おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2017.09.10infomation

「京都ニュース」の保存と活用について―ご支援をお願いいたします!

私たちの活動

「おもちゃ映画ミュージアム」は、映画初期の家庭用映写機と映画前史となる写真や光学玩具、幻灯機(マジック・ランタン)の展示を中心に行っていますが、もう一方で、映画フィルムの復元と保存という事業に取り組んでいます。

2015年に、ミュージアムをオープンしてから、16mmフィルムやパテベビーと呼ばれる9.5mmフィルムの寄贈を数多くお受けしました。その中に、尾上松之助の「忠臣蔵」(1926年、日活大将軍、池田富保監督作品)のパテベビー完全版の発見があり、35mmフィルムに復元、デジタル化して、京都国際映画祭や東京国際映画祭で上映され、海外の映画祭でも公開が予定されています。昨年は、小津安二郎監督の「突貫小僧」の最長版が見つかり、話題になりました。当ミュージアムでは、これらの映像を観ていただくという活動をしていますが、永く保存するための方法として、フィルム収蔵庫を持った公的な施設への委託保存も考えています。

「京都ニュース」

今回、京都市が、昭和31(1956)年から平成6(1994)年までの間、映画館で上映していた「京都ニュース」の画ネガ、音ネガ原版が450本以上、大量に保管されていることが分かり、京都市の「まちづくり・お宝バンク」に提案登録して、京都市のみなさんと共に、調査、修復、保存、活用について活動することになりました。

「京都ニュース」は、1956に「京都市民憲章」が制定され、映画のまち京都ならではの施策として、全国で初めて35mmフィルムで製作、映画館で公開してきたものです。

「美しいまちをきづきましょう。清潔な環境をつくりましょう。良い風習をそだてましょう。文化財の愛護につとめましょう。旅行者をあたたかくむかえましょう」という「京都市民憲章」のスローガンの強化施策の一つとして、「京都ニュース」事業がスタートしました。

半世紀以上の時間が経ち、これらの映像は、京都市政の活動記録というだけでなく、京都市民の姿や生活、時々の催事や出来事などを克明に記録していることから、今では文化財的な意義も加味されています。大変貴重な歴史資料であり、京都市民の重要な文化遺産となるものです。

これらの映像を単に保存するだけでなく、10年後、100年後にも活用できるための方法を考えています。

京都国際映画祭での公開

幸運にも、それらの映像の一部がビデオ化されていて、以前には京都市歴史資料館で公開されていました。画質からすると、劇場で上映された当時の鮮明な映像には程遠いものですが、「京都ニュース」の存在を広く知っていただき、その保存と活用の意義を訴える場になればと思い、京都国際映画祭2017で公開します。「京の映画」部門で、「京都市民憲章制定から60年~『京都ニュース』60年前の京都」と題し、昭和31(1956)年と昭和32(1957)年に作られた映像をご覧いただきます。会場は10月12日~15日、元・立誠小学校です。詳しくはこちらをご覧ください。

それに先立ち、今年7月15日の祇園祭宵々山には、祇園町の歩行者天国で第10回「祇園天幕映画祭」が開催され、その折に「京都ニュース」の一部をご覧いただきました。「貴重な映像が見つかった」と京都新聞に大きく取り上げていただいたこともあり、大勢の人が集まってくださいました。

他にも多くの魅力ある映像が残っており、これをお読みいただいている皆さまのお身内やお知り合いが写っているかもしれませんし、もしかしたら、あなたご自身の姿が見つかるかもしれません。ご存命の方が居られるうちに、映像を見て頂き、これらの映像の保存と活用について、ご理解をいただき、応援団になっていただきたいのです。

「京都ニュース」の保存

私たちは、この映像をご覧いただくだけでなく、映画フィルム原版そのものを慎重に丁寧に扱い、保存することを提案しています。作られてから60年という時間を経て、大量の記録映像が35mm原版で残っていたことは、後にも述べるように奇跡的なことです。今の時代にもデジタル・アーカイブ化が可能であり、また将来的にも4Kとか8Kとかの映像にも対応できる高画質の映像原版が提供できる価値あるものなのです。

一方、これらのフィルムは既に経年劣化が始まっています。貴重な映像を保存して次世代に継承するには、時間との競争という側面もあるのです。

これまで、日本の映画会社やフィルム所有者は、映写用にプリントするとオリジナル原版を廃棄したり、散逸させたりしてきました。その理由は様々考えられますが、その一つに、初期の映画フィルムは可燃性のナイトレートフィルムだったため、「フィルムは発火する危険物」という迷信に翻弄されて、不燃性のトリアセテートフィルムに変換すると直ちに廃棄してきたことがあります。

セザンヌやゴッホのような有名な絵画を鮮明で克明なコピーができたからと言って、オリジナルの絵画を捨てるでしょうか? 捨てないでしょう。しかし、映画や映像作品は捨ててきたのです。

京都で作られてきた映画の原版は、京都にはほとんど残っていません。皆無と言ってよい状態です。一部の施設を除き、映画フィルムの保存庫がないというのも理由の一つです。

日本国内のフィルム保存状況

日本では、東京国立近代美術館フィルムセンターが、神奈川県相模原市に国唯一のフィルム保管庫を持っていますが、各地の資料館や博物館などは、専用のフィルム倉庫を持たず、フィルムの保存に頭を悩ませています。場合によっては、廃棄するという暴挙に出るケースもあります。フィルムセンターの調査によれば、戦前の映画の90%が失われているという報告があります。

西日本には、それに匹敵するアーカイブ施設(フィルム保管庫)はありませんし、映画会社もフィルムセンターに委託保管しているのが現状です。ですから、京都市だけが「京都ニュース」を放置したわけではなく、どの施設も対応に悩んでいるのです。通常、書籍や文書類などの保存条件は、常温の20度、湿度40%以下です。しかし、映画フィルムは、低温の10度から5度以下といった低温、低湿度の保管が求められています。そうでないとフィルムが酸化し、劣化(組織分解)するからです。

1950年代に、国産の安全フィルム(三酢酸セルロース=トリアセテート)が作られ、前述のように不燃化という変換が行われてきたのですが、皮肉なことに、その安全フィルムの方に劣化症状が現れ、しかも劣化速度が速いのです。「酸っぱい臭い」の酢酸臭がし始めて、劣化が進行します。「ビネガーシンドローム」という大きな問題になっています。

残念ながら完璧な保存や完全な保存媒体というのはありません。デジタル化すれば大丈夫という考えも、ソフトやハードの移り変わりの激しさで、いつ再生不可能になるかわかりません。変わるたびに更新し続けなければならず、手間も費用もかかり、「デジタル・ジレンマ」と呼ばれる大きな問題となっています。デジタル化だけで済ませるのは、過去の不燃化作業と同じで、次世代には継承できないかもしれません。

デジタル化が全てと考えるのは危険で、例えば、過去の文書や紙製資料類をマイクロフィルムで保管していたものが、同じ三酢酸セルロースということで劣化を始め、悩みの原因になっています。安全フィルムに変換したことで安心し、原版フィルムを廃棄するという過去の間違いを繰り返さないためにも、フィルム原版の保存に慎重になっているのです。高温多湿の夏、零下にもなる冬、この温度差、湿度差がフィルムに大きなダメージを与えます。フィルムは保存状態さえ良ければ劣化しないで、100年から500年は保存できると言われています。ちなみに現在もアメリカのジョージ・イーストマン・ミュージアムでは「ナイトレート・ピクチャー・ショー」が開催されて、話題を集めています。

日本は土地が狭いという理由もあり、映画・映像作品が複製芸術ということもあって、フィルムは場所を取り、酢酸臭のする厄介なものとして、邪魔扱いをされ、貴重なフィルムも捨てられてきました。これが日本映画・映像の現状です。その様な現状の中で、京都市は「京都ニュース」を原版で残していたのです。これは奇跡に近いことなのです。

海外のフィルム保存状況

欧米の国々では早くから映画芸術としての意義を認め、国の施策として映画フィルムを保存してきました。フランスは、リュミエールのカメラマンたちが世界中に派遣し記録したすべての映像を保存し、国宝として残しています。19世紀、明治の日本の姿もフランスには残っているのです。

また、EUが成立した時にも、各国の映画博物館やフィルム・アーカイブ間が協力し、多くの映画の名作や傑作などを復元してきました。アメリカでも、映画フィルム保存法を定め、1989年より年間25本の映画を国宝として完全保存し、議会図書館に保管しています(アメリカ国立フィルム登録簿)。今日では、600本以上の映画が国宝として保存されています。

わが国では、映像文化財として認められているのは、たった3本だけです。

世界的な監督であり、国際的評価の高い小津安二郎や溝口健二、黒澤明監督の映画作品も文化財に指定されていません。まだ100年が経たず、文化財とは認められないという変な基準があるからです。

映画作品の評価は、時代によって変わることもあり、名作や傑作だけでなく、すべての映画フィルムや映像芸術を残そうというのが、国際的なフィルム・アーカイブ間のコンセンサスになっています。ですから、世界各地の映画博物館やアーカイブでは、経年劣化を前に、映画や映像の復元と保存、活用が盛んに行われています。

市民の力で、「京都ニュース」の保存と活用を

上の写真は、市民憲章制定1周年記念の市民のつどい(1957年「京都ニュース」No.13)。 下の写真は、日本映画協会青年部会カクテルパーティで中村錦之助(萬屋錦之介)と東千代之介が写っています(1957年「京都ニュース」No.11 )。

今、私たちが計画していることは、大量に残っていた「京都ニュース」の35mmフィルム原版を洗浄、調査、データベース化、復元、保存して、デジタル活用などを進めたいということです。これには多額の費用がかかることから、一度にはできません。先ずは、どのような映像があるか、どのようなフィルムの状態かを調査することです。助けることができないほど、劣化しているフィルムもあるかもしれません。内容の把握とフィルム洗浄を行い、一日も早く延命を図ることです。

「京都ニュース」は、京都市の財産ですが、京都市民の宝でもあり、日本の宝とも言えましょう。35mmフィルムですから、国内外映画祭への出品も可能であり、今日的にはWebでの公開も考えられますが、資料的価値が高い映像なので、今活用するだけではなく、修復や復元をして保存し、将来にわたって有効活用できるように考えなければなりません。「京都ニュース」が100年後も健在でありますように、近い将来皆さまから寄付金を募る活動を発足したいと考えています。温かいご支援を賜りますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

 

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