おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2023.08.03column

始まっています!「戦後民主主義の旗手 木下惠介展」

8月2日朝一番に、明治学院大学文学部芸術学科映像芸術コースで教鞭をとっておられるローランド・ドメ―ニグ先生が「木下惠介展を見に来ました」と東京からお越しくださいました‼

お若い頃、オーストリアのウイーンにおられた時は、まだ木下監督のことは余り知られていなかったのだそうですが、「映画館で木下監督の『新・喜びも悲しみも幾年月』(1986年、大原麗子主演)を観たことがある」と掲げているポスターを見て思い出しておられました。映画を通して、文化、生活、価値観の違いなどを感じられた1作品だったようです。『カルメン純情す』(1952年、高峰秀子主演)のスチール写真の前では「木下監督は、欧州にいる間に『第三の男』(1949年、キャロル・リード監督、オーソン・ウェルズ主演)を観て、カメラを傾ける撮影法をやってみたといわれている」と教えて貰いましたので、早速キャプションに反映しました。

「脚本がたくさんあって、良いですね」と言っていただきました。『喜びも悲しみも幾年月』は1957年に高峰秀子と佐田啓二さんが灯台守の夫婦を演じています。この台本は高峰さんが使用されていたもので、書き込みもあります。もう1冊高峰さん使用の『二十四の瞳』もあり、とても貴重なものです。左端のレコード『木下惠介の世界』は所蔵者様から「かけても良いですよ」と許可を得てはいますが、なかなかそんな勇気はでません。

ひと際目を惹くのが『カルメン故郷に帰る』のポスターです。日本で最初のカラー作品で、1951年に高峰さん主演で作られました。大きなポスターなのでパネルを手作りしました。ドメ―ニグ先生も「良いですね」と仰っていましたが、皆様にも、ぜひ実物をご覧頂きたいです。

8月に木下監督の展覧会を企画したのは、上掲写真からも分かるように、木下監督に戦場体験があったからです。松竹の監督昇進を目前にして中国戦線への召集令状を受け取り、上海、南京、漢口、信陽を転々としますが、行軍の途中で負傷し、それがもとで内地へ送還されます。戦場にいた期間は比較的短い期間のことではありましたが、そこでの体験が、戦後作られた彼の作品に大きく反映しています。

生涯49作品を世に出した木下監督でしたが、シナリオを書き終えたものの会社から製作費が多くかかることや、上層部の「暗すぎる」という意見で映画にならなかった作品もあります。その一つが1963年2月に脱稿した『戦場の固き約束』であり、1981年10月に脱稿した『女たちの戦場』です。昨年12月の展示「『シベリア抑留』って、知っていますか?」Part2の関連企画として実施した講演会と参考上映では、シベリアに抑留された女性たちをテーマにしました。そのこともあり、幻に終わった『女たちの戦場』について紹介するコーナーも設けました。「木下監督が遺したこのシナリオを、どなたかが映画にしてくださらないかしら」という思いで一杯です。世界中が、キナ臭くなっている今だからこそ、必要な映画だと思うのです。

先日来、大学で映像を学んでいる学生さんたちがレポートを書くために次々来てくださっていて、7月は展示していた映画『祇園祭』について背景を話したりしていましたが、8月2日からは木下惠介監督の話だけでなく、戦後の日本映画黄金期を牽引してきた映画人たちについて話しています。

今日来てくれた学生さんたちは、辛うじて黒澤明監督の名前を知っている程度で、「その黒澤監督より高く評価されていた作品も作った名監督なんですよ」と木下監督のことを紹介するのですが、学生さんたちにとっては初めて聞く名前。小津安二郎監督の名前でさえも。もっと日本映画が世界で評価された黄金時代の名作を観て欲しい。著作権者の企業ももう少し容易く見られるようにして貰えないものかとも思います。海外で映画を志す人々がテキストにして学んでいる戦後日本映画黄金期の作品を自国民が知らないでいるのは、ちと恥ずかしいし、勿体ないことです。

そこで計画した8月6日の木下惠介監督をテーマにした講演会ですが、広報が遅かったことや連日の猛暑も影響して、まだお席に余裕がございます。木下惠介記念館担当キュレーター戴 周杰さんが「わたしと木下惠介の春夏秋冬」のテーマで準備して下さっていますので、一人でも多くの方に見聞して頂きたいです。木下監督は常に新しいものにチャレンジしてきましたから、映画だけではなく、台頭してきたテレビドラマの世界でも活躍されました。「木下惠介アワー」「木下惠介・人間の歌シリーズ」などお茶の間で親しまれた方も多くおられるでしょう。往時を思い出して聞いて頂くもよし、若い人には学びの場にもなることでしょう。

暑い中ではありますが、皆様のお越しを心よりお待ちしております。

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