おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2016.04.13infomation

片岡一郎弁士からレポート届く

3月5日(土)に2部制の無声映画上映会をしました。第1部は子どもたちにも楽しんで貰える内容、第2部は本格的なちゃんばらを堪能していただこうと阪東妻三郎特集で。出演していただいたのは、ドイツから戻られたばかりの片岡一郎さん。彼には体力的にも過酷だったかもしれませんが、心よく出演を引き受けてくださり、当日は圧倒的なパフォーマンスで観客を魅了して下さいました。今しがた、その片岡さんから当日のレポートが届きましたので、早速UPします。

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2月29日、私はドイツにいました。 

3月5日、私は京都にいました。

 およそ七カ月のドイツ生活を終えて、帰国後最初の仕事がおもちゃ映画ミュージアムであったのは大変に光栄な事です。おもちゃ映画ミュージアムには来るたびに新しい発見のお知らせがあり、そこには常に驚きがあります。

 今回は翌日の尾上松之助胸像建立50周年記念式典に合わせての上洛でした。

 となると二日続けて松之助を上映するのも芸がありません。では松之助に匹敵するスターは?という事で阪東妻三郎の登場と相成りました。

  阪東妻三郎とは、この二年ばかり急速に縁が濃くなっているのを感じます。

 そこには数本の阪妻フィルムの存在が影響しています。

 私は澤登翠の弟子で、澤登は松田春翠の弟子です。

 春翠は功罪を様々に言われていますが、無声映画の収集にかけた情熱は相当のものであったことだけは疑いようのない事実です。その春翠が集めた幾多のフィルムの中でも最重要の一本が『雄呂血』です。

 今から二年前、東京で御縁があって『雄呂血』の初演を致しまして、その時に客席にいらして下さったのが阪東妻三郎のお孫さんである田村幸士さんでした。終演後にお話を伺ってみれば田村家には何やらフィルムがあるというではありませんか。お願いして見せて頂いたフィルムは『阪東妻三郎葬儀実況』『田村家ホームムービー』そして可燃性フィルムの『李王殿下を奉迎して』の三本。これらのフィルムは現在フィルムセンターに寄贈され「発掘された映画たち2014」で一般公開されるに至りました。

 その後はドイツやアメリカでの『雄呂血』上映があり、WOWWOWでのドキュメンタリー番組(『ノンフィクションW 阪東妻三郎 発掘されたフィルムの謎 ~世界進出の夢と野望』)が製作され、おもちゃ映画ミュージアムによって阪妻立花ユニヴァーサル連合映画の『当世新世帯』が発見されたり、太秦映画村での阪妻作品の上映が実現したり。まさに阪妻サマサマの日々でした。昨年、田村幸士さんに阪妻作品の『喧嘩安兵衛』の弁士をやって頂いた事で少しはご恩返しが出来たのではないかと思っておりますが、ハテサテ。

 映画の発掘は地味な仕事です。

 時間も労力もお金も費やし、なのに何の成果も上がらないことだって少なくはありません。けれど一方でただの偶然では片づけられないような事も起こります。そんな時に我々は映画を探しているのではなく、映画に我々が導かれているのではないかと錯覚するのです。

  ともあれ明けても暮れても、とは言い過ぎかもしれませんがどっぷり阪妻漬けとなった私は、もっともっと阪東妻三郎の作品の説明をしてみたいと願うようになっていたのです。そこへおもちゃ映画ミュージアム所蔵の阪妻作品集をやってくれないかとのお申し出。否やのあろうはずはありません。

  この日は二部構成。

 第一部は大森くみこさんが弁士、鳥飼りょうさんが音楽を担当される『おもちゃ映画 de 玉手箱』と題した公演。影絵にアメリカのアニメ、そしてお馴染みおもちゃ映画と盛りだくさんのプログラムで、子供のお客さんが大喜びだったのが強く印象に残っています。

 この日大森さんが演った『おもちゃ映画・昔話特集』は学校公演でも使える演目だなと密かに思ったりしておりまして、いつか私もやってみたいところ。長らく若手不在であった関西圏の弁士・楽士界にこうした方々が登場してくれたのは関東圏の弁士としても実に嬉しい事であります。

  夜はいよいよ阪妻特集。弁士は私。

 音楽は昼の部に引き続き鳥飼さんにお願いしての上映です。さらには大森さんの再登場もありで盛りだくさん。上映した阪妻の作品は『尊王』『血染の十字架』『新撰組隊長近藤勇』『闇・後日譚』『潮に乗る北斗』『からす組』『雪の渡り鳥』『牢獄の花嫁』『神変麝香猫・悲願復讐篇』『変幻七分賽』『お好み安兵衛』『剣士桂小五郎』『新釈清水一角・浪人祭』『文政剣花陣・野狐三次』『魔像』『江戸秘帖』『恋山彦・怒涛の巻』『国定忠治』『飛龍の剣』『血煙高田馬場』『忠次子守唄』『赤垣源蔵』『王政復古・担龍篇』『鍔鳴浪人・虎狼の巻』そして『喧嘩安兵衛』と演りも演ったり25本。

 おもちゃ映画は一本あたりの時間が短いから弁士は楽かと思いきや、実は大変なのです。なぜなら当時の映画雑誌などを読んで下調べをちゃんとしないと説明台本(弁士用の台本)を書く事が出来ない。さらに公演中はハイライトシーンの連続なので力を緩める暇が全くないのです。わずか一時間ばかりの公演が終わるとヘットヘト。非常に心地のいい疲れではありますけど、とにかくヘットヘト。

 わずか数分しか残っていない名編の断片を見ていると、ああこれが全篇残っていたら、と嘆息せずにはいられないのです。全作を全篇見る事が不可能としても、この中の数本だけでも完全版が発見されないか、そしてそれを自分が語ってみたいと夢想するのは弁士の業としか言いようがありません。

 個人的には今回上映された作品の中で完全版が見たいのは『尊王』『闇・後日譚』『文政剣花陣・野狐三次』辺りでしょうか。

 嗚呼、阪妻作品なら『闇』も『邪痕魔道』も見たいナァ。

  おもちゃ映画ミュージアムが映画の発掘復元の中核を担う存在であるのは今更説明の要はないでしょう。当然、ミュージアムにお越し下さる方々は映画保存の重要性をお分かりの方々だろうと思います。だからこの文章をここまで読んで下さった方々にこんな事を申し上げるのは釈迦に説法ではありますが、フィルムはただ待っていても出てこないのです。我々皆がフィルムを探していると発信し続ける事で映画は発見されるのです。フィルムを求め続ける人の前に幻の作品は現れるのです。

  おもちゃ映画ミュージアムで定期的に行われている無声映画の夕べは、出演者にとってもミュージアムにとっても儲かる仕事ではありません。ではなぜ続けるのか?

 その先の新たな発見、新たな出会いへと映画が導いてくれると思っているからではないでしょうか。

  長々と御託を並べてしまいました。

 しかも公演日から一ヶ月を過ぎてようやくこの原稿を書いているという恥ずかしいあり様……。実にお恥ずかしい限り。

 私の怠惰はさておき、おもちゃ映画ミュージアムと無声映画企画を今後ともご贔屓頂ければ幸いです。 

 次回は4月16日15時から「無声映画の昼べ」が開催されます。

 弁士は坂本頼光さんです。どうぞお運びくださいませ。

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ご多忙にもかかわらず、時間を割いて書いてくださったこと、心から感謝申し上げます。5月22日(日)は、片岡さんに4度目の登壇をお願いして、おもちゃ映画ミュージアム開館1周年記念として『何が彼女をそうさせたか』を上屋安由美さんの生演奏付きで上映します。

1930(昭和5)年に帝国キネマ長瀬撮影所が製作したこの作品は、原作:藤森成吉、監督・脚本:鈴木重吉で、「傾向映画」の代表作。連れ合いが、映画の復元と保存をライフワークにする契機になった作品でもあり、ひときわ思い入れがあることから選びました。

上映の詳細は後日改めて。どうぞご期待くださいませ。

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