おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2018.03.27column

お宝アニメ『黒猫萬歳』について続編

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前回このブログで、吉岡映像さんが見せてくださった『玩具の行進』が、実は貴重な『黒猫萬歳』(1933年)だと書きました。Facebookとツイッターでもそのことを書きましたら、Facebookに東京国立近代美術館フィルムセンターWEBサイト「日本アニメーションクラシックス」(JAFC)立ち上げに尽力された方から直ぐに連絡がありました。

この映像は、『黒猫萬歳』ではなく、実は同じJ・O・トーキー漫画部のオモチャ箱シリーズの第1作『特急艦隊』(1933年)なのだそうです。JAFCのための作品調査中に、日本映画史研究者・佐崎順昭さんが、多くの方が底本にされている『日本アニメーション映画史』(1978年、プラネット発行)の挿図のキャプションが誤っていることを発見されたのだそうです。キャプションは「黒猫万歳」ではなく、「特急艦隊」と書くべきだったのです。フィルムセンターでは、JAFCのために「権利者等に不明事項のある作品一覧」を公開されましたが、情報を得られなかったことから、『特急艦隊』はJAFCオンライン公開対象から外され、内部でこれまでのタイトル『黒猫萬歳』から『特急艦隊』に修正したにとどめたそうです。

できることなら、調査で明らかになったことは、内部で修正で終わりにせず、何らかの方法で広報していただけたらと思います。

『特急艦隊』は、素材の状態は良くないですが、少し編集が異なるものなど複数あると教えて貰いました。そのうちの1本神戸映画資料館所蔵のフィルムについて、今日安井館長から連絡がありました。

これまで神戸映画資料館で『黒猫萬歳』としてデータ登録していた作品を改めて検尺されたところ、35㎜で426フィートあったそうです。24コマ映写だと5分弱になり、エンドマークが出ていたことも確認されました。『日本アニメーション映画史』の『特急艦隊』の項目に、6分とありますが、粗筋については具体的に書かれていなかったことから、フィルム冒頭部分欠落もあり、これまで気付かなかったのかもしれません。

キネ旬昭和8年10月21日号(通巻486号)38頁に以下の記載があります。

特急艦隊(一巻)JOトーキー漫画。玩具箱シリーズ第一話。筋――真夜中である。子供達が昼の疲れでグッスリ眠つてゐる間に玩具箱の人形達は鉄道建設に忙しい。クレヨンの枕木、シロフォンの鉄橋、etc、建設の唄の合唱、鉄道は完成した。玩具の町から食堂へ。喜びの声に送られて特急列車が走り出す。トンネルを潜り、鉄橋を渡つて汽車の旅は つづく。その時、突如大音響、脱線、衝突だ。それは玩具列車の到着を喜ばぬ食堂ネズミの仕業であつた。鼠は驚く人形達を鼠とりに閉め、美しい女人形を浚つて逃げ出した。一大事、玩具国の総動員、裏庭の池で鼠の舟と玩具軍の艦隊との大海戦が開始される。

前回ブログに登場した高槻真樹さん流に粗筋を書くと、吉岡映像さんが見せてくださった作品は、タイトルなし→おもちゃたちが輪になって踊っている→おもちゃの列車に乗り込む→天井裏からミッキ―マウスそっくりの鼠が3匹出てくる→1匹がドミノマスクをつけて線路に発砲し、列車を転覆させる→人形をピストルで脅して人質にして船で逃走する→フェリックスそっくりの猫らも船で追いかけてマッチやパチンコの玉で攻撃する→降参した鼠に卵の殻を被せて、へのへのもへじを書いて、完。キネ旬の『特急艦隊』記述に合致することが確認できます。

夕べ作品名が『特急艦隊』だと教えてくれた人に確認したところ、本来の『黒猫萬歳』が未発見のままだとわかりました。一連の経緯を安井館長さんに伝えましたところ、「『特急艦隊』のフィルムもあるので比較してみます。」との返事をいただき、驚きました。そして、夜になってその比較結果が届きました。内容は本来の『特急艦隊』そのもので、冒頭のタイトルもあったそうです。エンドマークは他のものを転用したらしく少しばかり欠落があるようですが、纏めれば長尺版『特急艦隊』ができるかもしれないとのことでした。

安井さんは昨年12月10日、岡山県映像ライブラリ―センターで開催された日本アニメ誕生100周年記念イベント「幸内純一(岡山出身)と日本の初期アニメーション」に招かれたおり、この『黒猫萬歳』(実は『特急艦隊』)を含む初期アニメ7本を上映し、映画史研究家世良利和さんと対談をされています。もし、フィルムセンターでの調査結果が公表されていれば、このイベント時には、正しいタイトル名で上映できたのに、と惜しく思います。

高槻さんは、明らかになった『特急艦隊』について、「少なくともネット上ではフィルムセンターでも上映された痕跡がなく、これほど話題性のありそうな作品がなぜほとんど上映された記録がないのか不思議です。同じ作者の『絵本1936年』は、かなり観た人が多いようですが」と書いてくださいました。『絵本1936年』はオモチャ箱シリーズの第3作で1934年製作。YouTubeで見ることができます。このシリーズは3作品ともミッキーマウスそっくりの鼠が悪役の設定なんですね。

さて、前回のブログで新高校2年生の谷廣和哉さんについて書きましたが、彼から今日「原題、制作者不明となっていた作品についてのご連絡」というメールが届きました。当方のデータは、追々修正していきますが、先ずはその内容をコピペして紹介します。

・南京街(化猫騒ぎ)
原題:Alice Chops the Suey
公開日:1925年10月30日
監督:ウォルト・ディズニー
製作:ウォルト・ディズニー・プロダクション
(アリス・コメディー)

 ・お化けと消防隊
原題:Going to Blazes
公開日:1933年4月10日
監督:ウォルター・ランツ、ビル・ノラン
製作:ウォルター・ランツ・プロダクション
(オズワルド)

・狼ベビー
原題:The Big Bad Wolf(日本語題・・・赤ずきんちゃん)
公開日:1934年4月14日
監督:バート・ジレット
製作:ウォルト・ディズニー・プロダクション
(シリー・シンフォニー)
 
・スピード違反
原題:Betty Boop's Trial
公開日:1934年6月15日
監督:デイヴ・フライシャー
製作:フライシャー・スタジオ
(ベティ・ブープ)
 
・茶目とワン公
原題:Yelp Wanted
公開日:1931年7月22日
監督:ディック・ヒューマー
製作:チャールズ・ミンツ・プロダクション
(スクラッピー)
 
・OSSO木こり
原題:Bosko the Lumberjack
公開日:1932年9月3日
監督:ヒュー・ハーマン
製作:ハーマン=アイジング・プロダクション
(ルーニー・テューンズ)
 
・いたづらネズ公
原題:The Yankee Doodle Mouse
公開日:1943年6月26日
監督:ウィリアム・ハンナ、ジョセフ・バーベラ
製作(配給):メトロ・ゴールドウィン・メイヤー
 
・不詳(時代劇漫画)
原題:日乃丸旗之助 ギャング討伐
(フィルムセンターの『発掘された映画たち2018』で上映された同内容の作品がこのタイトルだったので…)
 
・ミッキーの冒険電車
原題:Smile, Darn Ya, Smile!
公開日:1931年9月5日
監督:ルドルフ・アイジング
製作:ハーマン=アイジング・プロダクション
(メリー・メロディーズ)
 
・ミッキー漫画 スピーデー
原題:不明
公開年:1927年-1929年の間?
監督:ウォルト・ディズニー(?)
製作:ウォルト・ディズニー・プロダクション、ウィンクラー・プロダクション(?)
(オズワルド)
(絵柄からディズニー、もしくはウィンクラー時代の作品と推定。恐らく現時点では映像が発掘されていない作品。)
 
・ミッキー漫画 クリスマス
原題:Empty Socks
公開日:1927年12月12日
監督:ウォルト・ディズニー
製作:ウォルト・ディズニー・プロダクション、ウィンクラー・プロダクション
(オズワルド)
(2017年にフィルムが再発見されたとの情報あり。ニュース記事内のスチール、残されたプロットから推測するに、本フィルムと同内容と思われる。)
 
・ミッキー漫画 消防夫
原題:Empty Socks
公開日:1927年12月12日
監督:ウォルト・ディズニー
製作:ウォルト・ディズニー・プロダクション、ウィンクラー・プロダクション
(オズワルド)
(2017年にフィルムが再発見されたとの情報あり。 ニュース記事内のスチール、残されたプロットから推測するに、本フィルムは『クリスマス』の続きにあたる断片だと思われる。)
 

・ミッキー漫画 アフリカ探検
原題:Africa Before Dark
公開日:1928年2月20日
製作:ウォルト・ディズニー・プロダクション、ウィンクラー・プロダクション
(オズワルド)
(2009年にフィルムが再発見されている。)

 
・夢の怪傑
原題:The Gay Gaucho
公開日:1933年11月3日
監督:ヒュー・ハーマン、ルドルフ・アイジング
製作:ハーマン=アイジング・プロダクション、ヴァン・ビューレン・スタジオ
(カビー・ベア)
 
・音楽合戦
原題:Music Land(音楽の国)
公開日:1935年10月5日
監督:ウィルフレッド・ジャクソン
製作:ウォルト・ディズニー・プロダクション
(シリー・シンフォニー)
 
なんと現時点で完全な映像が発掘されていないと思われる作品も幾つか含まれていたので、そういった作品についてはフィルム内容から推測した情報を記載しています。 何かのお役に立てて頂ければ幸いです…!
 
という言葉で結んでありました。今回の『黒猫萬歳』から始まった一連のやり取りから、如何に多くの人が渡辺泰先生と山口且訓さん著『日本アニメーション映画史』を頼りにされているのかと思いました。資料もほとんどない中で編まれるのは随分と大変な作業だったろうと思います。パソコンをされない渡辺先生は、今も膨大な資料と格闘しながら研究を重ねておられ、当館でわからないものが見つかると、惜しみなく知恵袋になって支えてくださいます。
 
しかしながら、『日本アニメーション映画史』発行から既に40年。今回のことも一つのきっかけではありますが、改訂版や後続の頼れる本の出現も待たれる時期ではないでしょうか。今は昔と異なり、その気になりさえすれば、古い雑誌等の資料や映像も見られる良い環境にあります。谷廣さんのように関心を持つ若者が、これから活躍して、更新していってくれることを心から願っています。
 
それから、2月12日L.スタレヴィッチ監督について研究発表をしていただいた桃山学院大学国際教養学部准教授佐野明子先生の論文「1928-45年におけるアニメーションの言説調査および分析」も、これから研究を進めていく方の参考になりますので、こちらに紹介させていただきます。

 

 

 

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