おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2023.03.13column

中学生による活弁挑戦

昨日受け取ったメールの中に、4月から中学2年生になる東北地方に住む男子からのものも含まれていました。その内容が良いので、一人で読んでお終いにするのではもったいなく思われ、少しばかりご紹介。

昨年のことですが、当館が作った特典DVD『ちゃんばら時代』が欲しいと連絡が来て、「正会員とサポーターになってくれた人にお礼にプレゼントするものだ」と伝えたところ、「いつか、おもちゃ映画ミュージアムを訪れたいから」とサポーター会員になってくれたN君が、以下のメールの送り主。

「文化祭で無声映画を広めたいと考えていて、今が行動に移す時期だと思っています。けれども活弁出来る映像がないため、どのようにその映像を入手したらよいでしょうか」と助言を求め、「文化祭で活弁を行う時、5分程度しか持ち時間がありません。それでYouTubeでみてもその尺でまとまらないため、おもちゃ映画ミュージアムに連絡しました」という第1報。

昨年受け取ったお母さまからのメールでは、N君は小学生の時から活弁に興味を持ち始めたそうです。メールを受け取った私は、「無声映画を広めるのに大変心強い味方が現れたと思って、将来を楽しみにしています」と綴り、続けて「本来なら使用料を頂戴して映像をお貸しするところですが、今回は少しでもあなたの活動を応援できればと思うので、約3分半程度の無声映画の断片を提供します」と書いて、日本最初の映画スター「目玉の松ちゃん」こと尾上松之助が主演した『自来也』(1925年)の映像を送りました。短い断片ではありますが、2017年に当館で新たに見つかった貴重なフィルムです。

さらに続けて「その代わりに、活弁で紹介する時に、ご覧になっている方のお家や親戚、知り合いの家に、古いフィルムがしまわれたままになっていないか点検してほしいと呼びかけて欲しい」と書き、完成したばかりの小冊子8の表紙画を添付メールで送りました。

着物柄に描かれた家庭用映写機で映像を楽しむ子どもたちの様子です。かつては、上映が終わった後に、映画の場面の中から動きがあって面白い部分を切って小さな缶に入れてデパートのおもちゃ売り場で販売されていました。戦争が激しくなると缶は紙箱にかわります。これらのフィルムを、コレクターの間では「おもちゃ映画」と呼んでいましたが、本物の35ミリフィルムです。アニメーションに関しては上映されていたものもありますが、おもちゃ映写機用に拵えられたものもたくさんありました。提供したのは当館で見つかったパテ・ベビー(9.5ミリ)版ですが、家庭でも16ミリ、9.5ミリ、8ミリといった小型映画も楽しまれていました。

経年劣化で、今はフィルムを救出できるギリギリの時期なのです。2015年5月に当館が開館して以降、東北地方から「フィルムがある」という連絡は受けたことはありませんが、連れ合いが20年ほど前に始めた「玩具映画プロジェクト」の折には、青森県の三沢市先人記念館の方から修復を依頼されたフィルムの中に『上海事変』の映像が含まれていました。ひょっとしたら彼の地のどこかの家の蔵や押し入れの奥に、眠っているフィルムがまだあるのではないかと思うのです。N君にはそれを発掘する手伝いをして貰いたいと依頼しました。

と同時に、今活躍中の活動写真弁士さんと楽士さんが大勢出演される「京の活動写真 下鴨映画祭」のことも伝えました。4月16日~23日、下鴨映画祭公式サイトへアクセスすれば「松ちゃん」の作品だけでなく林長二郎(後の長谷川一夫)が出演する貴重な無声映画、合計4作品が無料で見られるので、活弁の勉強になると思ったのです。

N君からの返信メール第2報によれば、ありがたいことに、彼は私が書いているホームぺージの記事を読んで「京の活動写真 下鴨映画祭」のことを知っていました。

曰く「私はその記事をじっくり拝見して『め、目玉の松ちゃんの映画が沢山ある!』と思い、目が飛び出るほどビックリしました。しかも『自来也』という作品があるとは、これまた初耳でした。今回のことを機に、パテ・ベビーや切り売りフィルムの大切さがもっとわかりました。ありがとうございます」と綴られていました。

下鴨映画祭ではマツダ映画社所蔵の牧野省三監督、尾上松之助主演『豪傑児雷也』(1921年)を片岡一郎さん、大森くみこさん、若手の尾田直彪さんが活弁をつけ、6人からなる和洋合奏団が演奏を付けて上映されます。「二つの作品を見比べてみるのも勉強になりますよ」と早速返信メールを送った次第です。

それにしても今現在は中学1年生のお子さんが、「め、目玉の松ちゃんの映画が沢山ある!」と「目が飛び出るほどビックリした」というのも凄すぎます。N君の努力で、彼の周辺からジワジワと無声映画の良さが広がっていけば良いなぁと期待しています。この話、「京の活動写真 下鴨映画祭」主催者である尾上松之助遺品保存会代表の松野吉孝さんがお読みになられたら、どれほど喜ばれることかと思います。松野さんは「目玉の松ちゃん」のことを忘れて欲しくないと、その一念だけで並々ならぬ努力を積み重ねておられるのですから。思いが確実に次世代に繋がっていて、本当に良かったですね、松野さん💗

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