2024.08.04column
伝説の刺青絵師毛利清二展を終えて
……伝説の刺青絵師毛利清二展を終えて、その発起人の山本芳美先生から所感が届いていますので、そのまま掲載します……
「毛利清二の世界:映画とテレビドラマを彩る刺青展」が幕を閉じて。
山本芳美(『イレズミと日本人』(平凡社・2016年)著者・都留文科大学教授・タトゥー文化研究会)
おもちゃ映画ミュージアムにはじめてお伺いしたのが、2023年7月2日。以降、再訪したのでもないのに、「東映京都撮影所で活躍していた刺青絵師・毛利清二さんの企画展をお願いできませんか?」と打診したのが、今年1月です。ほどなくして太田米男館長と太田文代理事から快諾いただき、5月1日から7月28日まで3か月間開催できることになりました。「通常500円の入場料を1000円に設定し、収入を折半する」との願ってもない条件で、お二人が企画展を実施されているスペースでの展示が実現しました。「10年前の開館時に、東映の美術部の人たちが館内を整えてくれたから、恩返しをしたい」というお二人の思いからでした。
勤務先大学の研究費と東京外国語大学の床呂郁哉教授が代表の「身体性を通じた社会的分断の超克と多様性の実現」(JSPS学術知共創プログラム)より、人件費や出張費の一部の助成をいただきました。しかし、展示そのものは「入場料収入で必要経費を賄おう」という無謀ともいえる計画です。
展示準備が今年はじめに動き出してから、昨年より開始した毛利さんへの聞き書きに協力いただいていた東映太秦映画村・映画図書室(室長・石川一郎さん)に、展示でもご協力いただきました。学芸員の原田麻衣さんが、実務を采配されてキュレーションと展示作業、200点以上の展示作品・関連スチルのリストづくりを担われました。私は展示の宣伝・広報、イベントを主に担当しました。化粧文化研究者ネットワーク、京都大学映画・メディア合同研究室「京都大学映画コロキアム」・日本顔学会、東映株式会社経営戦略部フェローの山口記弘さんに、プレイベントにご協力いただきました。
3月10日のプレイベントから『京都新聞』で報道され、時代劇や映画ファン、中野寿楼さんほかの彫師さんとお客さんたちが、Xやインスタなどで自主的に宣伝されました。開幕直前には、高橋英樹さんのコメント入りのプレスリリースが東映株式会社から公式に出されたこともあり、さまざまなお客様がおいでになりました。
結果、この規模の展示にしては、『週刊新潮』『サンデー毎日』『読売新聞』『朝日新聞』『京都新聞』『映画秘宝』に加え、スポーツ紙などにも大きく取り上げられました。Web記事では「楽活」や都築響一さんのメルマガ「Roadsider’sWeekly」にも取り上げていただきました。https://roadsiders.com/backnumbers/article.php?a_id=2765
(バックナンバーは8月31日まで閲覧可)
2024年7月28日の最終日、京都は36度を超える酷暑となりました。熱中症を心配して喫茶店で涼むことを勧めたにも関わらず、94歳の毛利清二さんは「名残惜しいなぁ。高倉健さんが映画の上映期間が終わるころになると寂しがっていたけど、わかるなぁ」とまる4時間、会場に居続けました。40年以上、映画・テレビドラマに出演する俳優さんたちに描かれてきた刺青。その下絵の初めてのお披露目でした。毛利さんの付き添いをつとめてらした東映俳優部の山田永二さんも、「毛利さんの写真が、今回たくさん出てよかったです」と言葉少なですが喜ばれていました。お手伝いができて良かったと心から思いました。
書籍や論文は、読者を念頭において執筆するにしても、どのように読まれ、いかなる感想を持たれたのかを著者としてはほとんど知る由がありません。しかし、展示は、さまざまな人々が交錯する場としての魅力があります。「毛利先生の作品は、色遣いやバランスがよいですね」、「毛利先生は、関西彫りや関東彫りを意識されていましたか?」という感想や質問を受けて、これまで知ることのなかった世界を垣間見ました。私自身は大学の仕事があり、数回しか会場を訪問できませんでしたが、私も昨年受けた太田夫妻のあたたかなもてなしに感銘を受けた人たちが多くいたことも、リピーターが続出した理由のひとつだったと思います。
総計800名以上の来場者を得た展覧会は、7月末にひと段落つきました。今度は、本来の研究目的であった毛利清二さんの聞き書きをまとめる仕事に集中します。原田麻衣さんとの共著として、青土社より2025年初めには刊行予定です。刊行の際には、また皆様にご報告いたします。
最後に繰り返しになりますが、各方面からの応援をありがとうございました。
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7月28日は14~15時に毛利清二さんにお越し頂いてクロージングイベントをしました。
いつもお洒落な毛利清二さん。最終日なので、名残惜しそうな表情で。もっとわかりやすい場所で、広い会場だったら良かったのですが、そうではない当館での展示を承知して下さり心から感謝しています。期間中に幾度となくお会いできたのも嬉しいことでした。
予約いただいた方で満席に。スクリーン下に毛利さん、山本芳美先生、原田麻衣さんがスタンバイして、トークイベントが始まろうとしています。司会進行は山本先生。連れ合いと話をされているのが東映京都撮影所所長の小嶋雄嗣さん。この度はお世話になり誠にありがとうございました。映画好きの奥様は期間中に3回も観に来て下さり、すっかり顔なじみになりました。
毛利さんは展示している刺青下絵を一つ一つ指し示しながら当時のことを思い出して話して下さいました。94才ですが記憶が鮮明なのにいつも驚きます。マイクを持っておられるのが山本先生。
マイクを手にしているのが東映太秦映画村・映画図書室学芸員の原田麻衣さん(京都大学大学院生)。学業と両方だったから、さぞかし大変だったことでしょう。
トークイベント後には、サインも快く引き受けてくださいました。剣会のメンバーでもありましたから、本当にいつみても姿勢が綺麗です。
私どもには、期間中掲示していたこの色紙を頂戴しました。絵も美しく上手ですが、文字も大変美しいです。宝物が増えて嬉しいです。
用事をこなしながら毛利さんのお話を走り書きしたメモからいくつか書き出しますと、
・映画の中で活きる絵。映画もぜひ見て欲しい。
・天海祐希さんは描いた刺青をそのまま東京へ持ち帰り、3日もたせた。油で描いているからシャワーでも落ちない。
・『継承盃』の緒形拳さんには6時間かけて描いた。緒方さんとは辰巳柳太郎さんの弟子だったころからの知り合い。
・渡辺謙さんと最近京都でしゃべった。渡辺謙さんとはアメリカへ行く前の『続・仁義なき戦い』からの付き合い。
・中条きよしさんには、ハリウッドに連れて行ってもらった。カラオケに行くと他の人の歌ばかり歌っていた。
・五木ひろしさんには、桜吹雪を描いた。
・藤司(藤)純子さんが女博徒をやると決まった時に、牡丹を描いた。友禅も参考にしたが、古い和本を参考にしたり、他の牡丹も参考にした。色塗りは純子さんのお姉さんが手伝って下さった。
・長年勤めた東映からフリーになって以降、刺青絵師として他社の作品も描くようになった。80歳の時に「刺青部屋」を明け渡すように言われ、最後に描いたのがテレビドラマ『鬼龍院花子の生涯』(2010年)だった。
等々。指差しておられる一枚一枚の下絵にかけがえのない、一生懸命だった頃の思い出があります。台本を読んで俳優さんの顔を思い浮かべながら描いた下絵は400枚に上るそうです(7月20日朝日新聞記事)。それらを板で挟んで立てて保存されていたのでシミもなく良い状態で残っていました。誠に幸運でした。今回の展示を見に来て下さったフランス国立極東学院のクリストフ・マルケ先生の助言もあり、今後海外で展示の機会も視野に入っているようです。世界中の人に美しい毛利さんの刺青絵をご覧頂きたいです。
最後に関係者揃って記念写真を撮りました。どうぞ、毛利さんには御身大切になさって健やかにお過ごしください。他の皆様も準備・後片付けも含めお疲れさまでした。記憶に残る素晴らしい展覧会でした。関わって下さった皆様、観に来て下さった皆様に心より御礼を申し上げます。ありがとうございました!!!!!