おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2020.11.03column

セルゲイ・ロズ二ツァ〈群衆〉ドキュメンタリー3選を鑑賞

 

10月20日、11月2日と2回に分けて、上掲セルゲイ・ロズニツァ〈群衆〉ドキュメンタリー3選の試写会に参加しました。いやはや大変な作品でした。もとはAI人工知能の研究をされていたからか、人々の表情にとても関心をお持ちなのだと思いました。

2016年の『アウステルリッツ』は、ホロコーストで多くのユダヤ人を虐殺したザクセンハウゼン強制収容所が舞台。ここの門をくぐって、大勢の観光客が次々押し寄せます。人々は、かわりばんこに記念写真を撮ったり、はしゃぎこそしていませんが、ダーク・ツーリズムに興じている様子。セルゲイ・ロズニツァ監督のカメラは淡々とモノクロで撮影しています。94分間、飽くことなく人々の表情を撮り続けた作品は、おぞましい記憶を継承しようとするとき、私達はどう向き合えば良いのか問いかけています。

2018年に作られた『粛清裁判』は、1930年に実際に行われた「産業党裁判」の映像ですが、新しい社会主義を推し進めようとするスターリンの力を見せつける為に仕組んだ大掛りな芝居の記録でした。最初にこの説明を読まなかったせいで、裁判を記録したドキュメンタリーなのだろうと思い込んで見入っていましたが、最後の最後で8人の被告のその後を知って「えっ」と。世の中の一方向の空気、高まる熱気に、人はたやすく騙されます。123分。

2019年に作られた『国葬』は、「とにかく凄い」としか言い様がない規模の映像。136分。スターリン死後4日間に亘ってソビエト全土で営まれた国葬の記録をとるために200名近くのカメラマンが集結。広大な国土の様々な場所からスターリンの死を悼む国民の姿を克明に記録しています。スターリンの死体が安置されたのは、「粛清裁判」が行われたモスクワ中心部にある労働組合会館の「柱の間」。1953年3月5日スターリンの死が報じられると、雪が降る寒い中、人々は一目別れを告げようと延々と列を組みながら進み、花輪を捧げます。あるいは仕事の手を止めて、轟く大砲の音に頭を垂れて死を悼みます。こちらはやらせではなく、実際の記録映像で、人類史上最大級の国葬の凄さに圧倒されました。

2017年にモスクワ郊外で大量のスターリンに関するアーカイブ記録映像が見つかったことも凄い発見ですが、それを入手して繋いで、こうした映像に仕上げられたことも凄いです。それにしても、恐るべし独裁者スターリンです。

セルゲイ・ロズニツァ監督は、現在ウクライナ・キエフのバビ・ヤール渓谷で行われたナチス・ドイツによって行われたユダヤ人大量虐殺事件をテーマにした6作目となるアーカイヴァル映画に取り組んでおられるそうです。ここで紹介したドキュメンタリー3選は日本初公開で、11月21日から第七藝術劇場で公開されます。

 

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