おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2023.10.01infomation

京都国際映画祭2023サイレント・クラシック映画~『9 1/2㎜』とパテ・ベビー渡来100年記念上映

2022年、フランスのパテ―社で小型映画の一つ、“パテ・ベビー”が誕生しました。フィルム幅が9.5mmで、フィルムのコマとコマの間にパーフォレーション(送り孔)があるのが特徴です。

パテ・ベビーのカメラは、横に並べた単三乾電池と比べてもコンパクトで軽く、持ち運びも簡単だったことから様々なホームムービーが撮られ、人気があった上映作品は家庭用に再編集されて販売されたり、企業の広告や、自分たちで台本を書いて映画を作ってみたりと新し物好きで経済的に余裕がある人々を対象に広がりました。日本に入ってきたのは関東大震災があった1923年のことです。

第77回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢清監督『スパイの妻』(2020年)では、当館がお貸しした9.5㎜のカメラと映写機が大活躍していました。主人公聡子(蒼井優さん)の夫優作(高橋一生さん)は1940年、貿易商として赴いた“満洲国”で偶然、恐ろしい国家機密を知り、正義のため、事の顛末を世に知らしめようと、このカメラで撮影して、フィルムを持ち帰り金庫に隠します。小さなカメラだったからこそ可能にしました。映画は、昭和初期の日本を舞台にした愛と正義を賭けた超一級のサスペンスです。

この映画のようにアマチュアがパテ・ベビーで撮影したフィルムの保存や研究に取り組む欧州の非営利機関“INEDITS”が、世界中のフィルム・アーカイブに協力を呼びかけて集まった14か国の映像をもとに作られたのが、今回上映する『9 1/2㎜』です。プロジェクトと提携してボローニャで作曲された音楽付きです。日本からは、神戸映画資料館、福岡市総合図書館、そして当館も協力しました。

『長崎、雲仙の菅家の一日』(“A DAY WITH THE SUGA FAMILY IN UNZEN,NAGASAKI”)の一コマ。雲仙にお住いだった医師菅重義さんが1934年頃に撮影された愛らしい子どもの映像。

協力する映像にはパテ・ベビーの機材が映りこんでいることが条件でしたので、背後にパテ・ベビーの映写機が映っているこの1作品にしました。菅さん一家の微笑ましい映像です。

『9 1/2㎜』監督のお一人、アンナ・ブリックスさんによれば、これまで4大陸で26回上映され、今後さらに1大陸増え、10回ほど上映される見込みです。今回は間に合いませんでしたが10月末に、モンタージュで使用されている全てのオリジナルフィルムをオンラインで紹介するサイトを公開されます。日本語字幕はございませんが、世界共通の言語としてこの映像は見るだけでわかります。なお、会場では、福岡市総合図書館の内田淳子さんが作成された各提供映像(全40作品)を登場順に掲載したリストを配布します。

続いて、当館が所蔵するパテ・ベビーの映像の中から選んだ作品を、天宮遥さんのピアノ演奏付きでご覧頂きます。MCは神田千楽さんです。

順に作品を紹介します。

『満州大連の春・大連の奉祝』(1928年)。旧満州の大連で“満洲牧場”を経営していた沖田氏が記録したホームムービー。タイトルには「H.S.OKITA STUDIO」とあります。アマチュアの人で『パテ―・シネ』1931年1月号掲載「第9回パテベビー撮影大競技会成績表」の第5等に“沖田スタジオの沖田博”の名前が載っています。映像からは、満州事変以前の日本人の満洲富裕層の生活の一端がわかります。

パテ社が販売した1923年の記録映像から。上掲はベネチアの水上祭。13世紀半ばに始まったレガッタは19世紀後半から観光目的に大きなイベントに仕立てられます。その様子でしょうか。

同じく1923年に発売されたパリのオペラ座でのアイリス・ロウとロバート・キノによるバレエ振付の模範演技を記録した映像。もう1作品はフランスのトゥールーズで行われた「ACFグランプリ」の1923年開催記録。国際規模のグランプリレースとしては最古の歴史を持ち、第1回は1906年6月26日に開催されています。

続いてご覧頂くのは、朝日新聞のANPCAニュースの一部から。戦前のニュース映像が残存せず、貴重な映像3作品です。いずれも1937年の映像。

朝鮮最後の李王朝、李垠(りぎん)殿下が、東京の大森にあった西山発声映画研究所を視察された折の記録。

1937(昭和12)年3月15日~5月31日名古屋で開催された“汎太平洋平和博覧会”の記録です。1934年に名古屋の人口が100万人を突破し、益々発展する市の宣伝のために開催されました。“平和”を銘打ちつつも、終了から2か月後に日中戦争が勃発。建設されたパビリオンなどはほとんどが現存していません。

朝日新聞社“神風号”が、パリ・ロンドンへ初飛行し、成功した折の記録です。

以上です。観覧ご希望の方は10月9日23:59までに京都国際映画祭2023公式サイトからお申し込み下さい。会場が狭いので恐縮ですが、定員25名です。申し込みが多数の場合は抽選になり、当選した方には係から連絡を差し上げます。多くの皆様のお申し込みを心よりお待ちしております‼

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