2025.07.03column
6月の振り返り④紙フィルム上映会『知られざる日本アニメの源流』ゆかりのお客様たち
前回書きましたように、6月23日(月)降りしきる大雨の中を、NHKBS国際報道の取材で、番組の主人公であるバックネル大学エリック・ファーデン教授と通訳のエリザベス・アームストロング先生、同大学大学院生2人が来館。私どもが取材に対応している間、二人は雑記帳に絵を描いてくれていました。
それが、これ。
テーブルの上に置いておいた雑記帳に、先日4人で遊びに来てくれた近所の小学5年生たちが書いた可愛らしい絵を見て思いついたのかもしれません。
のらくろを描いてくれたのが、松本海香瑠さん(写真右)。お母さんが日本人なのだそう。ポンスケの絵を描いたのは、Iaroslava Polusmakさん。
海香瑠さんは、マリランドのミドルタウンにピンをマーク。
ポールスマックさんは、ロシアのウラジオストックとサンクトぺテルブルクにマーク。日本では半月以上の長い滞在になり、疲れていないかなぁなどと心配しつつ、楽しんでくれていると良いです。エリザベス先生は、翌日大阪大学中之島芸術センターでのイベントで通訳をされてから、帰国されるというので、名残惜しく思いました。ダメもとで、一つお願いごともしました。上手くいくと良いけど。みんなが帰るころ、雨も上がって。
この日、エリザべス先生最初の一言が「お引越し大変でしたでしょう。」とねぎらいの言葉だったのが、先生らしくて素晴らしかったです。エリック先生には、紙フィルムの映写機をプレゼントしました。簡易なものですが、プレゼンをするときなどに使ってもらえたらと思ってお渡ししました。お二人には、新拠点を見ていただけて良かったです。毎回異なる大学院生さんを連れて来て下さるので、その出会いも嬉しいです。
25日は朝のうちにUCLA教授マイケル・エメリック先生、UCLAと早稲田大学が共同で展開している「柳井イニシアティブ」の窓口でお世話になっている上甲由美さんと山嵜早苗さんが来館。エメリック先生はUCLA側の代表をされている方です。初めて直接お目にかかることができました。今回の「知られざる日本アニメの源流」は「柳井イニシアティブ」の主催ですが、昨年4月にも全米4都市(ニューヨーク、ワシントンDC、シカゴ、ロサンゼルス)を巡回する催し“The World of the Benshi”を開催され、大きな反響を呼んで大成功を収められました。
今回エメリック先生と話をしていて、活弁ツアーの端緒となったのが、6月4日に来てくださったばかりのハミルトン大学大森恭子先生の提案だったことを知りました。初演時はロスで『雄呂血』を上映されましたが、映画の街ロスでも100人しか集まらなかったそうです。けれども、その次にしたとき、アメリカ人が「もっと見たい」と言ったのだそうです。それで2017年、活動写真弁士の片岡一郎さん、坂本頼光さん、大森くみこさんの3人が登壇し、3日間4プログラムを上映し、早稲田大学が所蔵するヒラノコレクションの楽譜で演奏されました。字幕のパワポは1万5千枚と膨大な量で、さぞかし大変だったでしょう。
この時は350人の定員が満席で売り切れ、50人もの人々を断らざるを得ない盛況だったそうです。この時初めて、声色掛け合いをしたのだとか。今では日本の上映会でも、経費的に余裕がある舞台では声色掛け合いがなされますが、この時が最初だったとは‼ 紙フィルムの面白さに気付いたのもアメリカ人なら、声色掛け合いの面白さに気付いたのもアメリカ人。私たちは当たり前すぎて身近な宝物に案外と気付いていないのかもしれません。たまには、よそ者の視点で見直すことも大切だなぁと、エメリック先生の話を聞きながら思いました。
いつもはメールでやり取りをしている上甲さんに、実際に館内を見てもらうことができました。エメリック先生は本当に優しくて、こちらの話すことに真剣に耳を傾けてくださったことが何より嬉しく思いました。二階で見てもらった戦前のアニメーションを、3人とも楽しんでくださいました。朝日新聞夕刊と日経新聞デジタル版の記事を掲示しておいたのも間に合って良かったです。
ようこそおいで下さいました。左からマイケル・エメリック先生、上甲さん、私、山嵜さん、連れ合い。西の日差しが強いのでみんな眩しそう。夏の間は玄関先で撮るのは難しいのかも。でも思い出の一枚になれば嬉しい。またお会いできる日が来ますように。
「柳井イニシアティブ」が尽力された“The Art of Benshi”は、雑誌『ニューヨーカー』のトップ映画評論家リチャード・ブローディさんが「弁士付き映画を今夜観て、これまでの自分の無知を恥じた」と述べ、2024年末に今年のベスト20を発表した時、1位は“The Art of Benshi”で、あとは順不同としたのだそうです。
それほどまでに感動してくださったKATSUBENを、今回は紙フィルム上映会『知られざる日本アニメの源流』と題して、東京、新潟、京都、大阪、愛媛、広島で巡回上映され、そのうちの京都会場では、25日17時から京都府立文化芸術会館で実施されました。片岡一郎さん、大森くみこさんの活弁と、デュオ夢乃(木村怜香能さんの箏、玉木光さんのチェロ)、鳥飼りょうさんのピアノと堅田喜三代さんの鳴物の演奏付きで上映されました。紙フィルムだけでなく、おもちゃ映画もご覧いただきながら、1930年代半ばの家庭で映像を楽しまれていた様子を追体験できる催しでした。
片岡一郎弁士
大森くみこ弁士
会場が大きなホールなので、どれぐらいのお客様がいらして下さるのか直前まで本当に心配しましたが、大勢の方が席を埋めてくださって、安堵しました。ご協力いただいた皆様に心より御礼を申し上げます。写真は当館所蔵の『特急忠臣蔵』。活弁と生演奏付きバージョンと、映像にレコードの音源を同期したバージョンを聞き比べてもらいました。
作品を提供した当館が京都にあるのを配慮してくださったのか、上映作品には当館のモノも多く含まれていたように思います。同じ作品でも弁士が異なると、また楽器が異なると印象がグッと違ってきます。それぞれの個性が感じられて、その即興パフォーマンスが大きな魅力。一昨日話したコロンビア大学の先生は、どうしても抜けられない用事があって第一部を見て帰られたのだそうですが、第二部のデュオ夢乃のお二人による箏とチェロの演奏を聞いてもらえなかったのが、本当に惜しかったと申しました。大変すばらしかったです。デュオ夢乃さんに依頼されたエリック先生の判断が素晴らしい。大森さんもSNSで書いておられますが、またいつかこのプログラムを再演できたら良いなぁと願います。当日上映した作品は、こちらに載っています。
左から二人目、マイケル・エメリック先生、ロチェスター大学ジョアン・ベルナルディ先生、八戸工業大学の戴周杰先生、名古屋大学の小川翔太先生。写ってはいませんが、京都大学のミツヨ・ワダ・マルシアーノ先生、大阪大学の東志保先生、立命館大学の竹田章作先生たちも駆けつけてくださいました。ご覧いただきありがとうございました。
帰りに寄った居酒屋さんで、マルシアーノ先生が編集された『映像アーカイブ・スタディーズ』を寄贈して頂きました。ベルナルディ先生、小川翔太先生も執筆されています。分厚い本ですが、大切なことが書かれていますので、ゆっくり読ませていただきます。お二人にサインをしてもらいましたが、明日の授業が早いからと帰られた小川先生にサインしてもらい損ね。今度お会いした時にお願いしましょう。そのほかの先生方にも同様に。写真撮影は戴周杰さん。遠くからお越しいただき嬉しかったです💗
【7月4日追記】
「柳井イニシアティブ」様から、昨年4月に実施された“The World of the Benshi”に合わせて出版された立派な装丁の本を寄贈して頂きました。
数多くの貴重な資料写真が掲載され、眺めているだけで日本の初期映画文化の様子がうかがえて面白いです。ほとんどの資料は片岡一郎さんが長年にわたって蒐集されてきたもののようです。
2021年1~3月、3期に分けて片岡さんのその成果の一端を披露する資料展を開催したことを思い出します。
『The World of the Benshi』は英語で書かれているので、海外の人にも日本のKATSUBENを理解して頂くのに最適です。当館に来館いただいた国内外の皆様にも手に取ってご覧いただけるように配架しました。この本については、こちらに載っています。参考になさってください。