2026.11.05column
10月2~9日オランダとイタリア訪問(5)

ここ数日多忙もあって、遅れていた振り返り。その続きです。写真は訪問先のボローニャにある「リマージネ・リトロヴァータ」(修復研究所)向かいのレザート・ホテル。10月6日と7日の2泊しました。ボローニャ市の観光税が別途必要です。「とにかく円が極めて安いので、なるべく安いホテルを紹介して」とエレナ・タマッカーロさんにお願いしました。


そしてその向かいに連なるのがエレナさんが活躍するフィルム修復所「リマージネ・リトルヴァータ」。ボローニャ市の公的財団「シネティカ・ディ・ボローニャ」によって設立されました。この長い建物の中央より左部分がそれで、右は展示などをしていて、建物の背後は公園でした。前日15時に訪れた国立ホーム・ムービーズはここから約900m、徒歩15分ほどのところにあります。6日ホームムービーズの約束時間まで余裕があったので、連れ合いは壊れたトランクを引きずりながら、中世の街並みが残るボローニャを散策。


エレナさんが仰る通り、中世の街並みが今も残って美しいですね。マッジョーレ広場周辺の歩行者エリア。置かれた簡易スタンド式の標識は「この周辺の足元や作業などに注意して通行して下さい」の意味。この広場の下には1915年に開館した「地下の映画宮殿」と呼ばれる「モデルニシモ」がありました。ベル・エポック期のアール・ヌーヴォー様式を凝らした絢爛豪華な装飾が特徴だったそうです。20世紀後半に一度閉鎖されてその後、長い間眠りについていましたが、ボローニャ・シネテカが中心になり、数年がかりで修復し、2023年11月にオープンしたそうです。最新のデジタルプロジェクションはもちろんのこと、35㎜や16㎜といったフィルムの投影にも完全対応した設備を有しているそうです。エレナさんが前もって「案内してもいいよ」と言って下さっていた施設でしたが、連れ合いは残念ながら見逃したようです。

代わりに、シネテカ・ディ・ボローニャが運営する拠点の一つ「シネマ・リュミエール」を見学してきました。世界中から集まるフィルムやデジタル修復作品、特集上映、映画史に残る名作が日々上映されていて、世界中のシネフィルの聖地のような場所。スコセッシ・ホールやマストロヤンニ・ホールなど映画史を彩った偉大な人々の名前が付いたスクリーンがあり、ボローニャのフィルム文化のホームグラウンドともいえる場所だそうです。



さて、待ち合わせの11時にリマージネ・リトルヴァータへ。通訳にボローニャ大学で日本語を教えている河野志織さんが来てくださいました。

エレナさんのスマートフォンには私が映っています。「zoomで施設内を案内するのは初めて」とエレナさん。私の希望を叶えて下さって嬉しいです。関西空港で搭乗手続きをしようとしてパスポートを置いたとたんに、「搭乗できない」と表示され愕然としました。中継地のオランダやイタリアに入国するには、パスポートの残存有効期間が3か月以上必要。1か月足りないとわかり、涙ながらに自宅に戻って直ぐにエレナさん(向かって右)にメールして、私自身が今回楽しみにしていた見学に行けない旨を伝えると同時に、「相談したいことがあるから、可能ならzoomで繋いで直接話せるようにして欲しい」とお願いしました。写真はその様子です。全く便利な時代になったものです。

今回は特別に見せてもらうので画像や動画の公開は不可。ということで僅かな写真だけを紹介します。河野さんの後ろの壁に飾られているのは、エレナさたちが2007年から世界各地で開催している映画修復のための学校(ワークショップ)の集合写真。ボローニャの他に、シンガポール、メキシコ、ブエノスアイレスなどでも開催し、大勢の方が実習を受けられました。「こんなに大勢の若者が映画の修復に関心を持っているのですね」と驚きの声をあげたら「若い人ばかりではない」とエレナさん。連れ合いは2006年から「映画の復元と保存に関するワークショップ」を始めましたので、同じ頃に似たようなことをしていたのですね。それを今も継続されているのは素晴らしいです。

劣化したフィルムを修復したあとデジタル化してデジタル修復です。PC画面で埃や映写傷など、ネガごと綺麗にします。最終の部屋ではデジタルで修復した後、再びフィルムに。そしてマスター・ポジに。地下では新しいスキャナーの機械を設置。ドイツ製のアリフレックス社製のアリ・スキャナーとアリ・レーザー。フィルムでもデジタルでの互換性のある作業を行い、すべてのフィルム素材を保存します。特にひどく劣化した音ネガの部屋では、音源の修復として薬品での化学的処理で修復していました。

化学薬品の上にフィルムを置いて、気化した薬品で修復します。劣化の状態によっては薬品を替えています。世界中からこの技術に頼ろうとフィルムが送られてくるそうです。この場面がもっとも興味深く思いました。ナイトレートフィルムは、劣化するとくっついてしまうので、それを丁寧にはがすのが腕の見せ所。
大きな試写室もあって、修復した映像を見て貰うスクリーンもあり、監督を呼んで一緒に作業することもあるそうです。この後その試写室で、私がずっと温めている問題についてエレナさんの助言を求めました。それから1か月経ち、少しづつ賛同者が増えて実現に向けて話し合いを進めています。

zoomをいったん切って車で15~20分ほど離れた場所に移動。ARCHIVIO DEL CINEMA E DELLA FOTOGRAFIA RENATO ZANCHERI(略してARZ)へ。今年6月に作業を始めたばかりなのだそうです。元々は1990年ワールドカップ(サッカー)がイタリアで開催された折りの駐車場で、ボローニャ市からは少し不便なところだったことから、誰も使わなくなっていたところに話が来て、アーカイブ・修復・上映活動などの場所として公的機関に認められたということです。ボローニャ復元映画祭の活動拠点にも使うそうです。

広々とした大きな施設に入ると、出迎えてくれたのは、フェデリコ・フェリーニ監督の映画に出てくる「カサノバ」。金星から降りてくるシーンに出てくるキャラクターです。連れ合いの隣がシネテカ・ディ・ボローニャの副所長エレナ・タマッカーロさんで、国際プロジェクト責任者でもあります。その隣が、立派な顎髭のANDREA MENEGHELLI所長。12月の京都ヒストリカ国際映画祭に来日されるそうです。そして通訳をしてくださった河野志織さん。河野さんのお陰でお二人のお話がよくわかり大助かりでした。通訳を探して下さったエレナさんに感謝です。このフロアーには上映室があるほか、展覧会や食事もできるようにして市民に開放する計画だそうです。30m×30mで900㎡もあり、今現在は8万本収蔵しているそうですが、まだまだ余裕があり、2階3階にも同じような収蔵庫を作るそうです。
この中も見学させてもらいましたが、電波の関係でzoomができなかったので、私に見せる目的のみを条件にビデオ撮影を許可して下さいました。ご配慮に感謝です。
キューブリックの『シャイニング』を思わせるような両側の白い壁と並んだ赤い扉が奥の奥まで続き、各ドアには、35mmネガ・フィルム、ポジ・フィルム、マスター・ポジフィルムが納められた部屋、デジタルデータやDCPを収めた部屋、また非フィルムのスチール写真やポスターなどの映画に関する資料類も部屋ごとに整然と保存されています。通路の先が霞んで見えるほど。圧巻の眺めでした。
まずは、イタリアの巨匠たち、ビスコンティやフェリーニ、パゾリーニなどの作品が先ずはここに収蔵されていていました。
温度は氷点にならないように2°Cに設定し、湿度は35~45%に保っています。普通の環境だと酸素は20%ありますが、火災の心配が付いて回るので15%まで酸素濃度を下げるよう設定しているそうです。

膨大な量の資料類の保存が可能で羨ましい限り。十分なバックヤードがあることはその博物館の価値とも言えて、例えばフランスのルーブル博物館では、展示スペースの何十倍もの倉庫(バックヤード)があって、その一部が展示されています。イタリアやフランスの文化的歴史遺産に対する認識や考え方の違いを思うと、日本の文化保存が余りにも貧弱に思えてなりません。広大なARZを目の当たりにして、まさに古代ローマ帝国の偉大さと巨大さを彷彿させる思いがしました。


