おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2023.03.12column

祝!第46回日本アカデミー賞最優秀脚本賞は向井康介さんの『ある男』

今朝はMOVIX京都へ行き、9時から上映『ある男』を鑑賞しました。10日の第46回日本アカデミー賞授賞式で作品賞、石川慶さんが監督賞と編集賞、妻夫木聡さんが主演男優賞、窪田正孝さんが助演男優賞、安藤サクラさんも助演女優賞、大阪芸大映像学科卒向井康介さん(V95)が最優秀脚本賞、小川武さんが最優秀録音賞と最多の8部門で最優秀賞に輝いた作品です。

日本アカデミー賞にノミネートされた段階から凱旋上映されていたので、大きなスクリーンで観ることが出来ました。旬の話題性と日曜日が重なってなのか結構席が埋まっている光景を目にして、嬉しく思いました。血のつながり、死刑制度、民族差別、戸籍や苗字の問題なども含まれていて、重たい面もあり、全編を通してどんよりした天候の中で進みます。澄み切った青空のような人生を送っている人はそう多くはないでしょうが、世の中には、自分ではどうしようもない問題を抱えて生きている人はおられます。

凄い存在感を放っていた柄本明さん演ずる服役中の戸籍交換を仲介するブローカー小見浦が妻夫木聡さん演ずる弁護士城戸に答える場面のセリフ「交換じゃなくて、身元のロンダリングですよ。汚いお金と同じで、過去を洗浄したい人はいっぱいいるでしょ?」を聞きながら、私は自分事の世界に飛びました。30人にも満たない田舎の小学校時代の同級生一人のことを思いました。借金がもとでずっと消息不明です。とても明るい人だっただけに犯罪なんかとは無縁だと信じていますが、どこで、どうして生きているのかと案じています。出来る事なら人生をリセットして、新たに歩みたいと願っている人は他にもおられるでしょう。

安藤サクラさん演ずる里枝が再婚した相手、窪田正孝さん演ずる「谷口大祐」は事故で突然亡くなります。大祐の言いつけを護って里枝は彼の実家に死亡の連絡をしませんでしたが、一周期を控えて納骨の問題があるので実家へ手紙を出します。訃報を知った兄がやってきて仏壇に供えてあった遺影を見ますが、思いもよらず「自分の弟ではない、別人だ」と言います。「自分が愛した人は、一体誰だったのか?」、そこから里枝は以前離婚問題で相談にのって貰った城戸に相談します。なぜこうしたことが起きたのか?と城戸が調査を進めていくというミステリーです。

里枝の連れ子の悠人が「僕にはまだまだお父さんに聞いてもらいたいこと、相談したいことがたくさんあった」と父親「谷口大祐」を慕い、遺骨をいつまでも納骨できないでいることや母の離婚・再婚で姓が変わり、父の死で「僕また姓が変わるの?」と複雑な思いを抱いていたので、里枝は「あの人がなぜ名前を変えて生活しなければならなかったのかわかったの」と言って城戸から受け取った報告書を渡します。報告書を読んだ悠人は「お父さん、自分が父親にしてほしかったことを僕にしてたんだと思う」と言って泣き出す場面は、グッときました。

報告書の中で城戸は「亡くなられた原誠(「谷口大祐」を語っていた夫の本名)さんは、里枝さんと一緒に過ごした3年9か月の間に、初めて幸福を知ったのだと思います」と書いていました。ラストに「えっ」と思う展開もありましたが、どんな人にも内に秘めた思いがあり、それを隠したまま、時には「ある男」「ある女」になって、表面を取り繕いながら生きていくのが人生なんだなぁと思いました。向井康介さんのアカデミー賞最優秀脚本賞受賞記念にパンフレットを買おうと思いましたが、再上映の場合は販売しないのだそうです。残念‼

10日東京のグランドプリンスホテル新高輪国際館パミールで開催された第46回日本アカデミー賞授賞式に出席された脚本の向井康介さん(向かって右)と撮影の近藤龍人さん(V95 )から、連れ合いに写真が届きました。共に『ある男』での受賞で、近藤さんは優秀賞に選ばれましたが、惜しくも最優秀賞受賞ならず。でも是枝裕和監督『万引き家族』で、すでに第42回日本アカデミー賞で最優秀撮影賞に輝いています。大阪芸大出身者として、今後もお二人には日本映画を大いに牽引して活躍して下さることを期待しています。

改めて、向井康介さん、近藤龍人さん、この度の受賞、誠におめでとうございます!!!!!

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