おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2025.05.04information

今年の正会員特典DVD『ちゃんばら時代の女たち』ができました!

11枚目の正会員特典DVD「ちゃんばら時代の女たち」を用意しました。第13 回無声映画上映会@旧伴家住宅で上映した内容を、今回改めて編集し直しました。

日本の無声映画自体は残念ながらほとんど残っていませんが、上映後に家庭用に切り売りされた“おもちゃ映画”によって、辛うじて剣戟映画全盛時代の様子を窺い知ることができます。とはいえ、フィルムは決して安くはなかったので30秒からせいぜい2~3分と短いものです。手回し映写機でくるくる回して映写して楽しむには、動きの激しい剣戟シーンが喜ばれました。そのため、動きの少ない女優さんが登場する“おもちゃ映画”はそう多く残っていません。剣戟シーンですら短い状態なので、女優さんたちが登場してもあっという間ですが、所蔵している“おもちゃ映画”の中から、1925年~37年につくられた女優さんが登場する映画の断片を集めてみました。

①芸名不詳…『国定忠次(1925年/東亜マキノ等持院。牧野省三監督。澤田正二郎主演)。剣劇映画は渡世人や侍たちの男の世界であり、女性はあくまで添え物的な存在でしかありませんでした。

いきなりスクリーンショットが不鮮明な画像で申し訳ありません。当館に寄贈いただいた16mm版から。短縮版として販売されたときに“忠治”の漢字が“忠次”になったものと思われます。「日本映画の父」牧野省三は女形を使い、様式美の歌舞伎劇からやがて写実的な映画劇を目指しました。リアルな剣劇をもたらしたのは新国劇の澤田正二郎でした。初期の映画には名前がわかっていない女優さんも多いです。

②環 歌子…『雲母阪』(『雲母坂の仇討』)(1924年/マキノ映画等持院。沼田紅緑監督、阪東妻三郎主演)。

(字幕)乱戦数刻 流石の甚七もつかれ果て 遂にお俊と共に自殺してしまった

③森 静子…『尊王』(1926年/阪妻プロ松竹。志波西果監督、阪東妻三郎主演)で、舞妓雛菊役。阪妻映画に可憐な役で色を添えた女優です。

④梅村蓉子…『地雷火組』(1928年/日活太秦。池田富保監督、大河内傅次郎主演)で、芸妓歌次役。

⑤梅村蓉子…『平手造酒』(1928年/日活京都。志波西果監督、大河内伝次郎主演)。
(字幕)“泣いて呉れるな…俺は死に度い時に死ぬのだ…夏江…夏江…”

⑥梅村蓉子…『血煙荒神山』(1929年/日活太秦。辻吉郎監督、大河内伝次郎主演)。
(字幕)“これは離縁状…”
(字幕)“お前を女房に 持ってゐちゃ 俺の男がたたねえ 何も云わず今直ぐ 安濃徳の処へ 帰ってくれ”

このDVDには、『平手造酒』(1928年/日活太秦。志波西果監督、大河内傅次郎主演)の夏江役、『血煙荒神山』(1929年/日活太秦。大河内傅次郎主演)の吉良仁吉の女房お菊役で登場。溝口健二監督の名作『祇園の姉妹』(1936年/日活太秦)の姉芸妓役でも知られています。

⑦歌川絹枝…『いざよい砧』(1933年/右太プロ松竹。白井戦太郎監督、市川右太衛門主演)。

(字幕)“憚り乍ら わ組の伊太郎 お妙さんのことは 身に代へ命に代へて…”

⑧常盤操子と比良多惠子…『瞼の母』(1936年/千恵プロ日活。衣笠十四三監督、片岡千恵蔵主演)。

⑨木下千代子…『血煙高田馬場』(1928年/日活太秦。伊藤大輔監督、大河内伝次郎主演)で、堀部弥兵衛の娘お幸の役。中山安兵衛が堀部親子に見初められ、お幸の婿になる。赤穂浪士の一人。『忠臣蔵』外伝の一つです。

(字幕)“祖父の危急に助勢の為…” “何?祖父上の危急!縄だすきは不吉でござるぞ”

⑩桜木梅子…『狐火』(1927年/日活大将軍。清瀬英次郎監督、谷崎十郎主演)。 画像略

⑪入江たか子…『栗山大善』(1936年/日活太秦。池田富保監督、大河内伝次郎主演)。 画像略

⑫山田五十鈴…『新編丹下左膳戀車の巻』(1940年/東宝東京。萩原遼監督、大河内伝次郎主演)。 画像略

⑬山田五十鈴…『丹下左膳(第2篇)剣劇の巻』(1934年/日活太秦。伊藤大輔監督、大河内伝次郎主演)。 画像略

⑭山田五十鈴・川上弥生・滝花久子…『元禄快挙大忠臣蔵』(地動の巻)(1930年/日活太秦。池田富保監督、大河内伝次郎主演)。

雛菊役の山田五十鈴と深雪太夫役の川上弥生。山田五十鈴は有名ですが、まだ禿(かむろ)に近い駆け出し時代の姿です。

滝花久子(田坂具隆監督の奥さん)は刈藻太夫役。『東京行進曲』(1929年、日活、溝口健二監督)や『路傍の石』(37年、田坂具隆監督)など、お母さん役からおばあさん役まで息の長い女優さんとして知られていますが、実は世界的カメラマン宮川一夫が日活京都に入社できたのは、親友(野球仲間)のお姉さんである滝花久子の推薦があったからです。ちょっとした裏話です。

⑮酒井米子…『実録忠臣蔵』(1926年/日活大将軍。池田富保監督、尾上松之助主演)。

当館に寄贈された中にパテ・ベビー版『実録忠臣蔵』があり、映画祭などで上映しましたが、別に東寺ガラクタ市で入手した35mmフィルムの断片もあって、酒井米子が演じる刈藻太夫のシーンは、後者の方の画像が綺麗だったので、それを用いました。松之助時代から大河内傅次郎が日活を支えた時代の幹部級女優さんでした。

⑯酒井米子…『八百蔵吉』(1929年/日活太秦。辻吉郎監督、河部五郎、酒井米子主演)。

(字幕)“流石八百蔵吉五郎だ 騒がれるだけの腕はあるね”

⑰千早晶子…『浪花かがみ』(1930年/松竹下加茂。小石栄一監督、林長二郎<長谷川一夫>主演)。

林長二郎の相手役。のちに、林長二郎の多くの作品を演出した衣笠貞之助監督の奥さんになります。

⑱浦波須磨子…『切られ与三』(1928年/松竹下加茂。小石栄一監督、林長二郎<長谷川一夫>主演)。 画像略

⑲深水藤子…『飛龍の剣』(1937年/日活京都。稲垣浩監督、阪東妻三郎主演)。 画像略

⑳星 玲子…『自来也』(1937年/日活京都。マキノ正博監督、片岡千恵蔵主演)で、綱手姫役。後に東映の重役になったマキノ光雄夫人に。

㉑鈴木澄子…『児雷也』(1936年/新興キネマ。山内英三監督、大谷日出夫主演)。

化け猫映画が大ヒットしたバンプ女優の代表、鈴木澄子。

㉒原 駒子…『からくり蝶』(1929年/東亜キネマ。吉田信三監督、嵐寛寿郎主演)。 画像略

㉓原 駒子…『文武太平記』(1935年/寛プロ新興。吉田信三監督、嵐寛寿郎主演)。 画像略

㉔貴志洋子…『中山道を行く退屈男』(1935年/右太プロ松竹。古野英治監督、市川右太衛門主演)。 画像略

㉕生駒英子…『安政異聞録 浄魂』(1927年/右太プロ松竹。押本七之助監督、市川右太衛門主演)。
(字幕)“春之丞様 お玉も一緒に死なせてください” “汚れた体は お互いに泥の中へ 死んでゆくのだ” 画像略

㉖マキノ智子(牧野輝子)…『江戸怪賊伝 影法師』(1925年/東亜マキノ。二川文太郎監督、阪東妻三郎主演)で、女盗弁天お栄の役。マキノ智子は牧野省三の四女で、長門裕之、津川雅彦のお母さんです。

㉗生野初子…『女盗縮緬頭巾』(1927年/高木新平プロ。原敏郎監督、生野初子主演)。 画像略

㉘山下澄子…『恋の簪』(1927年/帝国キネマ。森本登良夫監督、市川百々之介主演)。 画像略

㉙伏見直江…『新版大岡政談』(1928年/日活太秦。伊藤大輔監督、大河内伝次郎主演)。 画像略

㉚伏見直江…『忠次旅日記』(1927年/日活太秦。伊藤大輔監督、大河内伝次郎主演)。

以上です。

おもちゃ映画ですから、ほんの数秒しか出てきませんが、男優に負けず、無声映画時代を支えた女優さんたちです。残念ながら今ではほとんど忘れられていますので、こうした機会に知って頂きたいです。昭和初頭は剣戟映画全盛の時代でした。殺伐とした剣戟映画、殺陣が格好いい男優さんを支え、花を添えた煌びやかな女優さんたちにも目を向けてお楽しみいただけたら幸いです。

玩具映画には、時代劇や漫画映画(アニメーション)、ニュース映像はありますが、意外と現代劇は少ないです。ほとんどないと言ってもいいくらいです。玩具会社とのお付き合いがなかったのかも知れませんが、阪東妻三郎や大河内傅次郎、林長二郎(長谷川一夫)などちゃんばらスターたちが全盛で、熱狂的な大ファンが支えていたのでしょう。フィルムの値段が高かったこともあり、映画ファンの層も、今のような身近なタレントのファンとは違ったことも背景にあるのかもしれません。

記事検索

最新記事

年別一覧

カテゴリー