おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2023.04.28infomation

マジック・ランタン(幻燈機)をテーマに小冊子2冊を発行しました‼

おもちゃ映画ミュージアム(一般社団法人京都映画芸術文化研究所)の「紀要」のような形で、各分野の研究者に執筆して頂いている小冊子シリーズに、新たに2冊を加えました。

最初に、小冊子8『着物柄に見る幻燈・映画・映写機』からご紹介。

執筆して下さったのは、早稲田大学名誉教授草原真知子先生です。前半では、日本に渡来した幻燈がどのように受容されていったのかが分かりますし、後半で紹介して頂いた様々な「面白柄」からは、身に纏う着物の柄も最新の流行や話題を表現するメディアなのだと改めて実感します。

当館の前の住人は型染友禅を家業とされていました。周辺には京友禅や西陣織に関する家が今も点在しています。かつて壬生界隈は友禅の職人町として賑わっていた地域です。

いつも館内に置いているパネルですが、直ぐ裏のところに写真に載っている「桶絞り」の名人が住んでおられて、開館準備中に突撃見学、撮影もさせて貰ったことがあります。色とりどりの染料が棚に並んでいるのを見て、モノクロの無声映画時代にフィルムを青くしたり、緑色にしたり、赤くしたり、黄色に染めたりしていたのは、こういう地理的・産業的背景が反映していたのだろうと思いました。

草原先生が小冊子でご紹介くださった「面白柄」着物も、この辺りで染められたものが多いのかもしれません。最近では「面白柄」を探して目をキョロキョロさせていますが、古裂を扱っている人でも「見ないなぁ」と仰るぐらいなかなか出合えません。先生は沢山のコレクションをお持ちのようですから、この小冊子発行を機に「次は『面白柄』着物を集めた展覧会が出来たら良いなぁ」と既に夢見ています。

内容は順に①幻燈会の流行②幻燈写心競③映写機は何を映しだしたか④時代を映す「面白柄」⑤型友禅の誕生⑥映画柄の着物⑦女優を着る⑧キャラクターを着る⑨玩具映写機の普及⑩映画撮影風景⑪なぜ「面白柄」は面白いのか。

先生コレクションの図版がカラーでふんだんに用いられていますので、眺めているだけでも楽しい一冊です。

次に、小冊子9『マジック・ランタン~さまざまな幻燈の楽しみ』です。お二人の研究者に執筆して頂きました。

 

最初は早稲田大学文学学術院教授細馬宏通先生による『幻燈を語る人々-映像による旅への誘い-』です。

1830年代に写真術が誕生し、それを用いた幻燈種板とステレオスコープ用の写真ガラススライドが発明され、1851年ロンドン万博で展示されました。写真種板を用いた幻燈会では、あらかじめ種板の原稿が用意され、誰かがそれを読み上げる形で公共の幻燈会が行われることもありました。一方、諸外国を旅行して撮影した写真をもとに立体写真本(各立体写真に専門家の解説付き)を発行したり、自ら或いは同行の写真師が撮った写真を幻燈機で見せながら、自身の旅を語る旅行者も現れました。

バートン・ホームズは1893年に日本を旅行し、撮影した写真に着色をして当時としては珍しいカラー幻燈スライドを用いながら講演をし、1897年から翌年にかけては発明されて間もない短い映画を導入して、語りの最後にクロマトロープを上映する形式の講演を行ったそうです。幻燈講演に映画を結びつける形式は、当時としては画期的でした。

執筆内容は順に①PowerPointとデール・カーネギー②幻燈で見るアラビアのロレンス③水晶宮の二つの発明④砂漠を語るテキスト⑤語るセールスマン⑥マーク・トウェインの見た幻燈会⑦ジョン・L.・ストッダードの旅行幻燈講演⑧バートン・ホームズの旅行幻燈講演⑨映像にふさわしい語り、語りにふさわしい映像。

次は、中京大学国際学部教授岩田託子先生の『最盛期英国幻燈文化をおもちゃ映画ミュージアム コレクションに見る』です。開国後に近代化を急いだ日本に入ってきた欧米文化の一つに幻燈がありました。とりわけ質・量とも最大だった英国からの渡来物を中心に、当館所蔵品にも触れながら書いて頂きました。

錦影絵・写し絵と呼ばれる伝統に対して、西洋から入ってきた種板は「新」幻燈と呼ばれました。蒐集家・研究者ジョン・バーンズは種板をⅠ.パノラマ Ⅱ.細工 Ⅲ.スタンダードの3群に大別しましたが、彼の分類には、おもちゃ幻燈機用のおもちゃ種板は含まれておらず、Ⅳ.群として分類すると種板全体がカバーできるだろうと岩田先生。

 

上掲2点は、3月の展示では並べなかったクロマトロープ(円形のガラス部分以外すべて金属)とガラス種板。岩田先生によれば欧米の幻燈上映会ではフィナーレにクロマトロープを披露し、最後に「GOOD NIGHT」や「GOOD BYE」のスライドを投影して幻燈会を閉じるのがならいなのだそうです。

執筆内容は①はじめに 英国幻燈種板の分類について②細工種板 日本に渡来した2種紹介③スタンダード種板④その製法の1.写真⑤その製法の2.ライフモデル⑥その製法の3.クロモリトグラフィー。

英国幻燈協会会員でもある岩田先生のお力添えで、会報誌に当館での展示のことも掲載の見込みだそうです。岩田先生のお声がけで前協会長ご夫妻が訪ねてくださり、一日過ごしたことも懐かしい思い出です。その折のことは、こちらに。幻燈機は決して過去のものではなく、今も世界中の人々の心をとらえ、魅了し続けているメディアです。

3月19日はイマイアキさんに可愛らしいトイピアノで即興演奏をしていただきながら、紙製幻燈、フィルム幻燈、スライド幻燈、小型ガラス種板、大型ガラス種板を用いながら、27種類の幻燈を実演し、最後に日本では「花輪車」とも呼ばれるクロマトロープをクルクル回してその美しさを体験して頂きました。

どうぞ、小冊子8と9を手に取ってお読みいただきながら、「さまざまな幻燈のたのしみ」を知っていただき、次回実演をするときにぜひ体験しに来て下さい。小冊子は各800円(税込み)です。ご連絡いただければ郵送もできます。どうぞ、宜しくお願いいたします。

3月19日催しの最後にお決まりの集合写真を1枚。聞けば、新潟や東京など遠方からも専門家の先生方が参加して下さったとのこと。お忙しい中、ご参加いただき誠にありがとうございました。おかげさまで充実した催しになりました。執筆して下さった3名の先生方、演奏して下さったイマイアキ様はじめ、お集まりくださった全ての皆様に心より御礼を申し上げます。そして、何よりも天国のアン・へリング先生に感謝の気持ちを捧げます。

 

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