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2016.03.10infomation

美空ひばりの「青空天使」と映画探偵のこれから 

 「青空天使」と映画探偵のこれから             高槻真樹

 遅ればせながら、2月21日に開催いただいた「青空天使」上映会の模様をご報告させていただく。拙著『映画探偵』(河出書房新社)の刊行を記念したイベントがなぜ、著作中で取り上げられていない斎藤寅次郎監督作「青空天使」(50)の上映会なのか……と、疑問を持たれる方も多いだろう。当日の太田米男館長とのトークは、その疑問に答えるエピソードを中心に展開させていただいた。

 拙著『映画探偵』は、およそ10%弱しか残存していないといわれる戦前日本映画を捜し求める人々の姿を記録したノンフィクションである。もちろん当館と太田館長の活躍も詳細に書かせていただいた。未読の方はぜひ手に取っていただきたい。

 ビデオやDVDのおかげもあって、近年では旧作日本映画への関心は以前より高まっている。しかし、相変わらず大半の観客はほとんどの旧作が失われたということをなかなか呑み込めずにいる。それほど旧作が保存されていないということは言語道断の信じられないことなのだが、だからこそこうした啓発は欠かすことができない。ファンの協力あってこそ失なわれた映画の発掘は進むはずである。

 紙幅の関係もあって、拙著では戦前の日本映画に話題を絞ったが、実は戦後にもかなりの数の作品が行方知れずになっている。今回上映された太泉映画など、現在は解散した小プロダクション作品を中心に、保存責任の主体が曖昧なままいつの間にかフィルムがどこにも見当たらなくなる、という事態が繰り返された。現在も熱心なファンが多い美空ひばりの主演作であるにもかかわらず、完全な形で残っていないという事実には驚かされる。

 没後すでに四半世紀が過ぎ去り、熱心なファンの高齢化も進む。既に若年層は「美空ひばり」という名前の重みを知らないだろう。だが、映画があれば、こうして美空ひばりの少女時代の姿をいつでも見せることができる。ひばりの子供離れした芸達者ぶりには、驚きの声があがった。映画史的にはサイレント時代に比べて軽視されがちなトーキー期の斎藤寅次郎作品だが、アナーキーな映像表現には変わらぬところがあったことがよくわかる。生き別れの母子の再会がテーマであったにもかかわらず、最後までスケジュールが合わないままだった美空ひばり、入江たか子の再会場面を、どのよに工夫して撮ったかも、実際のカット割りに注意して見て行けば、誰しも興味が高まる。

 今回はいわば「映画探偵」のこれから、を見据えた企画とさせていただいたわけである。太田館長には、今回のこのフィルムがどのような経緯で発見されたのか、どういう状態だったのか、どのような視点から修復を行ったのか、お話を伺った。フィルムがどのような過程を経て再上映までたどり着くのか、おおよその流れを、この日のトークからだけでも理解していただけたのいではないかと思う。

 要は、フィルムを長く死蔵していた人物が亡くなったり、会社が解散したり、という時が発見の大きなチャンスなのだが、それは一歩間違えればそのままフィルムが捨てられてしまう危機でもある。どれだけ多くの人が「フィルムを捨ててはいけない」というスローガンを共有できているかがこれからのポイントとなってくる。

 映画が発明されて120年、初期の映画フィルムが上映可能な状態で発見される「寿命」のタイムリミットは既に過ぎ去っている。それでも日々新たな映画が発見され続けるのは、保存・修復の技術革新も進んでいるからだ。

 唯一大きな障害となるのは「修復費用」の問題なのだが、太田館長は「その映画をなんとしても観たいと思う人がどれだけいるかが肝心」とシビアだが大いに参考になる見解を示してくれた。京都映画祭では毎回何らかの映画修復を手掛けているが、まったくの無名作品では修復は難しい。ただし、どんな映画でも観れば面白いところはある。どのようにして映画修復を世に呼びかけるセールスポイントを作るか、これが今後の課題になるのかもしれない。残されてはいるが上映不可なフィルムは、世にまだまだあるのだから。

DSC04513当日参加いただいた皆様に、心から御礼申し上げます。なお、向かって左のマイクを手にしておられるのが、筆者の高槻真樹さんです。お忙しい中、報告を書いていただき感謝の気持ちでいっぱいです。

 

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