おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2018.05.23infomation

「新野敏也のレーザーポインター映画教室第3弾」のレポート(5)

【第二部:キートンのアクロバットと特殊撮影を探究!】その1 

(A)

(B)

(C )

(D )

「隣同志」 Neighbors  
1920年 コミック・フィルム・コーポレーション=メトロ・ピクチャーズ作品(アメリカ) 
製作:ジョゼフ・M・スケンク、監督:バスター・キートン、エディ・クライン 
出演:バスター・キートン、ヴァージニア・フォックス、ジョー・ロバーツ
ジョー・キートン、ザ・フライング・エスカランテス  
伴奏:柳下美恵(ピアノ)
※2017年11月11日(土)ギンレイホール「神楽坂映画祭2017」の公演より
日本語字幕:石野たき子

バスター・キートン(1895~1966)について、いまさら表情やアクロバットを美化賞讃するのも極めて陳腐と考え、今回の「レーザーポインター教室」では、敢えて誰もが挑まない(というより、こんなこと論じる奴はいない?)というギャグとトリックの分析を中心に進めました。尚、キートン喜劇は細かいギャグとラストのオチが連動していたり等もあります故、本稿を初めてご覧になる方でキートン作品は未見という状況を想定し、ストーリーにはなるべく触れないように注意します。

といいつつイキナリ概要説明となりますが、本作は板塀1枚を隔て険悪な関係の家族同士、互いの息子(バスター)と娘(ヴァージニア)が恋仲であるという状況下、どうにか二人が結婚するというお話です。

この映画の中でまず気になったことが二つあります。結婚パーティのシーンです。まず、唐突に新郎キートンの父親が腕を骨折して三角巾で吊っている格好で登場しますが(写真A)、この前に骨折するようなシーンや状況設定がありません。そして新婦の父親が「その腕はどうした?」と訊くと、新郎父は「フォードを買ったからな」とだけ答えます。これ以降も骨折の理由やフォードについて、一切の説明がありません。キートン作品のギャグの中には、私生活や自身の経験による内輪ウケをネタにしたものが多くあることから、このシーンもフォード車(おそらく当時流行のT型フォードという車種)が、映画が製作された1920年の世相(大量生産のピークから、工場の単純労働による士気低下で不良品多発)を皮肉ったのか?実生活でキートンの身内の誰かがフォード車を買ってイタイ目に遭ったのか?と考えてみましたけど、結局はわかりません。ひょっとすると何か関連する前説明のシークエンスが現存するヴァージョンからは欠落していることも考えられますし、もっと飛躍すると、キートンとヘンリー・フォードの不仲説なんて話もあるかもしれませんね。はたまた1920年当時のスラングで、「フォードを買った」とは、何かまるっきりつまらない理由での怪我の例えだったのかもしれません。

次に、パーティのシーンにて、最初のカットが《ケーキや祝いの品(「結婚祝い!触るな!= HANDS OFF!」の札が貼られている)がのったテーブルを囲んでワイワイ騒ぐ人々》のフルショット、次のカットは《「結婚祝い!触るな!」の札》のアップ(写真B)、そして次のカット《新婦側の一族が待機している~カメラに背を向けると棍棒やレンガなど隠し持っている》ミディアム・ショット(写真C)という一連のシークエンスがあります。サラっと流して見ていると、結婚に反対している新婦側の身内が単にパーティで凶器を隠し持っているだけのオチとなりますが、なぜわざわざ「結婚祝い!触るな!」という札のアップが挿入されているのか?僕の分析が間違えなければ、「触るな!」をDon’t Touch とせず、Hands Off と表記したことに意味があるのでは・・・と考え、これは最初のHands Offが「触るな」、棍棒やレンガなど隠し持っている新婦側の親族の動きはHands Off(これが俺たちの結婚祝い!構うな!)というダブル・ミーニングのシャレと解釈しました。これが当たっているかどうかは、キートン氏に尋ねるしかありません。

そしてクライマックスで三人の男による人間梯子のアクロバットが登場します(写真D)。細かい演技を説明すると、未見の人の驚異を削ってしまいますので、この技のスゴイ点だけ説明します。沢入国際サーカス学校を出て単身フランスへ渡り研鑽を積んだ、大人気女性アクロバット芸人ASAKOさんより聞いた話では、人間梯子は上の人がバランスを取ってはいけないそうで、下の人が支えて成立する高等技術だそうです。この映画の中では、三段の人間梯子で、てっぺんのキートンが演技をするうえ、そのまま軸になる最下段の男が走るという超絶アクロバットを見せてくれます。男一人が60kg前後と想定すると、最下段の人は120kgを支えたまま走る訳ですから、トンデモナイ技芸、しかも上の二人はそれぞれ妙技を披露・・・このギャグは、ザ・フライング・エスカランテスという曲芸師が協力しております。おそらくキートンが舞台芸人だった頃の仲間に客演してもらったのでしょう。

構成が全体的にバランス良く、カメラワークによるギャグ展開、パントマイムやアクロバットによる妙技もいっぱい詰まった傑作短編です。

 

 

 

 

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