2023.05.21column
2組のお客様から、それぞれ努力の結晶の「本」を受け取りました‼
朝からお越しいただいたのは、台湾のドキュメンタリー映画監督林 君胒さん(Chunni Lin、中央)と黄 邦銓さん(Huang Pang-Chuan、右)。続いてお越しいただいたのは、久しぶりの再会となった雑賀広海さん(左)とご家族。それぞれから研究の成果である真新しい出版物を寄贈して頂きました。
台湾の国家電影及視聴文化中心(以降、台湾国家映画センターと表記)から発行されている立派な機関誌193号(カラー120頁)の4頁から72頁までを費やして、二人が研究した台湾戦前の写真家として知られている鄧南光についての文章が載っています。同センター学芸員林 木材さんの序「テクノロジーから探る光と影-1930年代『アマチュア映画』の再訪と再発見『鄧南光』の逆転」に続き、6頁から71頁まで二人の約5万字の調査報告が載っています。鄧南光は、写真に関する多くの著作がある吉川速男と交流があり、台湾では知られた写真家ですが、他に小型映画のカメラで撮影した3時間半に及ぶ映像も残していました。けれども、残された8㎜フィルムなどは、アマチュアだということで、これまでさほど注目されてこなかったようです。
二人は3年前から小型映画作品を作っていて、その活動に注目した台湾国家映画センターの林学芸員から「センターのアーカイブ映像を使った作品を作って発表してほしい」と依頼されたのだそうです。そこで鄧南光が残した3時間半の8㎜を詳しく調査されました。1936~37年に撮影された映像を調査すると、鄧南光が撮った映像ばかりではなく、どうやら日本人と思われる別人が撮った映像も含まれているようです。それが兵庫県出身で、1935年に開催された始政40周年記念台湾博覧会の映像を残している廣田直憲ではないか、と二人。台湾で写真材料店をやっていたのは日本人が多かったのですが、鄧南光は台湾人が個人で始めた最初の人だそうで、写真材料店に残っていたのは、日本人会員が撮った当時の台湾の映像、逆に鄧南光が撮って残っていたのは東京の浅草や銀座、豊島園など日本の映像でした。日本と台湾の当時の様子がわかる貴重な映像ですね。
台湾国家映画センターの依頼を受けた二人は、90歳を超えてご健在の鄧南光氏のご長男鄧世光氏を2021年に訪問。氏から2階にしまったままの箱があると聞いて、その段ボール箱を開けると、中には8ミリカメラや、パテのカメラなどの機材が入っていました。機材やフィルムを丁寧に調べ、そこに写っていたモノや人を100年を超えて根気強く調べ上げていく話は聞いているだけでとても面白かったです。明日、明後日には大阪のIMAGICAや神戸映画資料館を訪問される予定だそうで、こうしたことも調査の一環。鄧世光氏がご健在のうちに、良い作品が完成することを期待して楽しみにしています。
全て繁体語なので、なかなか読むのは困難なのですが、もう少し内容がわかれば追記することにしましょう。
(下掲写真背景は今展示中の紙フィルム。鄧南光が小型映画で撮影していた時代と重なります。2003年、植民地期の台湾で流通していたフィルムが嘉義で発見され、木村白山など7本のアニメーションも含まれていました。連れ合いの後ろに掲げているのは実写版『海軍大演習』の紙フィルムです。林さんの背後にチラッと写っているのも実写版『支那事変 攻略の精華』。「こうした紙フィルムも台湾で見られていたかもしれないから、可能なら調べて欲しい」と依頼しました。)
そして、話は弾み「いつの日か、その作品を日本でも上映しましょう」という話になり、逆に、当館が今後海外で上映しようと取り組んでいる『おもちゃ映画で見た日中戦争』を二人にも見て貰い、台湾でも上映出来たらという話にも発展しました。両方の夢が実現すると良いなぁと思います。
さて、こちらは今年3月に水声社から出版された雑賀広海さんの本で、世に出て間もなく寄贈頂いていたのですが、ご紹介が今日の日になってしまいました。現在は日本学術振興会特別研究員PD。本の扉を開けたページにサインをして貰ったら、これが人生2回目のサインだったそうで、奥様が記念に写真を撮っておられました。ご両親より先にサインを頂戴して恐縮です。彼とは京都大学大学院生時代に知り合って、当館で研究発表をして貰ったこともありますから、まだ小さいお子さんと一緒に家族揃って顔を見せに来てくれたことを本当に嬉しく思います。
知り合った時からジャッキー・チェンが好きだと聞いていましたが、それは今も継続していて、
序章 香港映画はどこにある から始まり、
第1部がジャッキー・チェン
第1章 父と子、監督と俳優-「拳」シリーズにおける転倒
第2章 ハードボディーから離れて-ジャッキー・チェンのスター・イメージにおけるハリウッド
第3章 肉体と形象の境界線-落下するジャッキー・チェンの身体性
第2部はツイ・ハーク
第4章 無秩序の映画-初期3作品における境界線の主題
第5章 演じる監督-シネマシティとツイ・ハーク
第6章 人間と動物の境界線-『ブレード/刀』における女性の声
第3部はジョニー・トー
第7章 中国の風景をめぐって-『謎めいた事件』における中国性
第8章 父と監督の権威を取り戻す―ジョニー・トーのファミリー・メロドラマ
第9章 規範と遊戯の境界線-『ヒーロー・ネバ―・ダイ』におけるセクシュアリティー
結論
あとがき
以上の構成です。ジャッキー・チェン、ツイ・ハーク、ジョニー・トーの3人の軌跡を手がかりに、1970年代末から1990年代末までの香港映画史を多角的に論じた力作です。なぜ、ジャッキー・チェンなのかといえば、小学校入学前にテレビで放送されていたのをたまたま見て、有名な自転車でのチェイスシーンに目が奪われたことからのようです。1970年代末、香港映画産業に地殻変動をもたらした香港新浪潮が登場します。新浪潮は新時代の到来を象徴し、独立プロダクションを活躍の場としましたが、彼らの活動について日本語で読める香港映画の専門書はほとんどなく、現在でも香港新浪潮の作品の日本語版が販売されているのはほんの一部に過ぎないそうです。
本の最後に載っている「注」、「参考文献一覧」、「図版出典一覧」、取り上げた「香港映画作品一覧」などおびただしい量の記載をみると、どれだけ努力されたのかと想像して目がクラクラします。「広東語の学習に日々zoomで勉強している」と雑賀さんの努力の一端を奥様からお聞きしました。子育てにも積極的にかかわりながら、コツコツと勉強に励む1990年生まれの若い彼の活躍を期待して、心からの声援を送ります。
本は、お声がけ下されば館内でご覧頂けます。ぜひお手に取ってお読みください。公立図書館へのリクエストも良いですね。どうぞ宜しくお願いいたします。