2016.10.25column
10月15日、チャップリン初期映画祭の日
10月15日は、朝から素敵なゲストがふんわりと来館。サイレントピアニストの柳下美恵さん。前日14 日18時から開催された京都国際映画祭「芸人が挑戦!活動弁士グランプリ」で、何人ものよしもとの芸人さんが挑戦する活弁の伴奏をしてくださいました。そして15日は同じく、よしもと祇園花月を会場に、14時15分開演のサイレント映画特集小津安二郎監督「突貫小僧」と「淑女と髯」の伴奏も担当。そのつかの間の休憩時間に立寄ってくださいました。
実は、この日夜ミュージアムでチャップリン初期映画祭をするために、思い切って新品のキーボードを購入したばかり。前日に演奏家の鳥飼りょうさんに来てもらってケースから取り出してセッティング。柳下さんも早速試し弾き。幸運だったのは偶然居合わせたお客さまたち。ワンコインで、国内外でサイレントピアニストとして活躍されている彼女の即興演奏を楽しめたのですから。
たまたま上映していた戦前の国産アニメーションに、早速演奏をつけて。この翌日には、東京のフィルムセンターでスウェーデン映画「一番強い者」の伴奏が控えていて多忙なため、小津安二郎作品の上映が終わるとすぐに東京へ戻られました。そんなお忙しい柳下さんに奏でてもらって、もしキーボードに心があるなら、さぞかし喜んでいたことでしょう。
続いてふんわり来館されたのは、笑顔がチャーミングな「真理ちゃん先生」こと坂本真理さん。16日大江能楽堂で開催された京都国際映画祭「サイレント映画特集 ショートコメディ傑作選」に登壇いただいた新野敏也・喜劇映画研究会代表のお友達。楽団「ぺとら」と「むらさきmusicラボ」の代表として活躍されています。今年12月10日喜劇映画研究会イベントでデビューするそうです。真新しいキーボードで早速演奏を披露。彼女によれば「ヨーロッパの駅には誰でも弾いていいピアノがある」そうで、それを連想したのだとか。5月の生演奏付き無声映画上映会では思いのほかレンタル費用がかかったので、赤字団体としては「清水の舞台から飛び降りる」覚悟で購入を決意しました。でも、真理ちゃん先生の楽しそうな、幸せそうな演奏の様子を見ていると、楽器があれば、こうして楽しい輪が広まって、それも乙なものだと思うのです。
そうして18時から始まった「チャップリン初期映画祭」には、たくさんの人にお越しいただけました。
京都国際映画祭2016では、「世界の三大喜劇王」の一人、チャールズ・チャップリンの代表作『街の灯』『黄金狂時代』『サーカス』『キッド』『モダン・タイムス』『独裁者』『ライムライト』『巴里の女性』と名作を大きなスクリーンで上映しました。ミュージアムではそういった大作ではなく、僅か10秒で終わる短いおもちゃ映画や長くても18分の短編映画などをまとめて11本、鳥飼りょうさんの生演奏付きで上映しました。
15日西本願寺安穏殿で『キッド』が上映されたときには、大野裕之・日本チャップリン協会会長の解説で、没になった映像を集めた「アウトテイク」が上映されましたが、そのレポートを読むと、チャップリンの弟が「将来お金になる」と踏んで残していたようです。それと同じなのか否かはわかりませんが、おもちゃ映画自体が短いので、1本終わるたびに苦笑が漏れ聞こえます。「初期はショート作品が主体で、放浪者のキャラクターも心優しさよりは、むしろコミカルな動き一辺倒で笑わせる非道なドタバタが主流である。貧民階層の市民として、当時の世相や政府を風刺するものが多く、思想的にはアナーキーでドライな作風が多い。周囲とのもめ事は始終絶えず、ラストは偽った身分もバレて、巡査との追いかけっこというパターンがお決まりである」とネットで書いてあるのを読みましたが、全くその通りで、結構民族差別意識や残酷な描き方もあり、後の作品に見られるハートフルなチャップリンとの差に驚きました。
この催しに合わせて、10月1日からチャップリンのポスター展も開催し、川喜多記念映画文化財団から寄贈いただいたポスターに加え、当会会員で日本チャップリン協会会員でもある河田隆史さん(写真上)にも、A3版のポスターと写真集をお借りして展示しました。15日は、上映後に河田さんからお話もしていただけて、充実した催しにすることができました。「1914~16年のチャップリンは、キャラクターが固まってくるころで、最初は結構残酷なのが、徐々に変わっていく。みんなで観るのが楽しい。上映した作品は、全てDVDで売っている」そうです。てっきり「滅多に観られない」作品を集めたと思っていましたので、正直「なぁんだ、ごめんなさい」という気持ち。でも、みんながみんなDVDを買えるわけでなく、生演奏で観る特別版。皆さん、満足していただけたのではないでしょうか。それから河田さんのおかげで、チラシに唯一製作年を(不詳)と書いた②の原題は「チャップリンの駆け落ち」で、1915年に作られたことがわかりました。この例のように、チャップリンの作品をおもちゃ映画として日本で販売するときに、様々な名称が付けられていたようです。
上映に際し、語学堪能な吉川恵子さんに翻訳をお願いして、字幕をつけました。「できるだけ短く、わかりやすく」を心がけて、ワイワイガヤガヤ賑やかな時間を共有しました。彼女の呼びかけで、当日はたくさんのお仲間が足を運んでくださったこともありがたかったです。初めて無声映画を生演奏でご覧になった方も多く、これを契機に、無声映画にも興味を持ってもらえたら何よりです。
「小津安二郎と松竹蒲田の手描きポスター展」も同時開催し、その所有者・竹田章作さんの誕生日が14日とお聞きしていましたので、てっきり来られるものと思って、10月生まれの官能さんと清水さんの3人一緒にバースデーケーキのローソクを消してもらおうと秘かに準備していました。結局竹田先生は他の行事と重なりお見えにならず、二人で微笑ましく「フーッ‼」。和やかな交流会は、こうして遅くまで続いたのでした。うっかり、いつもの集合写真を撮り忘れました。ごめんなさい。