おもちゃ映画ミュージアム
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2016.01.04infomation

第5回無声映画の夕べ~『実録忠臣蔵』講演要旨

12月12日に開催した「第5回無声映画の夕べ」では、新たに見つかって大きな話題になった日本映画最初の大スター・尾上松之助最晩年の作品『実録忠臣蔵』(1926年、日活大将軍。池田富保監督)を上映しました。上映に際し、東京からお招きした活動写真弁士・坂本頼光さんに活弁をお願いし、力のこもった熱演で観客を魅了してくださいました(その様子については、先にスタッフブログで書きました)。

当日は上映に先立って、京都大学大学院人間環境学研究科非常勤講師で、神戸映画保存ネットワーク研究員としても活躍されている羽鳥隆英さんに講演をしていただきました。演題は「欠落した環を埋める―『実録忠臣蔵』発見の映画史的意義」です。

昨日、羽鳥さんから講演要旨が届きましたので、早速ここに転載させていただきます。羽鳥さんには、ご多忙のところ快くお引き受けくださいまして、誠にありがとうございました。この場をお借りして心より御礼申し上げます。

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       「欠落した環を埋める―『実録忠臣蔵』発見の映画史的意義」

      京都大学大学院非常勤講師・神戸映画保存ネットワーク研究員    羽鳥隆英

松の廊下の浅野内匠頭刃傷から大石内蔵助ら赤穂浪士の吉良邸討入へ。元禄赤穂事件に取材した忠臣蔵は、江戸期から日本人が愛し続けた物語です。映画の場合も、最初期から1960年代まで、大手映画会社が自社の権勢を誇示し合うように、お抱えの花形役者を顔見世的に配役する忠臣蔵を製作したのは周知の通りです。とは言え、忠臣蔵の映画研究は端緒を開いたばかりです。今回は二つの視点から、忠臣蔵の映画化に新たな光を投じます。

初めに、再編集の問題に着目します。トーキー最初の忠臣蔵と知られる衣笠貞之助監督『忠臣蔵』(1932年)には、今日いささか奇妙な異版が現存します。衣笠作品を基本に据えつつ、赤穂浪士の一人赤垣源蔵を描いた池田富保監督『赤垣源蔵』(1938年)の名場面「徳利の別れ」などを挿入した再編集版なのです。衣笠作品は松竹、池田作品は日活の製作ですから、いつ・どこで・だれが再編集したのか興味を惹かれます。1956‐57年頃に地方で巡回上映されたらしい、とまでは突き止めましたが、より詳細な調査は今後の課題です。いずれにせよ、1932年当時の松竹の花形役者を動員した衣笠作品に、剣劇王「阪妻」主演の池田作品を挿入し、より豪華な「夢」の配役を目指したのは確実です。

このように、忠臣蔵は映画史の片隅で様々な化学反応を起しました。例えば黒澤明監督『影武者』(1980年)を勝新太郎主演で見るという「夢」を叶えるのは、いかにCGが進化した今日でも非現実的です。これに対し、浅野内匠頭は大映の市川雷蔵、吉良上野介は東映の月形龍之介の配役で松の廊下を見るという「夢」であれば、既存の映像を的確に編集すれば、必ずしも不可能とは言い切れません。実際、今回新たに発見された9.5mm版『実録忠臣蔵』(1926年)にも、討入場面に同じ池田富保監督『大忠臣蔵』(1930年)からと思われる断片の挿入(この事実に私が気づいたのは、早稲田大学演劇博物館の企画展『寄らば斬るぞ!新国劇と剣劇の世界』を統括するに際し、『大忠臣蔵』の討入を含む玩具映画の剣劇場面集を太田米男所長から拝借し、連日会場で上映したからです)が認められます。忠臣蔵の再編集を辿り直す旅路は、あるいは日本映画史の傍流に蓄積し、いつか置き忘れられた観客の「夢」を辿り直し、新たな光を投じる旅路かも知れません。

今度は運動の問題に着目します。浅野内匠頭が吉良上野介に刃傷におよぶ松の廊下は、忠臣蔵の開幕を告げる場面です。忠臣蔵の映画化の歴史を辿り直すとき、興味を惹かれるのは、1910年代‐20年代の現存する作例の場合、画面左手の浅野が右手の吉良に斬り掛かるのに対し、1930年代からは基本的に運動の方向が逆転(画面右手の浅野が左手の吉良に刃傷)する点です。こうした逆転は、あるいは歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』から映画が離陸する過程に関連するのかも知れません。1910年代‐20年代の作例は、忠臣蔵の本家『仮名手本忠臣蔵』を踏襲し、画面左手に浅野、右手に吉良を配置した、ところが、この配置では浅野が吉良に小刀を振り上げるとき、浅野の顔面が浅野自身の右手(浅野の着る大紋は特に袖が長い)で隠れかねない、重要な場面で折角の二枚目の顔面が隠れては勿体ない、ならば運動の方向を逆転しよう、と考えたのではないか…。日本映画における殺陣の研究は蓄積も浅く、まだ仮説の段階ですが、さらに議論を深化したいと思います。

とは言え、今回発見された9.5mm版『実録忠臣蔵』では、こうした仮説を軽々と飛び越える、「そう来たか!」と唸らせずには置かない演出が見られます。直近では1月9日(土)、本作の東京初上映を含む研究集会が開催されます。未見の皆様には、ぜひご自身で松の廊下を目撃していただきたいと思います。詳細は以下のURLをご参照ください。

http://kyodo.enpaku.waseda.ac.jp/activity/20160109.html

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早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点公募研究成果報告会「無声期の映画館と音楽―日活関連楽譜資料『ヒラノ・コレクション』から考える」http://silentfilmmusic.wix.com/empaku-hirano

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