2025.12.02column
この秋の印象的な出会いから(3)~ザビエル・デュラン先生
11月12日フランスからXavier Durandさんが来館。今年6月20日~9月28日に、フランス南部のカルカッソンヌ美術館にて、 “L’art du tatouage au Japon((和彫りの美)”展が開催されましたが、そのほとんどの展示物を所蔵されている方です。
昨年5月1日~7月28日に開催した「毛利清二の世界 映画とテレビドラマを彩る刺青展」の折に訪ねてくださったClaude Estebe先生の助言でご来館いただきました。お二人の共著で『Horimono Shashin』を出版されています。私が嬉しそうに手にしているのは、カルカッソンヌ美術館での図録。大変分厚くて立派な1冊です。

ザビエル・デュラン先生は日本のタトゥーの歴史に関する独立展覧会のキュレーター及び研究者としてご活躍です。いったいいくらお持ちなのかと尋ねましたら、刺青の古写真は70枚、刺青の浮世絵は450枚もお持ちだというのですから凄いの一言です。私は去年の展覧会も契機になって古写真のマーケットがあれば「横浜写真はありませんか?」と尋ねて回るのですが、皆さん一様に首を横に振られます。ましてや、刺青が写ったものはお目にかかる機会はめったにないでしょう。散逸することなく、デュラン先生のところで保存されているとわかれば、それはそれで安心です。

案内してくださったのは、この図録でも執筆された原田麻衣さん。

昨年の毛利清二展でも大活躍だった原田さんは、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程後期課程でフランス映画を研究する傍ら、東映太秦映画村・映画図書室学芸員として資料収集、保存、研究に取り組んでおられます。カルカッソンヌ美術館での最終日に現地に行かれ、展示に協力された毛利清二さんに関する資料を持ち帰るお役目も果たされました。上掲写真は昨年の毛利清二展での様子を撮った一枚。毛利さんは現在95歳で、今年5月18日に当館でお話してくださいました。写真通りの格好良さです。

眺めておられるのは、古写真のコーナー。幾枚かある横浜写真は、海外のオークションで購入したもの。明治の日本を写した写真ですが、日本土産として海外に持ち帰られたので、日本にはほとんど残っていません。デュラン先生も海外のオークションサイトをマメにチェックされていて、そういう努力があって成し得たコレクションなのですね。その手前にはカルカッソンヌ美術館展示で、古写真考証で協力されたクロード・エステーブ先生からデータで寄贈していただいた横浜写真を拡大して額装しています。狩野派絵師だった下岡蓮杖が屏風の絵などを自ら描き、その前に三味線と横笛を吹く女性二人を配した写真で、プリントした後で手彩色を施していて綺麗な一枚です。デュラン先生はその一枚もカメラに収めてくださいました。
お二人を知る契機になったフランス国立極東学院京都支部代表のクリストフ・マルケ教授も執筆されていますし、まだ存じ上げない先生方の論考、ふんだんに掲載されている写真など図録は見ごたえ充分。ご希望されれば館内でご覧いただけます。図録の中に1859年(江戸時代)ふんどし姿の労働者2人をピエール・ロシェがステレオスコープで撮影した珍しい立体写真もありました。

おもちゃ映画にも関心があるとお聞きしたので、説明しているところ。2年前の10月に、東フランス・アルザス地方にあるコルマール市で2027年開館を目指して準備中の「欧州日本マンガ・アニメ博物館」(アルザス・欧州日本学研究所)のイアン・グェン先生に「フランスでもおもちゃ映画ってありますか?」と尋ねたことがあります。「日本のように家庭用の35㎜の映写機材の販売はなかったはずですので、大きな規模のフィルム流通もあまり考えられませんが、骨董としての売買は今も専門的な業者がフランス全国にいますし、年に一回のパリ郊外で数日の集まりも存在しており、そこで映画に関するあらゆるものが販売され、フィルム業者も参加します」と教えて貰いました。


家庭用の35㎜の映写機材に関しては、当館にフランス製家庭用35㎜映写機があります。ケースには “Cinematographe”と書いてあり、ランプを使用しているので、1910~20年ぐらいのものだろうと思います。箱の中はガラススライドを収納できる設えになっていてること、レンズの後ろにガラススライドをセットできるような隙間があることから、もとは幻燈機としても併用されていたと思われます。日本のような映画館で上映後に切り売りされた35㎜フィルムではなく、下の写真のように、リトグラフのToyfilmを投影して楽しんだ道具ではないでしょうか。

とはいえ、何故グェン先生に尋ねたのかというと、2023年9月にアメリカのロチェスター大学ジョアン・ベルナルディ教授から、YouTubeで『クレオパトラ』(1917年)の新たに見つかった断片が公開されていると教えて貰ったからです。この断片持ち主のイギリスの方に問い合わせたところ、その断片フィルムはフランスで見つかったそうです。フランスでもひょっとしたらリトグラフではない“おもちゃ映画”が家庭でも楽しまれていたのではないかと思ったのです。デュラン先生のコレクション熱に“おもちゃ映画”も加わり、彼の地で幻のフィルム断片が見つかれば良いなぁと思います。それにしても、このパリ郊外で年一回開催される蚤の市も覗いてみたいものです。

世界遺産モンサンミッシェルから約1時間のところにお住まいで、「ブルターニュのシンボルマークは、日本の三つ巴の紋に似ている」と先生。ネットでBREIZNを検索すると、ブレトンはブルターニュ地方をいうようです。ケルト芸術にみられる伝統的な渦巻型三脚巴。来年家族で来日すると仰っていましたので、またお会いすることができれば嬉しいです。


