おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2024.11.29column

12月1日「マニアックな初期映像装置を体験してみよう!」

いよいよ明後日に迫ってきた橋本典久さんと馬場一幸さんをお迎えして開催する「マニアックな初期映像装置を体験してみよう!」です。

先ほど、橋本さんから大きなしっかりした箱3つが届きました。中には、これまで彼が製作してきた数々の初期の映像装置のレプリカが入っています。橋本さんは映像玩具の科学研究会を主宰されていて、アーティストでもあります。先ごろ10月5日東京工芸大学で行われた橋本さんによる発表とトークイベントの記録動画を見せて貰いましたが、内容が濃く、大変に面白かったです。アニメーションの原理が良く分かる光学玩具の一つ“フェナキスティスコープ”は、日本の映像に関わる人々の間では“驚き盤”と言われていますが、どうしてこの名前で呼ばれるようになったのか-、その背景を追跡研究して発表されました。知的好奇心を満たすこんなに深い研究が繰り広げられるのだと感心しました。

“フェナキスティスコープ”(写真上部の丸い盤)が“驚き盤”と一般に呼ばれるようになったきっかけは、日本アニメーション学会名誉会長の古川タクさんが作られたフィルム作品「 驚き盤」が、1975年にフランスのアヌシー国際アニメーション映画祭で審査員特別賞を受賞されたことです。

東京工芸大学では9月20日~10月10日に「—Taku Furukawa タクペディア展―」が開催され、同大学アニメーション学科設立20周年、イラストレーション集『TAKUPEDIA』が第53回日本漫画家協会賞大賞受賞を記念して開催され、関連して行われたイベントの一つが橋本さんの発表と古川先生とのトークイベントでした。その最後に古川先生が「いやー、凄い人が現れた」と橋本さんのことを仰ったのも頷ける発表でした。ちなみにこの日のイベントの合間に橋本さんが12月1日の催しの宣伝もして下さいました。初期映像装置に関心をお持ちの人々に、当館のことを知って頂ける機会となったことに感謝しています。

さて、時間がなくて振り返りが書けないままだった9月21日(土)の催し、「初期の映像装置“ミュートスコープ”を再生して見よう」Part1のことを、思い出しながら書いてみます。催しを開催する経緯については、こちらで詳しく書いています。

発表は、どうして日本では“フェナキスティスコープ”を“驚き盤”と呼ぶようになったのかの話から始まりました。橋本さんがステレオスコープのレプリカを3Dプリンターを駆使して作った時に、草原真知子早稲田大学名誉教授が「ステレオスコープは日本では島津製作所が作ったのよ」と言われたのだそうです。それで島津製作所創業資料記念館のホームページを見ていたら、“ゾートロープ”(写真左のスリットがある円筒形の道具)という装置を“驚き盤”と紹介してることに気が付きました。映像業界で“驚き盤”は絶対に“フェナキスティスコープ”のことを指しているので、間違って紹介しているのではないかと島津創業記念館に問い合わせたところ、「明治期に発行したカタログに“驚き盤”と書いている」という返事があったのだそうです。じゃ、実際にそのカタログを見せて貰おうと京都に来られた時に、当館にお立ち寄り頂き、それ以来親しくさせて貰っています。

10月5日のトークイベントでは、古川先生の「驚き盤」を発端に、どこかで“驚き盤”という装置を“ゾートロープ”から“フェナキスティスコープ”に替えてしまって、誰も否定しないままに今に至ったのではないかということに。トークイベントの結論で、当時の映像系視覚玩具をまとめたジャンルとして“驚き盤”ということで良いのではないか。“ソーマトロープ”(写真手前の鳥籠の絵を書いた丸い台紙)から“プラクシノスコープ”(右の中央円筒に細長い鏡を貼り巡らした道具)もまとめて全部ということに。この結論に私も賛成です。

さて、肝心の“ミュートスコープ"は、大きなリール(上掲写真)だけがあったのですが、何が映っているのかパラパラ漫画のように見たいから、それを叶えて欲しいとリクエストしました。“ミュートスコープ”そのものは、イギリスのブラッドフォードにある国立科学メディア博物館でご覧になった経験がおあり。サンプルに見せて下さったのはチャップリンのサイレントコメディで、円形に組まれた写真は850枚ありました。当館のものと同じ枚数。この装置は当時、映画館以外で最も広がった装置で、コインを入れると電源が入り、回って一周すると止まる仕組みです。

依頼したリールに「INTER MUTO REEL CO./PAT'D /MADE IN USA N.Y.C」サブジェクト№ 「F7179」とシリアルナンバーが付されていました。トム・レヴァランドという方のwebサイトに“ミュートスコープ”のリールの№とタイトルが載っていて「F7179」は"The Next War"というタイトルだと判明しました。このサイトでは「オリジナルのミュートスコープのリールを作ります」と書いているので、今も受注生産しているようです。ちなみにメリエスの『月世界旅行』は900ドル。ビンタレスというwebサイトで、キーワード検索すると画像検索ができて、いろんなタイプの“ミュートスコープ”を見ることが出来ます。

そこまで調べてきた橋本さんは重大なことに気が付きました。ネットで見るそれらと当館が依頼したリールでは写真の上下が逆さだったのです‼ 普通のリールは外周が上になり、円の中心側が下なのですが、当館のはリールの中心に向かって上、リールの外周に向かって下でした。それまで検討していた形では使えないことが判明した瞬間でした💦光学玩具に詳しいUCLAのエルキ・フータモ先生に尋ねたら、最近出たばかりの2部構成の大きな歴史書『ミュートスコープ:2つの会社の物語』に後期モデルで画像が上下逆になったものが載っていたような気がする。おそらくユーザーが視聴するリールを選択できるセレクタモデルだったのだろう」との助言を得ることが出来ました。折も良く9月7日に橋本さんが発注していた本『セレクターミュートスコープ』が届き、当館のと同じ“ミュートスコープ”が載っていました‼

わざわざボックスを作っているのは、暗くすると絵が見えませんが、コインを投入すると電気が点いて絵が見えるようになる仕組みです。傍で見ていると、覗いている人だけが面白い。「この人、面白そうなことを今している」というふうに思うわけで、広告になります。ここで私が思い出したのは、2019年5月19日に開催した細馬宏通早稲田大学教授の講演タイトル「わたしにも覗かせて-覗くこと、待つことの想像力-」。この時の振り返りはこちら

“セレクターミュートスコープ”には、5つのタイプのリールを納めていて、ユーザーが見たいリールを選ぶことが出来ます。アメリカのラプキンは電気式ムトスコープ社のムトスコープ改良に執念を燃やし、1937年に特許を取得し、1939年ニューヨーク万国博覧会でラビンが経営するエルノマーアーケードで初めて使用されました。特許の使われた部分は鏡を使って映像を見る側に移動させるアイデアでした。鏡を使うと画像が逆さまになるので、この機械用のリールは特別に印刷され、各カードに画像が逆さまに印刷されました。残念ながらこの機械は大成功を収められなかったようです。なので、もしも“ミュートスコープ”用のリールを買う場合は、セレクタリールでないことを確認することが大事です。標準の“ミュートスコープ”には収まらなくて見ることが出来ないからです。まさに連れ合いは、イーベイでこのリールを買ってしまったのでした💦

この日は、橋本さんの提案でこの後で発表して下さる馬場一幸先生が館内をスマホで撮影して、その映像をもとに新たにリールを拵えて12月1日に初披露することになりました。

ですので“セレクターミュートスコープ”用に組み立てて下さったリール(上掲)のパラパラ漫画を見ることになります💗大変な手間をおかけしてしまいました。

歯車が48回転するとリールは1周します。普通の“ミュートスコープ”は真横を見ることが多いですが、この“ミュートスコープ”は真下を見る形です。「The Next War」は第1次世界の戦艦や戦車が映っているのかもしれません。当日ご覧になった河田隆史さんによると「アメリカの戦艦に特徴的なカゴマストがありました。戦車はイギリス製の菱形戦車です。アメリカ軍も戦後使用したようです」と教えて下さいました。

説明をしながら手際よく組み立てていく橋本さんから、おもちゃ映画ミュージアムの手作りシンボルマークを手渡され、それを私がミュートスコープ本体正面に貼って完成‼

「何が映っているのか、本当に見たかったの!嬉しい‼」と何度も頭を下げながらお礼を言いました。その後参加者が順番にハンドルを手回ししながら「The Next War」を覗いて体験しました。

続いて、東京工芸大学助教馬場一幸さんの発表に。東京藝大大学院時代の卒業制作で撮影を担当されていたので、映像のことはよくご存知。フィルムスキャナーはコストとクオリティが比例する関係にあり、フィルムに対する安全性も図で示しながら、フィルムを傷つけることなくどうやって送れば良いのかを考えておられました。そこで思いつかれたのが誰もが持つようになったスマートフォン。スマホをカメラのレンズにしてスマホのカメラが撮影した映像をパソコンに送り、パソコンの側でその処理をする装置を作りました。後にパソコンが不要になり、スマホの画面に映像を出して、チェックできるように進化しました。

特定のマーク、例えば星印を画面の中に入れるとレンズがその星印を追っかけるソフトを開発されました。12月1日の体験会では、馬場さん考案のこのソフトと橋本さんが作られたフィルムを抑える部品を使ってその様子を見て、体験をします。

紙フィルムを使って実演したこの日、馬場先生が考えられたソフトを公開されました‼ (仮称) A film viewer built with JavaScript (fvjs) で、 https://www.lab-bb.org/fvjs/

同じ印が入ったものがあれば、それをプログラムが追っかけてくれるソフトです。それは等間隔でなくても、穴が開いていても開いてなくてもいい。同じ形の印があればレストレーションのためのKEYなのだとプログラムが察知して、指定されたものを画面の中から探して、そこに相対値を合わせる仕組みです。スマホだけでするので、最低限の機能だけで動かしています。馬場先生は「スマホのスペックは年々あげられるので、だんだんと機能はあげられると思っている」と話しておられました。

お話によれば、災害で被害に遭ったフィルムをとにかくプレビューして見たいという場合に、人海戦術でやるには手元にあるスマホを使うのが良いと考えて、この研究に着手されました。明日は、それがどのように見ることが出来るのか初披露です。みんなで目撃者になりましょう‼

先着25名ですが、あと少しお席に余裕がございます。若い橋本さん、馬場さんの研究を通して科学の面白さを知って貰える機会になればと思いますので、子どもたちの参加も大歓迎です。

最後に恒例の記念写真。講師の橋本先生、馬場先生、そしてご参加いただいた皆様に御礼を申し上げます。遠方からも来ていただき大変嬉しかったです。

なお、12月1日はアンナ・ウェルトナー監督のドキュメンタリー映画の撮影もあります。ひょっとしたらお顔が映り込む場合があるやもしれません。その許可を得たく受付時に署名を頂きます。それが苦手だという方は入館の折に係までお申し出下されば、配慮します。皆様のご協力を宜しくお願いいたします。

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