9月7日「チャップリン短編映画大会」を振り返って 河田隆史
チャップリン短編映画『移民』『冒険』『改悟』の上映会を開催しました。
この3本を選んだ理由ですが、まず1917年までの最高傑作『移民』は外せない。
それからギャグ満載で会場を沸かせてくれる『冒険』も外せない。
あと一本は絶対上映したいと思っていた知られざる名作『改悟』です。
期待どおり皆様も喜んでもらえたと思っています。おまけ上映のニセチャップリン映画『ここに停めるな』(部分)も前から機会を探していました。
これらを大森くみこさんの弁士、天宮遥さんのピアノで観る幸せ感は何にも変え難いです。自分が皆さんと共に観たいと思った3本です。皆様の笑い声が私の心配を吹き飛ばし、開催してよかったとしみじみ思いました。
チャップリンの『移民』はもともと移民がテーマの映画ではなく、パリのカフェを背景にしたコメディでした。監督チャップリンは台本を作らず、撮影を進めていく中でストーリーとテーマが現れるのを待つという、今では考えられない方法で映画を作っていました。この映画では結局NG率は20倍ほどになったようです。完全主義者チャップリンは少しでも自分が満足できないショットを許せなかったのです。完成度が上がり、ニセチャップリン映画が真似できないレベルに到達していたことをご覧いただけたと思います。
大森さんのていねいな解説と素早いツッコミ、天宮さんの上品でいじらしくも健気なピアノ。チャップリン映画にぴったりでした。このお二人でしか表現できないエレガントな空間を感じました。
大学生2人組は活弁とピアノ演奏つきのサイレント映画を初めて観るため遠くから来場してくれました。とても感激しておられて嬉しかったです。少しでも多くの方にサイレント映画の魅力、またチャップリンの魅力を知っていただきたいと思っています。どうぞこれからもよろしくお願いいたします。
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私の印象に残ったのは、なんといっても和製チャップリン。今年1月に開催した「友禅染めの着物で“映画”を装う」の展覧会で、チャップリンに似た人物が描かれた羽裏や長襦袢を見て、チャップリンの日本での人気の具合がうかがえると思っていたところ、1月7日付け三品幸博さんのFacebookの以下の記事
……幻の映画『チャップリンよなぜ泣くか』
原作監督:斎藤寅次郎,脚色:伏見晃,撮影:武富善雄、配役…チャーリー岡本:小倉繁,兄シボレー岡本:大國一郎,花売娘:六郷清子ほか。昭和7年7月8日公開。
『チャップリンよなぜ泣くか』のスチール写真を新たに数点発見。その写真と実際の来日時の写真を比較したところ、映画の場面は来日時のチャップリンの行動に基いたものが多くあったようです。本物のチャップリンが料亭で兜を被り刀を構える場面など、映画でも再現していたようです。
映画の冒頭場面が、僅かながら再現されている。「日本の諸君よ!われ等が世界に誇る国産喜劇王チャーリー岡本及び兄のシボレー岡本を乗せた船はいよいよ入港致します。しかし諸君よ、彼は絶対的歓迎嫌いである」船上に備えられたマイクロフォンの前では、上山草人に似た男が汗を流してアナウンスしている。傍に立ってそれを聞いていたシボレー岡本は大変に喜んで弟のチャーリーに知らせた。」
上山草人といえば、ハリウッドで『バグダッドの盗賊』などに出演し知名度抜群の国産俳優で、1929年の暮に帰国した際は熱烈歓迎をされたので、その状況もこの映画は利用していたのかもしれない。……
を読んでびっくり。着物柄に描かれていたチャップリンそっくりさんは、この国産喜劇王チャーリー岡本(小倉繁)という人物だと分かったからです。チャーリー岡本は、着物柄の人物に瓜二つ‼
河田さんもこの日の解説で、三品さん提供のチャーリー岡本の写真を紹介しておられました。もう一人、内田吐夢監督も『舶来鈍珍漢』(1926年)でチャップリンの扮装で主演されていて、世界の喜劇王チャップリンの影響の大きさがうかがわれます。
下掲の1921年『のらくら』上映時におこなわれたワシントン州でのチャップリンそっくりさん大会の写真も見せてくださいました。
こんなに多くチャップリンのそっくりさんがおられたのですね。当館所蔵おもちゃ映画のアニメーションに『のらくら歓迎会』(製作年、製作会社不詳)がありますが、人気漫画のキャラクター“のらくろ”そっくりさんということで、こういうタイトルになったのかもしれませんね。他に、おもちゃ映画の国産アニメーションに『チャップリンの手品』や『チャップリンと家鴨』(ライオン家庭フィルム)という作品もあります。玩具フィルムメーカーは、“チャップリン”と付けたら売れるとふんだのでしょう。河田さんは、A4判用紙両面にわたって、びっしりと上映作品解説を載せた手作り資料を配布して下さいました。映画を観ながら、あちこちから笑い声が漏れてきて、それはそれは良い時間でした。
活弁士の大森さんは、4月の全米活弁ツアー終了後に腰を痛めて、初めて救急車に乗って入院と手術を経験され大変でした。広大なアメリカ大陸での移動や異国での気遣いで体が非常サインを発したのでしょうか。でも、もうすっかり元気になられ、この日はコルセットを外して行う公演の最初だったそうです。大森さん、全快おめでとうございます‼ 活弁界の宝、大森さんのことを大勢の人が心配しておられたので、この日の関西弁をフルに発揮しての大森さんらしい活弁を大いに楽しまれた様子でした。ピアノ演奏の天宮遥さんとの阿吽の呼吸で、トークも上映も絶好調💗
9月になっても異常な暑さが続き、団扇で扇ぎながらの鑑賞となり、お客様には申し訳なかったのですが、団扇で涼をとりながら観た無声映画上映会として思い出の1ページに刻んで頂けたら、と願います。大勢の皆さんと楽しい時間を過ごせて何よりでした。
一生懸命準備された河田さん、元気になった大森さん、いつも素敵な演奏で映画の魅力を引き立てて下さる天宮さん、そして来場くださった皆様に心から御礼を申し上げます。