おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2023.10.01infomation

京都国際映画祭2023~ アリス・ギイ生誕150年記念 活弁上映と講演会「アリスのいた映画史」

戦後の日本映画黄金時代を迎えていた1954年に“京都市民映画祭”がスタートしましたが、テレビの登場と入れ違いに映画人口が減少して、惜しまれながら1977年に終えます。その後、1997年に“京都映画祭”として再スタートし、隔年開催されてきましたが運営が難しくなって、2014からは、吉本興業を中心にした運営により“京都国際映画祭”として再々スタート。今年は10回目の節目を迎えます。連れ合いは、“京都映画祭”では企画委員を担当し、復元映画部門を中心に『何が彼女をそうさせたか』『一殺多生剣』『特急三百哩』『青空天使』などを発掘・復元して上映してきました。“京都国際映画祭”になってもこれを引き継がせていただき、サイレント・クラシック映画部門を担当させていただいています。

ご覧頂くプログラムの一つが、今年生誕150年のアリス・ギイ特集です。アリス・ギイは、1896年に世界初のフィクション映画『キャベツ畑の妖精』をつくった世界初の女性監督です。けれども、同時代のリュミエール兄弟やエジソン、メリエスに比べてほとんど知られていません。昨年『映画はアリスから始まった』(ナレーション、製作総指揮:ジョディ・フォスター)が公開され、大きな話題を集めましたから、ご覧になった方も多いでしょう。この作品は第71回カンヌ国際映画祭正式出品。第15回バンクーバー国際女性映画祭最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞しています。

京都の出町座で、この作品を見てSNSでこの映画のことを書いたところ、知人が「僕の知り合いにアリス・ギイについて今、本を書いてはる人がおられます」と教えてくれました。早速繋いでもらい、「本が完成したお祝いに当館で講演会をしてください」とお願いしました。その本『アリスがいた映画史』は今年7月に彩流社からめでたく出版されました。アリス生誕150年の年に間に合って、本当に良かったです‼

頭の中に、ずっと本の著者吉田はるみさん講演会のことを置いているときに、SNSで繋がっている三品幸博さんから2020年末に「アリス・ギイの1912年、13年の作品5本を持っている」とお聞きしたことを思い出し、「講演会の時に上映させてほしい」と依頼しました。この度、その16㎜フィルムをデジタル化して、英語字幕を吉川恵子さんに翻訳して頂いて準備したものを、10月14日18時から、京都国際映画祭2023のプログラムとして、坂本頼光さんの活弁と天宮遥さんのピアノ演奏付きでご覧頂くことになりました。MCは神田千歌さんです。

三品さんによれば、「アリス・ギイは25年前に感じるものがあって購入したものの、時が早過ぎてアリス・ギイは注目されず」だったそうです。そして、「グリフィスは“映画の父”という称号がありますが、アリス・ギイはグリフィスより映画の先輩。活動期間も重なり、グリフィスの映画に出演した役者がアリスの映画にも出演しているようです」と教えて下さいました。前述の『映画はアリスから始まった』でもインタビューした著名な映画人や研究者は異口同音に「アリス・ギイ?知らない」と答えていましたね。どうして、世界映画史から彼女の名前が抜け落ちてしまっていたのでしょうか?そうした背景を、アリス・ギイの下掲5作品上映に続いて、吉田はるみさんにお話して頂きます。

お聞きしている内容は、

…………リュミエールのシネマトグラフが世間を驚かせたころ、一人の若い女性がファンタジックな寸劇を映像にすることを思いつきました。世界最古の映画会社、フランスのゴーモン社の秘書だったアリス・ギイ(Alice Guy,1873~1968)です。やがてゴーモン社のフィクション映画を全て任されるまでになりますが、キャリア半ばで結婚し、アメリカに渡ります。その後アメリカでも映画作りを行い、生涯で1000本ともされる多数の作品を世に出すのですが、どういうわけか映画史からすっぽりと抜け落ちてしまいました。ベルエポックから60年代までを生きた一人の女性として、たいへん興味深いアリス・ギイの一生を、『アリスのいた映画史』の著者が最初期の映画事情とともにお話します。…………

私見ですが、アメリカは映画を歴史とは考えず、映画産業として発展させます。フランスでは、ジョルジュ・サドールによって『世界映画史』(映画史のバイブル)がまとめられます。そのサドールが、女性であるアリスを単にゴーモンの秘書ということで、今でいうスクリプター程度にしか考えていなかったのかもしれません。それで『世界映画史』にアリスを加えなかったのではないでしょうか。サドールがアリスを知らなかった筈はありません。アリスが映画を歴史とは考えないアメリカへ渡って行ったことへの反発があったかも知れないとも思います。

◎会場が狭いので恐縮ですが、定員25名。無料。申し込みは10月9日23:59分までに京都国際映画祭2023公式サイトからお願いいたします。申し込み多数の場合は抽選で、当選した方には係から連絡を差し上げます。

上映作品を簡単に紹介します。

『仕込まれたハーモニー』(原題“Canned Harmony”、1912年)。ハーバート・ブラシェと結婚したアリスがアメリカに渡り、1910年に設立した映画会社ソラックス・フィルム・カンパニーで作った作品。吉田はるみさんによれば、「以後現在に至るまで、スタジオ付きの自分の映画会社を持った女性監督はアリス・ギイの他に誰もいない」(125頁)そうです。この映画が作られたのと同じ1912年6月、ムービング・ピクチャー・ワールド誌に「女性が男性に肩を並べるその時がやってきた。映画監督としても経営者としても力量ある女性が登場した。マダム・アリス・ブラッシェ。女性らしさを損なうことなく、妻であり母でありながらプロフェッショナルな能力を発揮している」(吉田本127頁)と載っているそうです。同年秋にはフォートリーに最新式スタジオも完成し、そこで作られた『ディック・ウィティントンと猫』は「これぞ映画の真髄」とメディアが褒めたたえたそうです。当時のアリスへの評価を知ると尚更、彼女の名前がなぜ映画史から抜け落ちたのかが気になります。女は“領域外にいるべきだ”と考えた男性社会だったからなのでしょう。

さて、内容についてですが、音楽に夢中の父親は娘エヴリンを音楽家以外の人と結婚させないため、一計を案じて、娘の婚約者はヴァイオリン奏者のふりをして、娘は蓄音機で音楽を奏でる作戦にでます。さて、その首尾は如何に?

『肘掛椅子の少女』(原題:“The Girl in the Arm -chair”,1912年)。

青年フランク・ワトソンはギャンブルに手を出して、高利貸から借りた500ドルの借金を返さなければならない窮地に陥っています。悪夢に惑わされ正常な判断が出来なくなっていた彼は、父が鍵を掛け忘れた金庫から、高利貸にそそのかされ500ドルに手を出してしまいます。肘掛椅子で休んでいた少女ペギー(父の友人ロバートの忘れ形見)は、その一部始終を聞いていて、彼を救うためにある計画を考えます。少女役フランシュ・コーンウォールは、アリス・ギイの主演女優としてよく知られています。

『結婚の制限速度』(原題:“Matrimony's Speed Limit”、1913年)。

相場で失敗したフラウニーは、マリアンに婚約破棄を伝えます。「もう身の破滅だ!」、フラウニーは彼女からの資金援助も拒否します。妙案を思いついたマリアンは「7月18日正午までに結婚すれば叔母の財産を贈与する 法律事務所」と打電します。電報を受け取ったフラウニー、「今日がその7月18日、正午まであと12分しかない!」。彼は出会う全ての女性に必死にプロポーズしますが、相手は見つかりません。絶望したフラウニーは、次に来た車に惹かれて死のうと道路に寝そべります。残りは1分。

彼がプロポーズする中にベールに包まれたアフリカ系アメリカ人が登場しますが、実際には白人女優が顔を黒くして演じています。「20世紀初頭アメリカ文化のジェンダー、階級、人種の幻想と不安をコミカルに思索する重要な歴史的コンテクストを表している」と述べる研究者もおられます。

『ヘンダーソン巡査』(原題:“Officer Henderson”、1913年)。

ニューヨーク警察本部から「女装してスリを捕らえよ」の命令を受けたヘンダーソン巡査とウィリアムズ巡査。早速女装してひったくり犯に接触し、翌日カフェでの再会を約束したヘンダーソンは、家に戻って衣裳をクローゼットに吊るして外出。事情を知らない妻は夫の留守中に衣装を見つけて、夫を罠に嵌めようとその衣装を着て翌日同じカフェへ。その間、ヘンダーソンは女装するため自宅に戻り、衣装がなくなっていることに気付きます。仕方なく制服のまま任務についた彼は、女装して仕事中のウィリアムズと遭遇しヒソヒソ話。その親密ぶりを目撃したヘンダーソン夫人の怒りは頂点に。

三品さんに『ヘンダーソン巡査』のように警官がおとり捜査で女装する映画などは、当時でも珍しい視点の映画のようです」と教えて貰いました。

『分割された家』(原題:“AHouse Divided”、1913年)。

ジェラルドと愛妻ダイアナは、セールスマンがこぼした香水と配達人が忘れていった男物手袋によってお互いが不貞を働いているのではないかと疑念を抱くようになります。弁護士に相談して家庭内別居をすることに同意します。ある日「今夜お客様を招待します」とダイアナから届いた伝言メモで急いで帰宅したジェラルドは、平静を装って母親やゲストを迎えます。そんな中、休みのはずの家政婦が忘れ物を取りに来て、カギを掛け忘れた地下室の窓から侵入。その物音に気付いたダイアナは「地下室に泥棒がいる。捕らえて」とジェラルドにメモを渡し、パニック状態に。

以上5作品をご覧頂いた後で、吉田はるみさんの講演と続きます。当日はサイン会もありますので、この機会にぜひ著書『アリスのいた映画史』をお買い求めください‼

坂本頼光さんの活弁と天宮遥さんの演奏付きで観るアリス・ギイの世界を大いに楽しみましょう‼ 多くの皆様からのお申し込みを心よりお待ちしています。

 

 

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