2024.07.08column
さまざまな刺青
7月4日に出会った大阪の二十代前半の若い彫師さんのことが、頭から離れないでいます。タトゥーショップから届いた箱に、今回の「毛利清二の世界—映画とテレビドラマを彩る刺青展」のチラシが入っていたので、それをご覧になってお友達と一緒に来て下さいました。
「えっ、どうやってタトゥーショップの人がチラシを手にされたのかしら?」と不思議に思っていたのですが、その理由が翌日にわかりました。3回目の来館をいただいた東京の中野さんがご厚意で荷物発送の際にチラシを同包するようタトゥーショップに依頼して下さったのでした。ご本人からではなく、同行されたお友達にお尋ねして教えて貰いました。他にも中野さんに教えて貰って観に来たという方が大勢おられますのでありがたいです。多くは決して語られませんが、歴史を勉強するのが大好きな粋な方です。日本で最初の刺青をテーマにした展覧会を観に全国各地から来てくださいますが、彼のような応援団がいて下さればこそ、と感謝しています。
さて、冒頭の7月4日の彼に、“BLACK &GLAY”という洋彫り技法の名称を教えて貰いました。
自分で彫ったのだそうです。海外の人に多く見かける刺青技法ですね。リアルな絵柄が好まれ、“BLACK &GLAY”は和彫りと比べて、彫りが浅いという違いがあるそうです。
右腕には「Lucida」と。一番明るい星、「輝き」という意味だそうです。アラブ首長国連邦最大の都市、ドバイに招かれて1か月彫ったこともあるそうです。実は彼、前の仕事で落下して重量物に挟まれ足の神経を損傷し、杖をついていました。友達が車椅子で介助していましたが、命が助かって今の彼があります。そう思って「Lucida」をみると胸がいっぱいになって。医学の発展は目覚ましいからきっと良くなるはず。
友達の背中に彫った“BLACK &GLAY”の細密なタトゥー。目を見張りました‼ 自分を活かせる好きな仕事と出会えてよかったですね、本当に。「Lucida」そのままにこれからも輝いて欲しい。いつかまた再会したい、そう思わせる出会いでした。
4日最初にお越しになったのは『極道の妻たちⅡ』の𡈽橋亨監督ご夫妻。毛利さんの前任者で刺青の絵を描いていた人の話などを連れ合い相手にされていたようです。そういえば、今度の展覧会を提案された都留文科大学教授の山本芳美先生に教えて貰ったのですが、日活には河野弘さんという伝説の刺青を描く方がおられたようです。大映にもおられたようですが、ネットで検索しても上手く見つけられず、代わりに溝口健二監督の助監督だった宮嶋八蔵さんによる『刺青』(増村保三監督)のとても興味深い記録がありました。https://katsu85.sakura.ne.jp/irezumi.html
𡈽橋監督と入れ違いに名古屋からお越しの方は第1期に続いてお越しくださいました。インスタで書いておられるのを読むと、15歳の時に観た『仁義なき戦い』の鯉の刺青を見たのが最初で、この仕事をするようになってからは、東映の仁侠映画や実録映画を観て、模写してきたそうです。毛利さんの刺青絵は、ご自身にとってはもとより、日本の刺青に与えた影響も大きいだろうとのこと。
その彼の頭のてっぺんには、般若が彫られていました。さぞかし痛かったことでしょうね。背中に大きな墓石を彫ってあるのが珍しくて、もう怖いものなし?見せてくださってありがとうございました‼ 先ほどの洋彫りの“BLACK &GLAY”という手法と和彫りの違いがよく分かりますね。
七夕の日にお越しのケリーさんは、今、関西学院大学で日本語と日本文化の歴史を勉強中。帰り際に山本先生の本『イレズミと日本人』を買い求めて、「日本の刺青について論文を書こうと思う」と仰ったので、山本先生に繋ぎました。彼女の研究に少しでも貢献できるなら光栄です。
左手の袖の下から刺青がチラ見えしていたので声を掛けたら、
右腕に最近日本で入れた刺青が、
左腕にも留学前にイギリスで入れた刺青。両足にも入っていましたが、「痛みに耐えているのが好き」なんだそうです。「でも、顔には入れないでね」と俄か母になった気分で言いましたら「わかっている」と。山本先生によれば、イギリスでは法律で、顔にタトゥーを入れてはならないという規定があるそうです。ちなみに“BLACK &GLAY”をイギリスでは“Grayscale”というようです。
「毛利清二の世界展」をしていることで、国内外の様々な刺青を見せて貰っています。7月28日まで開催していて、最終日のクロージングイベントは既に予約で満席に。94才とは思えない颯爽とした毛利さんにまたお会いできるのが今から楽しみです。
昨日は毛利さんのご長男ご一家も観に来て下さいました。暑い中お越し下さり、誠にありがとうございました。3か月は長いと思っていましたが、残り13日。珍しくて資料的にも貴重な展覧会です。この機会に、少しでも多くの方に毛利さんの仕事をご覧頂きたいです。宜しくお願いいたします。