おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2017.12.15column

12月17日「第1回轟夕起子講座」~フィルム調査を踏まえて

12月17日に開催する「第1回轟夕起子講座」のため、主催者で講演者でもある映画史家・山口博哉さんが轟夕起子出演の映画フィルム(下掲写真)を携えて7日に来館。この16㎜フィルムは今まで嗅いだことがないような強力酢昆布のにおいを放っていました。名古屋のフィルム・レンタル会社から借用したものです。当初は、開催当日午前中に点検し、ぶっつけ本番で上映という計画のようでしたが、今では16㎜で上映する機会が少ないことや、何より異臭を放つフィルムの状態が気になったので、事前点検をするよう勧めました。

映写機については問題がないのですが、レンタル会社から借用したフィルムということもあり、万一に備えて、専門の映写技師の方に点検していただくよう勧め、9日に山口さん立ち合いのもと、シネマトグラファーの石井義人さんに来ていただきました。石井さんは、京都国際映画祭で上映する35㎜映写機の修理や、当館所蔵映写機のメンテナンスもお願いしていますし、山形国際ドキュメンタリー映画祭にも出向いて映写技師を務めておられるベテラン。フィルム映写に関して信頼を寄せていることから、山口さんに紹介しました。

DSCN7340A彼が選んだ映画は、『一等女房と三等亭主』(1953年、小森白監督)、それにサプライズとして『今日われ恋愛す(愛欲篇)』、『今日われ恋愛す(争闘篇)』(1949年、島耕二監督)の3作品。全国のアーカイブを調べ、8月20日~10月21日にラピュタ阿佐ヶ谷で開催された「昭和の銀幕に輝くヒロイン[第86弾]轟夕起子」のプログラムにも入っていない、ほとんど上映される機会のない珍しい作品ばかりです。

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早速、映写テストを実施。金属製のフィルム缶を開けて、ビニール袋に入ったリール・フィルムを出すと、たちまち鼻に突き刺さるような酢酸の臭いがして、皆一様に悪臭ガスに顔をしかめました。ほとんど上映される機会がないまま20年近く置き放しだったフィルムのようです。

普段から上映されるフィルムは、劣化しても酢酸の濃度が低いため、フィルムには影響が少ないのですが、密封された鉄缶やケースに入り、それもビニール袋に入って長年放置されていると、酸化濃度が高まり、劣化を早めます。少しでも上映の機会があり、巻き戻しなどをしていると映写には、それほど支障がないのですが、無人となった家の朽ちるのが速いのと同様に、上映機会がないまま保管状態が悪いとフィルムの劣化が進行します。

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『一等女房と三等亭主』は冒頭あたりの劣化で済んだようですが、『今日われ恋愛す』は前・後篇とも、劣化が著しく、蜘蛛の巣か、細かく割れたガラスのような模様が入り、上映できる状態ではありませんでした。上の写真は、『今日われ恋愛す』終盤の劣化状態を写したものです。

これらの映画は、配給会社の東宝が管理しておられると思いますが、兵庫県の旧宝塚映画撮影所内に設立したCAC(シネマ・アーチィスト・コーポレーション)が製作した作品です。CACは映画芸術共同ともいい、マキノ雅弘監督が主宰し、義兄の高村正次が社長を務めた会社です。映画史的にも貴重な作品なので、原版がきちっと保存されていることを願っています。

夕方、部屋の中に充満した酢酸臭が取れない中で、一応点検を終え、17日に上映するプログラムを見直しすることに。『今日われ恋愛す』に代わって『母は死なず』をDVD上映に変更になりました。画質は良くありませんが、珍しい作品だそうです。『一等女房と三等亭主』は、半分は上映可能なので、山口さんの解説を挟みながら、一緒にご覧いただきます。

『一等女房と三等亭主』について、山口さんがFacebookでストーリーを書いておられますので、それを以下に転載します。

1953年(昭和28年)11月10日封切/製作=新東宝/配給=新東宝/9巻/2535m(約94分)/モノクロ/スタンダード
   
●スタッフ 監督=小森白(第1回監督作品)/脚本=松浦健郎/原作(案)=並木透(藤本プロ同人)/撮影=岩佐一泉/製作=金田良平/音楽=松井八郎/美術=伊藤寿一/照明=傍士延雄/録音=片岡造/編集=後藤敏雄/助監督=土屋啓之助/スチール=秦大三
    
●キャスト 海山夏子=轟夕起子/海山千吉=伊藤雄之助/坂本平馬=小林桂樹/花巻テル=関千恵子/馬並社長=小川虎之助/夫人鳩子=三好栄子/息子一郎=大泉滉/愛妾おふね=荒川さつき/女中玉子=関弘子/助手天池=鮎川浩/助手佐渡=松本朝夫/女秘書=大谷伶子/女事務員=青木泰子、東京子、谷川映子/洋品店の店員=小倉繁/妾宅の女中=新井麗子
    
●略筋 美容術界のオーソリティで嘗てはミス東京として名を馳せた海山夏子は、そうした一等女房である。それにひきかえ亭主の千吉はおひとよしで、スローな事も無類である。二人が一緒に居ることはめったになく、しかも周囲から、亭主はかすんでるのなんのと取沙汰されて、兎角面白くない事ばかりである。職を求めて上京してきた夏子の弟の平馬は、女房関白の海山家の家庭生活に呆れはて、千吉の務め先のナイス産業のセールスマン花巻テルに弟子入りして、テルの下宿に転げこんだ。世界婦人連盟会議から夫人が帰って来たのに慌てたナイス産業社長は、千吉に命じて愛妾おふねに当分来られない旨告げるが、おふねはどうやら千吉に執心で彼のライターを取り上げてしまった。夏子もやはり女である。千吉のライターの紛失を忽ち臭いと感ずいた。社長は社長でおふねのサーヴィスが近頃悪いと連絡係の千吉にあたる。社長夫人も息子一郎から言われて社長に疑いをかけ、一郎は夏子を妾と早合点してしまうが間もなく和解し、テル、一郎、平馬、夏子の四人はアルプス登山に出掛けた。槍ヵ岳の野天風呂での隣の女は、驚いたことに千吉のライターを持っており、間もなく現れた千吉を口説き始めた。おふねである。すっかり怒った夏子はおふねに喰ってかかり、初めて夫婦の愛情を感じて千吉の胸にすがった。ホテルの中庭ではテルが「三等亭主にはさせないわ」と平馬に微笑んでいた。翌日、快晴の銀座八丁を千吉と夏子が腕を組んで歩いている姿を見かけたとか。

…………その後の山口さんのFacebook記事によると、

結局、私が見たかった『今日われ恋愛す』は見ることができず、『一等女房と三等亭主』を40分ほど見られるだけに留まりそうですが、(代替上映で『母は死なず』を上映)、この40分のために今回10万円も使ってしまいました。
   
今年の数々の「轟夕起子イベント」では、運よく私のお金の持ち出しは少なかったですが、最後のイベントでつまづいてしまった。。。 ( ;∀;)
   
40分で10万円、10分で25000円という貴重な上映!
これが最初で最後の、私の自主上映です。お見逃しないように~! (^^)/

………と続きます。年末の慌ただしい時期でもあり、皆さまにおかれましては何かとご多忙とは存じますが、一生懸命な彼のおもいを汲んでぜひともお運びくださいませ。当日参加もできますので、お気軽にどうぞ‼ なお、古い京町家ですので、暖房をしていても充分ではありません。どうぞ、暖かい服装でお願いいたします。

2017.11A - コピー

 

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16日付け京都新聞に告知記事を書いていただきました。記事を読んだ方から「懐かしい名前だから」と早速参加のお申し込みがあり、大変嬉しく思っています。

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