2024.08.04column
「毛利清二の世界-映画とテレビドラマを彩る刺青展」から
5月1日から始まった「毛利清二の世界-映画とテレビドラマを彩る刺青」展が7月28日無事終了しました。日本国内で初めて刺青をテーマにした展覧会ということで、全国各地から見に来て下さいました。これまで海外の人の手足に施されたタトゥーを目にすることはありましたが、国内の人の全身をキャンバスにした刺青を目にする機会がなかったので、連日刺激に満ちた日々でした。幾人もの彫師さんとインスタで繋がることが出来ました。展覧会開始前とその後では刺青に対する意識が随分変わりました。それは、お客様との会話が大きいと思います。「好きなものを見に来ているから、みんな良い人なのよ」という人がおられましたが、それは確かにそうかもしれませんが、どの人も一生懸命働いてお金を貯めて、時間を費やし、痛みに耐えて自分が自分であることを表現する刺青を愛おしく、そして誇らしく思っておられました。彫って貰う人も、彫る人も。その内のお一人、7月25日に千葉県の木更津市からお越し頂いた彫しげさんの取り組みをご紹介。
上掲は彫しげさんから頂いた8月25~27日に開催される東京ベイ タトゥー フェスティバルのチラシとハガキ。彫しげさんは、この大きな催しの主宰者。国内外から約100人のさまざまなジャンルやスタイルのアーティストが集まって初めて実施する“東京湾刺青芸術祭”です。今回の期間中に知り合った彫師の方も参加されるようです。実際に会場で施術して貰ったり、ライブミュージックやダンスなどもあります。
彫しげさんの話しで良いなぁと思ったのは、この催しのために会場費や諸々の諸経費が掛かるので、一生懸命計画書を作成し、銀行から融資を得ることが出来たのだそうです。刺青をテーマにした催しでも、銀行から信用を得ることが出来たのですから素晴らしいです。今も世間では刺青のことをよく思わない人もおられるでしょう。眉をひそめたり、避けたりする人もおられるでしょう。でも今は、今回の展示で紹介された仁侠映画の世界とは異なり、刺青はアートであり、ファッションの一部となっています。今開催中のパリ五輪をみていると、日本の選手にはいませんが、いろんな競技で刺青をいれている選手の姿を見かけます。日本を代表して参加する選手にはタトゥーはタブーなのかも。
そのタブー視を払拭し、その人らしさの表現と広く受け入れられるようにと彫しげさんは、自身はもとより、お客様にも言動を律するよう話しているそうです。眉をひそめられるような言動をすれば、また世間の刺青への眼差しが悪化してしまいます。そうならないよう私が話をした彫師の人たちは、どの方も真面目に自分の仕事に向き合っておられました。28日にお聞きした話では、大阪堺の彫師さんが、商工会議所のメンバーになられたそうです。時代は変わってきています‼
彫しげさん。お顔からもその人柄が伝わってきますね。とても良い方でした。
7月27日来館の彫師川名さんの背中は中野寿桜さんの手に依るのだとか。線彫りの様子がよく分かりますね。多くの彫師さんが、今回展示したような仁侠映画を何度も繰り返し見て、そこで描かれた毛利清二さんの刺青絵をテキストに一生懸命勉強したと仰っていました。仁侠映画が刺青を貶めた一因となった一方で、刺青の技術向上に貢献した面もあるのです。川名さんも東京ベイタトゥーフェスティバルに行くのだそう。中野さんは周辺への心配りが半端なく、期間中4回も来てくださいました。大変な勉強家でもあり、多くの彫師さんから尊敬を集めておられると推察しました。中野さんや彫しげさんらのような人々の努力が実り、刺青文化、タトゥー文化が世に受け入れられて、温泉やスーパー銭湯、海水浴場、ホテルなどで差別されないで、普通の人として承認される様、多少なりとも縁を得た者として願っています。
展覧会最終日14~15時のクロージングイベントでは予約者しか入れなかったのですが、その間に来られた人には15時まで時間つぶしをお願いしました。関東からお越しの彫師さんは二人で銭湯に行ってきたとか。その選択が凄いなぁと思い「ちゃんと入れた?」と尋ねましたら、その質問に「えッ」という表情。公衆浴場法では刺青を拒否していないのですね。葬儀屋さんで働いている人も来られて、「刺青を入れている人は残してほしいと思っていないのかな?」と思うことがあると彼。意外な発言に東大医学部標本室の人体標本のことを思い出しましたが、ネットで検索するとアメリカでは遺族が望めば遺体のタトゥーを皮膚と共に切り取って額にいれて飾っておけるようにするビジネスがあるようです。時々思い出して尋ねてみましたが、「残したい」と言われた人はおられませんでした。でも今日のタトゥーの広まり具合を見ていると将来は変わるかもしれませんね。
今回の刺青絵師毛利清二展立案者の山本芳美先生から、終了後の所感が届いていますので、次回はそれを紹介します。