おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2019.05.28column

面白かった!細馬宏通先生のお話「わたしにも覗かせて―覗くこと、待つことの想像力ー」

6月2日迄開催中の「覗いて、写して、楽しむモノたち展」に相応しい講演会を、19日14時半から開催しました。講師は、細馬宏通先生。自分の中で、この展覧会をしょうと決めた時点では、まだ滋賀県立大学にお勤めでしたので、いつかお話をして貰える機会があれば、と悠長に構えていたのですが、先生のTwitterを読んで吃驚仰天。今春から早稲田大学教授として関東へ行ってしまわれる‼ 焦りの気持ちで4月2日にお願い事をし、6日後にお会いした時に、とっても優しい先生は、こちらの事情を全て察してくださった上で「関西へ来るときにお話ししましょう」と言ってくださいました。急な申し出にもかかわらず、引き受けて下さって、嬉しさのあまり、毎日毎日ルンルン♪気分でした。

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「初めて来た時は、当然ながら『おもちゃ映画』に関するものがある場所だろうと思っていたが、それだけじゃなくて、立体めがね等がたくさんあって驚いた。展示している中身がどんなものか紹介する時間だと思って引き受けた。それに覗くことをひっかけた」とお話しスタート。以下走り書きした当日のメモから。

「映像鑑賞には二つの型があり、一つは投影して見るプロジェクター型。もう一つはエジソンのキネトスコープのように一人ずつ覗く型。覗くことは、視野が限られ、基本的におひとりさまの世界。大勢の人に覗かせることが、世界だけでなく、日本でも行われていた。今日は覗くことが楽しいことを体験して貰う」

「昔の人は、富士山の絵でも、今よりずっと時間をかけて、フンフンと眺めて楽しんでいただろう。眺めているうちに、だんだん臨場感が生まれてくる」

ということで、先ずは「臨場感はどのようにして生まれてくるか」を体験することから。用いたのはウィキベディアからとった遠近法で描かれた山の稜線の絵。遠近法はルネッサンスの15~16世紀に広まり、以降みんな遠近法で絵を描くことになったそうです。ホール内を暗くして、手前の山は濃く、遠くへ行くほど薄い色で描かれた絵を、片目で3分見ます。

 そこで、先生「肩の力を抜いて、後ろの薄い茶色と手前の濃い茶色の境が『めくれるかなぁ』と思って見る。床から剥がすとグワーッと立ちあがってくる」

次いで先生「ルネッサンスの絵を片目で見ます。遠近法で描かれた奥の人々を床から剥がしていく。ガーッと立体的になってきます。手前の人が立ってきたら、中間にいる人も剥がしていくと立ってきます。どうでしょう?ポイントは、床が遠近で目地を切っている。そこを利用して床から人を起こす。それに成功すると木も立ってくる。それにも成功すると木と山が立ってくる。どうでしょう?今の時点で人が立って見えている人は?ほらほらドンドン見えてきた!」

参加者の中から幾人かの手があがり、「めくれる」「剥がれる」の感覚が良くわからない私は「遅れている」「ダメな人」っぽい焦りも出て来て「剥がれろ」「立ちあがれ」と自分自身に暗示をかけている始末。これでは催眠術ではないかと、そうまで思う落ちこぼれ。まぁ、ルネッサンスの名画が全部起こし絵になるということですから、ネットで絵を検索して、片目で覗きながら、自分でも試して見ようとは思っています。きっと「オオッ!」と思うことでしょう。その感動は味わいたい。皆さんもぜひやってみてください。

「江戸時代初期に浮絵が入って来た時、壁に掛けて、遊女が見ている図が残っている。レンズが出てくると、今のよりももっと見えてくる。100均のレンズに木枠を付けると気が散らず集中できる。これで絵葉書を見るとグッとくる。このトレーニングをすると、ペラペラの1枚の絵の中に入っていけて楽しい。覗くというだけで、今のようなことが起こる。このマジックに気付いた人は、一生かけてこういうことをやってしまう」。先生もこのマジックに気付いた一人なので、楽しくて仕方ない風が伝わってきます。

「覗くことはおひとり様の行動だが、本来は社会的なものでもある」ということで、のぞきからくりの話へ。

「覗いている人は背中が無防備なので、スリはチャンスと思う。のぞきからくりは口上を述べる人がいる。この人はとても長い竹の棒を持っている。横から入って来て、ただで覗こうとする小僧がいると、ピシィッと叩く。そういう監視システムがあった。だから覗く人は安心していられた。僕らが『見える』『見える』という時は、後ろに人がいる。後ろの人にとっては羨ましい。背中は誘う。『早くみたい』と思わせる。行列ができていても並んでしまうのが、のぞきからくりの仕組み。覗くということは、一人でやることにも関わらず、覗いている人が他の人に多大な影響を与えている。これがのぞきからくりの仕組みである。そうやって儲けるわけ。覗く者にとっては臨場感をもたらし、一方で、傍の人にとっては、とても気になる存在」

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次いで「閉鎖型のステレオビューワーVS開放型の立体めがね」の話。このステレオ・スコープには、左右が少し異なる写真が装着されています。人間の目は左右少しずれて見えていて、両眼視差で距離を測っています。「どんな写真が装着されているのか、見えず、箱全体が謎。一人の人が見て楽しむ道具」。ブリュースタータイプの閉じたもの。

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先生の左手下にあるのは、後掲するセットしたハガキを拡大して見るための開放型拡大鏡。他の人に何が見えているのかネタバレしていますが、先生が今覗いておられるのは開放型のステレオ・ビューワーで、ホームズタイプ。

「後にホームズタイプが出て来て、立体めがねの歴史に新たなページを加えた。覗いている人が何を見ているのか、他の人にネタバレしているが、『オオッー!』と覗いている人が言うと『いったいどういうこと?』と謎が深まる。社会的な楽しみへ移った」

「覗くには最初は単一の光で見ていたが、ある時から、この写真に趣向を凝らすようになる」

ということで、次の写真で、先生がスマホのライトを当てて見せておられるのは、ステレオ・スコープに装着する透かしが入った写真。

「正面がガラス、後ろから光を入れ、透かしの入った写真を入れるタイプ。絵の裏に何かを置いてみると、ただのモノクロ写真になるが、絵にスマホで光を当てると色が付いて見える。昔はローソクで見ていた」

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「前の光より、後ろの光の方が明るかったら、透ける色が鮮やかにでる」

DSC09908 (3)「このステレオ・スコープに天窓を付けて、カード(写真)の前から明かりがとれる。天窓に鏡が付いているので、鏡で前の光をピカーッとカードに当ててやると昼間の光景が見える。天窓を閉めると、中は真っ暗。後ろは明るいので、夜の光景が見える。天窓を開けるちょっとした仕草で光量を調節すれば夕暮れも見えて、時の移ろいが楽しめる。この仕組みは立体写真ができる前の18~19世紀にかけてできた。一大見世物にしたのは、ダゲレオタイプのダゲールである。彼は透かしの見世物を作っていた人で、ダゲールのジオラマを再現したものがYouTubeで見られる」。ということで、YouTubeでそれを見ながら、1枚の絵の後ろから、当てる光を調節すると稲光が見えたりするのを体験。

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ポリオラマ(右と中央の道具)も透かし絵を楽しむ道具。覗きながら、連動する仕掛けで後ろの窓を開け閉めすると、昼から夜にかけて、夜から昼にかけて変化する光景を見ることができます。透かし絵に小さな針穴を開けておけば、煌めく星空や明かりが灯る光景が見えて綺麗です。これは全部で4個手作りしましたので、参加者に回して、それぞれ覗いて体験して貰いました。なお、写真左は、絵ハガキをセットして覗き見る開放型の拡大鏡。

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のぞきからくりの歴史について。

「17世紀の『竹田からくり』からできた。精巧に出来た人形を用いた芝居を覗き穴から見せていた。やがて、オランダから遠近法が入り、浮絵が輸入された。18世紀のどこかの時点で、浮絵と人形からくりがドッキング、立体的に見えた。文楽は今もそうだ。後ろの舞台装置が遠近法で描かれていて、そこで文楽の人形がお芝居をしている。人形浄瑠璃は、人形+遠近法がついた絵の歴史を辿った。のぞきからくりも、浮絵がどこかで入り、人形+浮絵を覗くシステムができた。しかし、文楽は広い場所でやるからいいが、人形からくりの場合は、狭い視野で覗いても人形だけになってしまう。そこで誰が考えたか、人形抜きでいこうとなった。人形なしで動かない背景を見せる。『これだ‼手間が一つ省ける』、しかも集中してずっと見ていると、だんだん浮いて見えてくる。で、どこかで浮絵を紙芝居みたいに、とっかえひっかえしていくというスタイルに変えた。18世紀後半だと思う。そこに、ダゲールの透かし絵が入ってくる。現在ののぞきからくりは、透かし絵が入っていて、なかなか綺麗である。裏板を付けたり、外したりすることによって、透かしを見せたり、隠したりする。すると、丁度良い感じで、透かしが見える」

ここで、YouTubeで見ることができる新潟市巻町にある巻郷土資料館で保存されている明治時代ののぞききからくり『八百屋お七』が前橋文学館での企画展示に貸し出しされた時の実演を見せて貰いました。透かし絵に光があてられていないと昼の光景で、光があてられたものが夜の光景に見えます。

「のぞきからくりは、いつしかダゲールがやったジオラマに似たものを、おそらくダゲールよりも早く考えて、見世物としていたのではないか。もともとのぞきからくりは、人形+立体的浮絵+透かし絵の3つの要素があってできた。のぞきからくりには、虫眼鏡がいっぱい付いている。余り性能が良くない。端っこでも見られた。端っこで見た人は『損した!』と思い、もう一回見ようと思う。1回何銭で、子どもの小遣いでも見られた。大正時代生まれの人は、ギリギリからくりを見た体験があるので、からくりが節が歌える世代。子どもは、待っている時ものぞきからくりの声を聞いて覚えた。そうすると見る頃にはストーリーをすっかり暗記しているので、覗いて見ても、それがどの場面かわかる。ちょっとだけ物語の断片を見た。何べんも何べんも見て、声の物語を聞いて、物語のどこにあたるかを考える―という今とは全く異なる物語との接し方をしていた。今は端から端まで3Dで見える。1回見たらわかる仕組みだが、昔は断片しか見えない。あと物語を組み立てるのは皆様方の頭の中という仕組みになっている」

 お話を聞きながら、まるで自分が昔の子どものになり、のぞきからくりを体験しているような気分になりました。2016年秋に、千里の国立民族学博物館特別展「見世物大博覧会」を見に行ったし、今年初詣に行った大阪の住吉大社境内にも見世物小屋があり、懐かしさを覚えました。私にからくり節を聞いた記憶はありませんが、展覧会中毎日上映している『押絵ト旅スル男』に出てくるからくり節には、何度聞いても、とても惹き付けられます。

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「道具の紹介をいくつか。フランスのパテ社から出た『パテオラマ』は、映画のプロジェクター+カートリッジ。カートリッジにはフィルムが入っていて、ハンドルを回すと、絵が交替して映画っぽいものが見える。」

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「カートリッジは、レンズが付いていて覗けるし、そのカートリッジをプロジェクターに装填して、幻灯機にもなる」

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「玩具版『ムビオラ』 の高級版。昔はアニメーターが『ムビオラ』に自分の絵を挟んで『ちゃんと動いて見えるかなぁ』と確かめた。ウインザー・マッケイがこれを使っている写真が残っている。ツメが弾いて板を跳ね上げて、割と間欠的に見えるが、ちょっと動いているような、動いていないような、良い道具。開放型なので、ネタはばれているけど、覗いている人は動いている絵を見ている。動く原理が丸裸で、覗くと動いて見えるのは、子どもにとって喜ばしい」

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「最後に絵本作家吉田稔美さんのピープショーを紹介。これは最近のものですが、ピープショー自体は18世紀にすごく流行したもので、

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蛇腹式になった遠近の絵を一つの穴から見ると、全体の遠近がひとつに見える。距離を調整したり、ゆがめたりして変化した遠近ができる。

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これも開放型なので、上から見ると仕掛けの全部が見える。が、どういうふうに絵が重なって一つの遠近法に見えていくのかは穴を覗いた人しかわからない。実は、文楽の『妹背山』のシーンを描いた浮世絵を持っていて、そのコピーを吉田さんに渡した。この作品は彼女がそれを翻案して作ったもの。ある意味、人形浄瑠璃とのぞきからくりがわかれた歴史を体現している絵でもある」

そして最後に、「17世紀ぐらいから連綿と続くのぞきからくりの歴史と、のぞきからくりは、単におひとり様の臨場感を満たすだけでなく、他の人を誘う。それが結局、のぞきからくりというブームを作ったという話をした」と結んで下さいました。私自身知識がなくて、せっかく展示していても満足に説明できていないので、先生はそれも察して講演を引き受けて下さったのでしょう。こうして、メモ書きをみながら書くことで復讐をして、今後の説明に活かそうと思います。

質疑応答の後、この展覧会の為にトリメガ研究所さんのご厚意でお借りしているアニメーション『押絵ト旅スル男』(2018年、江戸川乱歩原作、塚原重義監督)と錦影繪池田組の国内外で行った公演記録のダイジェスト版を上映しました。『押絵ト旅スル男』では浅草十二階「凌雲閣」とそこから見えるのぞきからくりが重要な位置を占めていますので、細馬先生の話を聞きながら、トリメガ研究所さんがイベント内容に最適な作品をお貸しくださったことに感謝の気持ちで一杯になりました。改めて、御礼を申し上げます

DSC09922 (2)この日は錦影繪池田組を牽引している池田光惠先生がメンバー二人と一緒に参加して下さいました。江戸時代にオランダから長崎に入った幻燈機が、日本で桐を用いた和製幻燈機「風呂」に変化しながら、伝統芸能「錦影絵」(関東では写し絵)として楽しまれてきました。池田先生たちは、途絶えていた錦影絵をオリジナル作品で復興させ、後世に継承しようと日々努力されています。日本には人形浄瑠璃のような語り芸がありますし、そこに種絵を装着した「風呂」を用いて絵を和紙スクリーンに投影し、体を動かしながら「風呂」を操作することで絵が動き、さらに音曲が加わって、元祖アニメーションとも呼べる大衆芸能が江戸時代に生まれました。多くの方にこうした文化があったことを知って貰いたいと願っています。池田先生は、これから国立文楽劇場で上映する作品の為に、桐材の調達、製材、工作、そして、仕掛け種板作成と大忙し。展覧会中、毎日錦影絵のダイジェスト版を上映していますので、ぜひともご覧いただきたいです。

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丁度、大阪十三のシアターセブンで18~24日に上映されていた『まわる映写機 めぐる人生』(2018年)の森田惠子監督もトークイベントを終えて駆けつけてくださいましたので、作品紹介も兼ねてお話していただきました。完成披露は昨年8月の第13回映画の復元と保存に関するワークショップ、その後全国各地で上映されています。作品にはちょっぴり連れ合いも登場します。お近くで上映される折りには、ぜひともお出かけください!!!

DSC09931 (5)お決まりの集合写真。それぞれが「覗いて、写して、楽しむモノ」を持っています。今回展示の目玉の一つ、桑原弘明さんの「scope」は前列左端の人の膝元にあります。講演時間が足りなくなって具体的に紹介できませんでしたが、これは口で説明するよりも、実際に覗いて見なければ面白さは伝わらないかも。6月2日迄、自分の見たい角度でライトを当ててゆっくり覗いて楽しめますので、ぜひこの機会に体験しに来てください。

DSC09937 (3)開館満4年を記念して、この日も乾杯!!!遠くは東京や鳥取からも参加して下さいました。ご多忙の中、お集まりいただきありがとうございました。細馬先生のわかりやすく、面白いお話の内容を参加していない方にも読んでいただこうと欲張ったため、いつも以上に長文になってしまいました。先生は知識の引き出しがたくさんあって、今さらながら「凄いなぁ」と思います。そして、そして、お話の中にオノマトペがいっぱい出てくるから、より親しみやすく、聴衆を惹きつけるのだなぁとも思いました。この振り返りを書く間に、先生は早稲田大学でのお仕事の他に、研究発表会の司会や発表をこなし、さらにNHK大河ドラマを受けて「今週の『いだてん』噺」を2回も公開されていて、「いつ眠っておられるのだろう?」と不思議に思います。また機会があれば、ぜひお話をしていただきたいです。

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東京からお越しの羽田美恵子さんは、『押絵ト旅スル男』でお世話になったトリメガ研究所の人々と面識があり、青山勝さんは今春から大阪芸大教授としてご活躍で、細馬先生のお友達。集合写真前から2列目右端に安部公房研究の田中裕之・梅花女子大教授もスケジュールを調整して奥様と一緒に駆けつけてくださいました。いろんな愉快な繋がりがまた広がり、楽しい集いとなりました。皆さま、本当にありがとうございました!!!!!

 

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