おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

彼女らの真摯 / 山田祥代監督作品 2021年12月1日(水)~5日(日)10:30~

彼女らの真摯

2003年度、山田祥代監督作品、35mm(スーパー16)、カラー、ビスタサイズ、34分

あらすじ

卒業を翌春に控え芸大で写真を学ぶ透子はある夜、親友でルームメイトの椿が、家庭を持つ男との子を身籠った事を知らされる。 社会の現実と自身の志向する世界との狭間で悩む透子。 失恋と堕胎のショックを受け止めきれない椿。 それぞれに埋まらないギャップを抱えながら行き場を失いかけた二人の若者が、彷徨いながらも明日を見出していくまでの物語。

制作意図

ただただ迷いの中の自分自身を見つめる ー 関ケ原だったか、ロケハンの車中、そんな話を延々監督とした。 監督から聞かされたのか、或いは逆にこっちから言い聞かせたのか、それは覚えていない。

キャスト

金智順、徳永由貴、はだ一郎、藤高智弘、法山仁、相良武雄、緒方晋

スタッフ

製作:Sleeping Agnes、制作進行:井上亜紀・三田村豊史・押川雅也、脚本・監督:山田祥代、撮影・照明:高橋正信、撮影補佐:江川裕子・林健二郎、美術:河崎えり子・原田由香・安藤桂子・松崎宙人・坂上恵理、録音:下房地路、録音補佐:小澤勇佑・新谷圭右・岡田文・斎藤淳、記録:宮本怜典・大島隆史・吉田武史、音楽:高橋弘樹、音楽録音・整音:加藤恵介、編集:山田祥代、スチール:岡田佳恵、助監督:江島正将・高田美幸・相木悟

コメント

さっちゃん(監督)とこの映画を撮ったのは、はや20年近く前の事だ。
彼女が再び本作を観返す事はもう無い。
当時のさっちゃんは主人公二人を足したようなキャラクターだったが、それでも足りないものがあった。
直情的で時に支離滅裂。喜怒哀楽が激しく、穏やかに過ぎる時などは、逆に本心を隠しているのだと思わせた。
愛くるしい落ち着いた朗らかな時間は、いつも長くは続かなかった。
求道者の様であり、破壊者の様であり、陰陽併せ持つ彷徨い人だった。
心情的には物語の当事者でありながら、一方でそれを客観的に描かなくてはならない立場でもあった。彼女にとってそれがどれだけ困難な作業であったかは、今でも想像が及ばない。 おそらく本人の覚悟をも超えた難産だったに違いない。自戒も込めて言えば、身を削って産み出した筈のその内容は、あっけない程にステレオタイプの域に収まってしまっている。その事が、表現する事の難しさと若気の至らなさを痛く感じさせる。
完成後、卒業後のさっちゃんの動向はよく知らない。
数年前、当時の仲間から久々に聞いたさっちゃんの話は、彼女の自死を知らせるものだった。
とうとう完遂してしまったのか。そう思った。
映画一本撮って人生大きく変わる者もいれば、一方で何本撮っても相変わらずな者もいる。
たとえ何も変わらなくても、それでも一本撮れば、そこには生きた証が残る。
どの場面を観ても、キャメラの後ろで芝居を見詰める彼女を感じる。
それだけでいい。いくら拙くても、それだけで本作を観る価値はある。

(文責)高橋正信