おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2022.09.08column

児童文化史や印刷文化史を研究されたアン・へリング法政大学名誉教授の遺愛品を寄贈頂きました‼

5日、昨年3月初め頃にお亡くなりになったアン・へリング法政大学名誉教授の遺愛品が届きました。長年先生の助手として行動を共にされていた山田さんから「おもちゃ映画ミュージアムに差し上げることを先生もお喜びだと思います」と仰っていただきました。ご厚意に心より感謝申し上げます。

先生は、児童文学史や印刷文化を研究されていて、日本人の多くが忘れてしまっていた実用錦影絵「おもちゃ絵」を蒐集し、その研究成果を『おもちゃ絵づくし』(2019年、法政大学出版部)としてまとめ、その魅力を広めることに尽力されました。今回寄贈頂いたコレクションも、先生の関心の一端を表しています。とりわけ私どもが興味を持ったのは「レフシー幻燈」です。こういう遊び道具があったことを、今回初めて知りました。

レフシー幻燈は3種類ありました。①『絵ばなし文福茶釜』(下)/ ②『動物の観兵式』(下)※上掲写真/③児童劇『団子串助漫遊記』(下)。『動物の観兵式』には、なぜか1枚余分に“のらくろ”(下掲写真)が入っていました。

6.5㎝四方の厚手の紙に印刷してあります。これが12枚1セットになっていて、紙芝居のように読み上げる説明書が付いています。レコードと同期して楽しめるよう、それぞれに対応するレコードの商品番号も記載されています。残念ながらへリング先生のお手元には、そのレコードまではなかったようです。ちなみに①『絵ばなし文福茶釜』(下)に対応するのは「リーガル66337番B面」/②『動物の観兵式』(下)に対応するのは「リーガル66252番B面」/③児童劇『団子串助漫遊記』(下)に対応するのは「コロムビア26456B面」と記載されています。どなたかこれらのレコードをお持ちでしたら、ぜひご連絡を賜りたいです‼

レフシー幻燈をどうやって映し出して楽しんでいたのかが知りたくて、映像文化史家の松本夏樹さんにお尋ねしましたら、さすがよくご存じで、最近ネットオークションでレフシー幻燈『軍曹とその母』(上・下)と幻燈機を落札されたばかりでした。

それがこれ。正面から見たレフシー幻燈機。電話で松本さんは「幻燈機は簡単な仕組みだ」と仰っていましたが、さて。。。

背面がこれ。そこで改めて出品者がネットオークションに載せた画像を見ると、後ろ蓋の内側にバネが付いていて、そこにカードを押し込みます。写真では蓋から飛び出して見える“止め”がカードの溝に嵌ったらすっぽり抜けて落ちて、次の絵が出てくる仕組みのようです。おおよその仕掛けが分かったので、来年3月の幻燈体験のイベントまでに連れ合いが手作りすると申しています。

こちらは、松本さん所蔵の1937(昭和12)年『少年倶楽部』付録に記載されていたレフシー幻燈広告です。文字が読みにくいので、これらの写真を提供して下さった武蔵野美術大学非常勤講師で早稲田大学でPDとして視覚文化史の研究をされている福島可奈子さんに、書いてあることを教えて頂きました。それを以下に。

…………

トーキー式 紙芝居の幻燈

紙芝居、お伽噺が極彩色に映せる今迄にない優秀品です。尚雑誌の口絵や漫画及自分で書いた図画等々が大きく幻燈に映して見る事ができるので大評判です。

定価カード二組付 壱円二十銭

送料・内地 二十七銭

其他の地方 七十二銭

…………

ちなみに昭和12年の銀行の初任給が70円、純金1グラムが3円84銭です。福島さんによれば、12月に刊行予定の『混淆する戦前の映像文化―幻燈・玩具映画・小型映画』で、レフシー幻燈について詳しく執筆されているとのこと。今から拝見するのが楽しみです💗

 

さて、レフシー幻燈3種類に続き、へリング先生遺愛品のご紹介④

これは、漫画を切って繋いでフィルム状にしたもの。片面24コマで、両面で48コマの絵が糊付けして繋いであります。先ほどのレフシー幻燈広告の通り、雑誌の漫画を切って幻燈に映してご覧になったのでしょうね。用いられている漫画について、初期漫画研究者の新美ぬゑさんに尋ねたところ「田河水泡が『婦人倶楽部』に付録で描いていた『凸凹黒兵衛』で、1935年3月号」だそうです。手元に同じ3月号をお持ちでした‼「この漫画は『婦人倶楽部』をとっている母親が子どもに与えられる付録として付けられていたもの」なのだとも教えて貰いました。へリング先生が入手される以前の所蔵者が切って繋いだものでしょう。

 

続いて、レフシーフィルム5点の内容は/⑤『お月さん』(8.5㎝四方の紙箱入りのアニメーション)/⑥『スタコラサッチャン 狸の風船王』(9.5センチ四方の紙箱入り。30米、アニメーション)/⑦『證誠寺の狸囃子』(12.5㎝四方の紙箱入り、アニメーション。ビクター50669Aと書いてありますので、大阪の“家庭トーキー”だけでなく、先行開発社の“レフシー”もレコードと同期して楽しむ仕掛けがあったのですね)/⑧『孤島の楽園』(上)(9.3センチ四方の紙箱入り。30米。著作権者は東京の家庭映写機株式会社で、1933〈昭和8〉年10月7日発行の実写版)/⑨『ターザン』(下)(9.3㎝四方の紙箱入り。同じ会社から、1934〈昭和9〉年8月8日発行の実写版)。『スタコラサッチャン』も元は田河水泡の漫画だそうです。

 

とここまで書いてきて、Twitterを見たら、知り合いのYoriko@judynpunchさんが、以下の写真2枚を添えて、実に興味深いことを発信されていました。プリンストン大学図書館で今日撮影されたそうで、許可を得て転載させていただきました。

「紙フィルム(上写真)発行の構想がわかる箱書。キュレイター@プリンストンが Mr. Yoneo Ota だったら実演してもらえたかも。デジタル化時代、音にあわせたヴィデオ上映もやがて大学図書館から配信されますように。(下写真)18㎝四方の紙袋に入るA面B面を合体したような分厚い盤。丈夫に見える」とあります。これまで、紙フィルムは日本独自だと思ってお客様に説明していましたが、アメリカにもあったのですね。しかも、“レフシー”や“家庭トーキー”と同じようにレコードと同期して楽しんでいたなんて‼ 「発行の構想が分かる箱書き」の文言が気になるので、来週帰国されるのを待って教えてもらうことに。

アン・へリング先生遺愛品の⑩はドイツで出版された幻燈機の本『ラテルナ・マジカ』(15.4㎝×22.5㎝の大きさで25頁)。著者はエルンスト・ホノルト。付録に自分で幻燈機を作るときの図面と紙に印刷したカラーの幻燈画が付いています。ドイツ在住の知人に尋ねたら、「この表紙を直訳すれば“遊びと労働”ですが、意訳すれば“作って遊ぼう”みたいな感じでしょうか。模型幻灯機を作るための説明書もついたもののようです。宣伝の文章に“聡明な子どもは自分のおもちゃを自分で作る”と書いてある」そうです。

最後の遺愛品⑪はアニメーション作家岡本忠成さんの代表作の一つ『モチモチの木』(1972年)の35㎜フィルム。大好きな作品で、2020年2月16日に岡本さんの没後30年を記念してアン・へリング先生に「芸術アニメーションの巨人、岡本忠成」と題して講演していただいた時には、やはりへリング先生宅にあった16㎜フィルムの『モチモチの木』を少し上映しました。参加者の皆さんに、フィルムが劣化して赤く退色している様子をご覧いただきたかったからです。その振り返りはこちらで書いています。5日にフィルムを見た連れ合いが「今なら救えるかもしれない」と申すので、直ぐに国立映画アーカイブに連絡しましたが、「㈱エコーさんから原版の寄贈を受け、さらに35㎜、16㎜も所蔵しているので、新たに受け入れは難しい」との返事でした。仕方ないですね。でも岡本さん直筆のメモ書きがあるのは貴重だと思います(最初に載せた写真をご覧ください)。

ということで、9月5日に寄贈頂いた11点をご紹介しました。これらのことについて、今後新たに分かったことがあれば、その都度ご紹介しますね。

天国のアン・へリング先生、そして助手の山田さん、お二人を私どもに繋いでくださったイラストレーターで絵本作家の吉田稔美さんに心より御礼を申し上げます。ありがとうございました!!!!!

10月2日(日)まで、静岡市内にあるフェルケール博物館で「アン・へリング コレクション 遊ぶ浮世絵  おもちゃ絵展2」が開催中です。Part1の時は見事な立版古(組み上げ灯籠)に目を奪われました。ぜひアン・へリング先生が愛を込めて蒐集された「おもちゃ絵」の数々を、実際にご覧になってください!お勧めします‼

【9月17日追記】

米国から帰国されたYoriko@judynpunchさんに先の呟きの「箱書」を以下に訳して頂きました。

…………

アンクルサムの映写機用デュラカラーフィルム

映画用テクニカラーカラーフィルムの実物同様に鮮やかな色彩で映画の国の有名なスターたち、漫画キャラクターたち、御伽噺を描き出す。

デュロトーンレコード

蓄音機用通常7インチ両面製。録音はラジオの現場技術者。デュラカラーフィルムとは常にシンクロする。

以下番号ごとに

50番台 ポパイ

60番台 スクラッピー(犬の名前?)

80番台 ベッティー・ブープ

100番台 有名作家キャラ

110番台 有名作家キャラ    111ディック・トレイシーin

120番台 御伽噺 兎と亀

130番台 御伽話

70番台 トム・ミックス

90番台 コーリン・ムーアの人形の家

     ※※※は映画トレーサー

タイミング的に「紙フィルム」の文言だけに私が気を取られて、早とちりしてしまったことに漸く気が付きました。同じ「紙フィルム」と言っても透過式で、反射式(レフシー)ではなかったのです。ということで、レフシー(家庭トーキー)フィルムは、やはり日本独特の商品だったのでしょう。

参考に、以前草原真知子早稲田大学名誉教授から送って頂いた画像を貼っておきます。プリンストン大学図書館所蔵のものは、これと同じ種類かと。

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