さん主催で上映する『今日われ恋愛す』(1949年)にも出演されています。さらに阿部豊監督も9月10日に上映する『私はシベリアの捕虜だった』を監督されていて、今となれば、韓先生の『流星』を観る企画は今後の上映会にぴったりの作品選択でした‼

つい先日届いた福岡市総合図書館映像ホールの「シネラ・ニュース9月号」によれば、9月15日、24日に山口百恵、三浦友和が出演した西河克己監督『伊豆の踊子』(1974年)が上映されるようです。せっかくの機会なので、見比べてお楽しみいただければと思います。

新型コロナ感染拡大防止のため、定員を25名に設定しています。まだまだ残暑厳しい頃と思いますので、いつもお願いしていることですが、できるだけ涼やかな服装でお越しくださいませ。皆様からのお申し込みを心よりお待ち申し上げます。

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