2023.03.23column
盛況だった大阪アジアン映画祭2023(2)~私の鑑賞した作品から
3月15日18時40分から、大阪のABCホールで開催されたスぺシャル・オープニング・セレモニーの様子。コロナ禍前に戻って海外からのゲストが沢山登壇されている眺めは良いですねぇ。プログラミング・ディレクターの暉峻創三さんによれば、コンペティション部門では、日本映画が例年を上回る規模で大挙入選したのが今年の特徴なのだそうです。ホール一杯のお客様で熱気にあふれていました。
大阪映像文化振興事業実行委員会委員長上倉庸敬さん(写真左端)の司会で、スペシャル・オープニング作品『四十四にして死屍死す』(香港映画)のホー・チェクティン監督(向かって左から2人目)とウォン・ヤウナムさん(右端)をお招きしてのトークイベント。この日が世界初上映。向かって右から二人目の女性が通訳する前に会場から笑いや拍手が沸き起こって、海外からお越しのお客様がこの作品上映を楽しみに沢山来場されているのだと実感しました。
ある晩、自分たちが住む高層マンションの玄関先で裸男性の死体を発見。自分たちの部屋が「事故物件」となって資産価値が下がるのを恐れた主人公一家は、死体を隣人の玄関先に移し、それから、それから、と次々に住居人が騒動に巻き込まれていくブラック・コメディー。長編初監督作品となった前作『正義回廊』は、香港電影金像奨で作品賞、監督賞、新人監督賞など最多の16部門でノミネートされ、歴代最高の興行収入を記録しているそうです。
『四十四にして死屍死す』は、19日のクロージング・セレモニーで「ABC賞」を受賞されました。
17日15時50分から、ABCホールで上映された『本日公休』(台湾映画)のトークイベントの様子。中央がフー・ティエンユー監督、右端が主演のルー・シャオフェンさん。海外初上映です。昨年12月に小津安二郎監督をテーマに催しをしたこともあってか、見終わった後に「小津監督の世界のようだ」と思いました。特に大きな事件や事故があったわけでもなく、40年間常連客を相手にやっている理髪店を舞台にした静かな映画。主人公アールイには、長女夫妻とその子、次女、長男がいて、それぞれとは微妙な距離感を保ちつつも穏やかな日常を送っています。ある日、遠くの町から通って来てくれていた男性客が病の床に伏したことを知り、店先に「本日公休」の張り紙をして、彼の散髪をするために古き良き時代の愛車VOLVO240 GLに乗って一人向かいます。映画は、丁寧にそれぞれの心情を描いていて、心に響きました。
フー・ティエンユー監督が3年の月日を費やしてお母さまをモデルにして、実家でロケをした『本日公休』は、19日のクロージング・セレモニーで「観客賞」を受賞しました。上映の際には、そのお母様も会場におられました。親孝行出来て良かったですね。大きな拍手が送られていました。
ルー・シャオフェンさんは、台湾で有名な女優さんですが映画出演は『小卒戰將』(1999年)以来なのだそうです。フー・ティエンユー監督が台本を送られて、それを読まれて出演を引き受けられたのだそうです。「もう一度出て見たい」と思う作品に出合うまで20年以上の歳月があったのだそうですが、監督からは厳しく「ハサミの使い方をマスターするように言われ、専門家について数か月訓練したので、私は自分の店を持つことも可能なくらいの技術を身につけた」と笑いながら話しておられました。
19日のクロージング・セレモニーで、ルー・シャオフェンさんに「薬師真珠賞」が贈られました。受賞理由は「理髪店でのハサミの使い方だけでも、もう観客の心を惹きつける。そして作品全体にわたる緻密な演技設計。経験豊かな役者の力で、『本日公休』は永遠に人々の記憶に残る名作となりました」。受賞の際、ルー・シャオフェンさんは感極まって涙ぐんでおられるように見えました。大女優さんでも、良い作品に出合うことをどれほど待ち望み、かけがえのないことと思っておられるのかが伝わってきて感動しました。これを機に日本国内でも広く上映されることを期待しています。
18日10時20分からABCホールで上映された『黒の教育』(台湾映画)。こちらも海外からのお客様が沢山来場されていました。海外初上映です。上映後のトークイベントでケント・ツァイさん(向かって右)が登壇。写真が小さいので、よく見えませんがハンサムな方でした。映画は、高校卒業式の夜の悪夢のような出来事を描いています。ということで、3人の男子高校生の一人をケント・ツァイさんも演じています。他の二人のうちリーダー格の男子高校生を演じたベラント・チュウさんは、この作品で第59回金馬奨の最優秀助演男優賞を受賞。台湾ヤクザの大物を演じたのはベテラン俳優レオン・ダイさん。この4人が一緒の場面の恐怖は半端なく。なのにクー・チェンドン監督のハンサムでカッコいいことったら、凄いギャップ。俳優で、歌手でもあるそうです。天はいくつもの才能を与えているのですね。
19日のクロージング・セレモニーでは、クー・チェンドン監督に「来るべき才能賞」が贈られ、ケント・ツァイさんが代わりに受け取っておられました。受賞理由は「ジェット・コースターのように変化する3人の若者の心境をリアルに描き、観客はまるで彼らとともにクレイジーな一夜を体験するようでした。映画全体に強烈なスタイル、明快で正確なテンポがありました。息もつかせぬ展開のストーリーは予想を上回り、決して退屈することがありませんでした。初監督作にもかかわらず、このようなブラックなテーマを鮮やかに描いたことに加え、俳優たちの素晴らしい演技を引き出しています」という評価です。
前後して恐縮ですが、上映には行けなかったのですが、グランプリ(最優秀作品賞)受賞の『ライク&シェア』(インドネシア映画)。賞状を手にして微笑むギナ・S・ヌール監督を囲んで、コンペティション部門審査員の右端がシェ・ペイルー監督(台湾)、中央が前述のホー・チェクティン監督、その左隣がライターの月永理絵さんの以上3名です。
受賞理由は「審査員全員が、この映画の突きつける明確かつ力強いメッセージに心を打たれました。それは若い女性たちの性への好奇心や欲望を肯定しながら性暴力に対しはっきりとNoを唱える、というメッセージです。また映画の持つスタイルも独創的です。前半、観客を魅了した甘くてポップなムーブは物語が進むにつれダークなものになり、私たちを戦慄させます。強烈なスローガンを見事な演出で表現した本作は、今こそ見られるべき映画です」。いつか日本の劇場で公開されるのを待ちたいです。
他に「JAPAN CUTS Award」受賞の石橋夕帆監督(写真前列右から二人目)『朝がくるとむなしくなる』(日本)、「芳泉短編賞」にリン・モーチ監督のストップモーションアニメーション作品『燕は南に飛ぶ』(アメリカ、カナダ、中国)、「芳泉短編賞スペシャル・メンション」にパン・カーイン監督『できちゃった⁈』(台湾)が選ばれました。
皆さま、受賞誠におめでとうございます‼
そして、クロージング作品は伊藤ちひろ監督『サイド バイ サイド 隣にいる人』(2023年)。プロデューサーの行定勲さんと伊藤監督が登壇されました。伊藤監督は行定監督の『世界の中心で、愛をさけぶ』をはじめ、数多くのヒット作を生み出してきた脚本家としてご活躍。主人公を演じたのは人気若手俳優の坂口健太郎さんで、主人公の過去の恋人役を演じるのは齋藤飛鳥さん。この作品は世界初上映。ということで、暉峻さんによれば、オープニング/クロージング枠の作品を共に世界初上映出来るのは、大阪アジアン映画祭史上初めてのことなのだそうです。
映画祭をみていて、大阪アジアン映画祭を大切に思っている皆さんの熱気、思いがグングンこちらにも伝わってきました。みんなが一体になって作り上げている映画祭の良さに魅せられました。スタッフ、ボランティアの皆様、本当にお疲れ様でした。来年もまたお会いできることを楽しみにしています。