2020.03.08column
第15回大阪アジアン映画祭見聞録(1)
3月6日に始まった第15回大阪アジアン映画祭。折からの新型コロナウィルス感染拡大を防ぐため、大阪府・市ともイベント自粛を要請しているため、当初計画していたセレモニーなどを全て取り止めざるを得ず、辛うじて上映のみ実施できることになりました。毎年、参加される国内外のお客様と出会えるウェルカムパーテーもなくなり、その場をとても楽しみにしていただけに、とても残念で、寂しいです。
広告をできるだけ控え目にしなければならず、ポスターの掲示もご覧の通り。それぞれの作品ごとのゲストの登壇もなく、本当に寂しいあり方でしたが、関係者と出会うことにお互い「上映できただけでも良かった」の会話を交わしました。キャンセルもあったようですが、それでも熱心な映画ファンがたくさん集い、回を重ねて15回の積み重ねの大きさと重要さを思いました。
4月1日から当館では大阪芸大映像学科・歴代学生映画「THE FIRST PICTURES SHOW 1971-2020」を始める準備を進めていますが、卒業生の方々幾人とも会場で出会い、「おおっ!元気か‼」の挨拶で始まって、休憩時間はその話で持ち切り。皆さん、上映を楽しみにしてくださっています。でも、今致し方なくあちこちで展開されている無観客では、「ちと寂しい」(山中貞雄監督の言)。大勢のお客様に観てもらいたいので、新型肺炎問題の一日も早い終息を願うばかりです。
2月に映画祭事務局から受け取った情報では、
●上映本数は過去最多の64作(うち、世界初上映14作、アジア初上映3作、海外初上映12作、日本初上映24作)。
<世界初上映>
クロージング作品『蒲田前奏曲』(日本)をはじめ、レオン・ダイ出演『君の心に刻んだ名前』(台湾)、アジアでも注目されている城定秀夫監督が名作演劇を映画化した『アルプススタンドのはしの方』(日本)など14作。
<海外初上映>
メトロマニラ映画祭審査員特別賞『愛について書く』など今年も勢いが衰えないフィリピンから4作のほか、永瀬正敏主演の台湾映画短編『RPG』など12作。
<アジア初上映>
『東京不穏詩』(OAFF2018)のアンシュル・チョウハン監督最新作『コントラ』(日本)、ポーランドに生きるベトナム人を描いたボブリックまりこ監督作『フォーの味』(ドイツ・ポーランド)、撮影監督・俳優としても活躍する岸建太朗監督作『ハンモック』(日本)の3作。
<日本初上映>
オープニング作品『夕霧花園(原題)』(マレーシア)をはじめ、現地で大ヒットの『少年の君』(中国・香港)、『花椒の味』(中国・香港)、ロイ・チウ主演『ギャングとオスカー、そして生ける屍』(台湾)、『新聞記者』などで撮影監督を務める今村圭佑監督の長編デビュー作『燕 Yan』(日本)、『大和(カルフォルニア)』(OAFF2017)の宮崎大祐監督最新作『VIDEOPHOBIA』(日本)など24作。
●製作国は過去最多の23の国と地域。
●常設のコンペティション部門、インディ・フォーラム部門に加え、今年新たに「特別注視部門」を設置。まだポピュラーにはなっていなくても、今年、特に注視しておきたい潮流、才能を厳選してピックアップ。(暉峻創三プログラミング・ディレクターの肝煎り。)
●特別招待部門のうち1作は、神戸女学院大学文学部英文学科の協賛により、バングラデシュの若い女性たちが労働組合を作るべく奔走する姿を描いた『メイド・イン・バングラデシュ』を上映。(本作に関するシンポジウムも開催。詳細は後日。)
●特集企画は、恒例の台湾映画、香港映画、東南アジア映画の“今”をお届けするほか、韓国(朝鮮)映画が誕生101周年を迎えたのを記念し、今日に至る重要な社会史に根差した作品を特集。『君の誕生日』『ポーランドへ行った子どもたち』『はちどり』『マルモイ ことばあつめ』の4作を上映。
●その他、4年目となる協賛企画<芳泉文化財団の映像研究助成>に加え、今年新たに、ミュージアム活性化実行委員会との共催で2021年度開館予定の大阪中之島美術館に収蔵される具体美術協会の記録映像を上映。
“お帰りなさい監督”
15回記念の特別イベントはありませんが、『夕霧花園(原題)』のトム・リン監督をはじめ、過去にOAFFで作品を上映した13人の監督たちが、新作を携え続々と大阪に帰ってきます。
(トム・リン、安川有果、デレク・ツァン、ナワポン・タムロンラタナリット、アンシュル・チョウハン、ヤン・リーナー、キム・テシク、藤元明緒、三澤拓哉、いまおかしんじ、宮崎大祐、リー・チョクバン、アモス・ウィー)。
さて、梅田ブルグ7で行われたオープニング上映は、上記“お帰りなさい監督”で紹介されている『夕霧花園』(2019)でした。日本人の庭師ナカムラ・アリトモ役として阿部寛さんが英語でのセルフに挑んでおられました。京都国際映画祭2016で、阿部さんは国際的な影響力を持つ俳優に贈られる「三船敏郎賞」を受賞され、スピーチでも海外の作品にどんどん取り組むと挨拶されていましたから、有言実行ですね。主人公のユン・リン役のマレーシア出身の女優リー・シンジェさんがとても魅力的でした。あぁ、実際に観たかった‼
マレーシアの同名小説を元に、台湾のトム・リン監督が撮った本作は、昨年11月に開催された台湾の第56回金馬奨で作品賞、監督賞、主演女優賞をはじめとする9部門にノミネートされました。第二次世界大戦時、日本軍に捕らえられ拷問を受ける若き日の主人公ユン・リン、妹は慰安婦にさせられ基地でレイプされる残虐シーンは、目を背けたくなりますが、かつて日本軍による行状が海外でどのように捉えられているのかをうかがい知ることができます。日本映画では、まず描かれることがないシーンでしょう。YouTubeにあった予告編はこちら。
そして、昨夜見に行ったシネ・リーブル梅田がある大阪梅田スカイタワービルの東館。こちらにもたくさんの映画ファンが来ておられました。この日鑑賞したのは、インドとイタリアの合作映画『ローマをさまよう』(2019)。監督は女優でインド古典音楽のアーティストでもあるタニシュター・チャタルジーさん。本作が初監督で、自ら主人公の妹リーナ役を演じています。インド人青年ラージが、リーナを探してローマを彷徨うなかで、家父長制的な考えにとらわれている自分に気づかざるをえなくなります。「男性を主役にして撮ったフェミニズム映画」と監督の弁。
もう1作品は香港のチャン・チッマン監督『散後(散った後)』(2020)。ニューヨーク市立大学で演劇の博士号を取得され、俳優、プロデューサー、舞台演出家として20年以上のキャリアがありますが、本作が初監督だそうです。2014年、中国政府への抗議活動・雨傘運動が盛り上がる中、出会った5人の若者が、5年経った2019年、反送中デモに端を発した民主化運動が続く香港で再会します。連日日本でも報道された雨傘運動の実際の映像が豊富に用いられていて、香港の今が描かれています。5年後の彼らはそれぞれの立場と信条が異なる大人になっていました。「どうせ、選挙なんか行っても、変わんないでしょ」と言っている日本の若者に観てもらいたい作品でした。劇場公開されると良いなぁと思います。予告編はこちらに。
大阪アジアン映画祭は15日まで開催していますので、関心がある方はこちらを、ぜひチェックしてみてください。http://www.oaff.jp/2020/ja/index.html