おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2023.03.30column

寄贈を受けた2枚のポスターから

3月19日、アン・へリング先生遺愛2枚のポスターを寄贈して頂きました。今回の「マジック・ランタン~さまざまな幻燈の楽しみ~」展でもへリング先生が大切に持っておられた「ガラス種板」「レフシー幻燈絵ばなし」「志ん板うつしゑ」を展示しています。

2年前の3月17日午前9時半、へリング先生が荼毘にふされたので、私にとってはこの日が偲ぶ日だと思っています。それでゆかりの人も来て下さった19日の講演会に間に合うように、先生がお好きだった小さな花を飾りました。「先生が一番好きだったのは梅の花。桃の花もお好きだった」と知りましたので、梅の鉢を求めてウロウロしましたが季節的に遅く、で上掲「長寿梅」を買い求めました。四季咲きの木瓜の一種ですが、「梅」の漢字も入っているし、何より縁起のいい名前。添えた写真は2017年9月23日、東京の国立劇場で、当館の幻燈機を用いて実演をして貰った「映像と語り芸~幻燈機が生んだ芸能」の折、錦影繪池田組の公演が終わった後の記念写真。左から吉田稔美さん、アン・へリング先生、私、星埜恵子さん、池田光惠さん、岩田託子さん。この時が、へリング先生との最初の出会いかも。

さて、へリング先生遺愛のポスターを紹介します。

『マルクス捕物帖』(1946年、アメリカ)85分。

名作映画『カサブランカ』のパロディ⁉マルクス三兄弟のナンセンス・ギャグの集大成‼ということで、一足早くSNSでこのポスターのことを紹介したら、思っていた以上に反響がありました。それで、この作品について喜劇映画研究会の新野敏也さんにお尋ねしたところ、以下の文章を寄稿して頂きました。

…………………

サルヴァドール・ダリが初めてアメリカの地を踏んだ瞬間、待ち構えていた新聞記者から「我が国で何をされるんですか?」と質問されると、「マルクス兄弟主演で梅毒の映画を作るために来た」と応えたそうな。このイカレた一言だけで、充分にマルクス兄弟作品の世界観を凝縮していると僕は感じた!
 
20 世紀最狂の大芸術家ダリが熱愛したコメディアン故に、昭和初期から戦後間もなくの、翻訳が未成熟の日本で、彼らマルクス兄弟はどのような評価を得ていたものか???と、安や興味が入り混じっていたのだけど、昭和 23 1948 )10 5 日に日活配給の本作『マルクス捕物帖』で、こんなにもキレイなポスターが製作されていたなんて!もぅ、ひたすら感激だなぁ!
 
とにかく、アメリカ人でも理解できないジョークを飛ばしまくり、飛躍と不条理に満ちたギャグを最大の武器としたマルクス兄弟が、このポスターによって 75 年も前の日本で正当に評価されていたことがわかった。この一枚は、戦後日本の著名な前衛芸術版画と同格の文化財とすべきだろう!

マルクス兄弟は、ニューヨーク州ニューヨーク市生まれのドイツ系ユダヤ人の芸人一家の六兄弟(戸籍上の長男は生後間もなく死亡)。長兄チコ(本名レナード:
18871961、次兄ハーポ(本名アドルフ:18881964、グルーチョ(本名ジュリアス・ヘンリー:18901977、ガモ(本名ミルトン:18921977、舞台のみ出演)、末弟ゼッポ(本名ハーバート:19011979、初期の映画のみ出演)で「マルクス兄弟」という一座を結成して、自作ヴォードヴィルの巡業で人気を博していた。
 
年齢的にはチャップリン、キートン、ロイド、ローレル&ハーディとほぼ同じながら、正式な映画デビューが 1929 年のパラマウント配給トーキー映画『ココナッツ』からなので、無声映画期のコメディアンたちより一世代後のスターと思われることが多い。

作品中では最年長の役が多いグルーチョは、マシンガンのごとく喋りで相手を罵倒するキャラクターで、鼻髭(顔に直接描いたメイク)と銀縁メガネが特徴。今もパーティ・グッズとして販売されている「鼻髭メガネ」の典拠でもある。また、放送作家の澤田隆治さんが最晩年に調査を手掛けた昭和初期のコメディアン「永田キング」は、日本で最初にグルーチョを模倣したキャラクターだったという。

ハーポは、唖でパントマイムと楽器で意思を伝える、チリチリの金髪(カツラ:舞台では赤毛だったそうだけど、白黒映画で見栄えを優先して金髪にした)とよれよれコートが特徴。
チコは、イタリア訛りの英語をしゃべる間抜けなオジサンで、ほとんどの作品でハーポの相棒を演じている。この三人が基本的に「マルクス兄弟」と呼ばれ、笑いに加えて、各自がトンデモナイ楽器演奏の技量を披露するのがウリだった。
 
蛇足ながら、シルベスター・スタローン製作・主演の『エクスペンタブルズ3 ワールドミッション』では、国際テロリスト役のメル・ギブソンがインターネットを通じて人質四名を見せしめに紹介するシーンで「よく見ておけ!左からチコ、ハーポ、グルーチョ、ガモだ!」と、マルクス兄弟ファンでもブッ飛ぶ言い回しで、スタローン個人による映画への偏愛ぶりと思えるようなセリフで笑わせてくれた。「ガモ」とは彼ら兄弟の映画デビュー以前にメンバーだったので、映画通ならば「ゼッポ」となるところを見事にハズして盛り上げる(今の20 代のアメリカ人では、このシャレがさっぱりわからなかったらしい)こりゃグルーチョっぽいシャレだった。この作品以前にも、ウディ・アレンの『世界中がアイ・ラブ・ユー』シドニー・ポラック監督『追憶』という、マルクス熱が重篤な映画があった。
…………………
 

もう1枚が『征服』(1937年、アメリカ映画)113分。

ポーランドの作家ヴァツワフ・ガシオロフスキの小説『ヴァレフスカ夫人』を原作として、クラレンス・ブラウンが監督し、グレタ・ガルボ、シャルル・ボワイエが主演した作品。ポーランドの解放を願って、救世主と目されたナポレオンの愛人となった実在の人物マリア・ヴァレフスカさんのお話。

これもSNSで紹介したら、「ポスターを描いたのは野口久光ではないか」という声がありました。そこで、昨年の川喜多長政展でお世話になった公益財団法人川喜多記念映画文化財団様に、野口さんの作品かどうか確認をしていただいています。何点かお借りした野口さんのポスターに似ているように思われなくもなく。返事が届き次第、追記させていただきます。

いずれにしろ、両作品とも、へリング先生の思いを大切に引き継ぎ、機会を設けてご覧頂けるようにしたいと思っています。

 

 

 

 

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