2023.05.27column
続・寄贈品の紹介~東 龍造著『おたやんのつぶやき』
昨日、小説家東 龍造さんから、刷り上がったばかりの本『おたやんのつぶやき』(幻戯書房)が届きました。写真の表紙カバーを外すと表に提灯型の「法善寺」、裏にも「富山」の文字が謙虚な大きさであしらわれています。副題は「法善寺と富山、奇なる縒り糸」。
富山出身ということで一度だけ富山弁の表現に助言を求められたのですが、すんなりと読み進められたのでOKではないかと。それより、達者な大阪弁の面白さに魅せられて、メモを取りながら読みました。「心配ない 心配ない」のルビを「だんない だんない」と。そういえば関西の人って、2回単語を繰り返す場合が多いですよね。
大阪ではお多福人形のことを「おたやん」と呼んで親しんでいて、囃子歌に「おたやんこけても鼻打たん♪」というのがあるそうです。人形好きの私も、かつて骨董市で縁起物と思って買おうとしたことがあるのですが、ひっくり返してみて思わず顔を赤らめたことがあって。で、私のコレクションに「おたやん」はありません。上品な東さんはそんなことには全く触れず、数奇な運命を辿った「おたやん」と主人公の祖母フクの人生を描きます。
かつて法善寺のシンボルとして知られた「めをとぜんざい」の置物「お福」は今、富山県朝日町の百河豚(いっぷく)美術館にあるそうです。故郷の姉も友人もその美術館のことを知っていましたが、私は東さんから聞いて初めて知りました。1983年の8月に開館ということで、私はその頃既に関西に出ていて知らずにいましたが、今度帰省する時にはぜひ「お福」さんに会いに行きたいと思います。
有名な大阪出身の小説家織田作之助の小説『夫婦善哉』(1940年)を原作に、豊田四郎監督が森繁久彌と淡島千景を主演にして『夫婦善哉』(1955年、東宝)を製作されました。この映画は以前観たことがあるのですが、記憶が薄れているので、この本の出版を記念して、どこかで上映されないかしら。「めをとぜんざい」の店が折に触れて出てくるだけでなく、「お福」さんも冒頭に一瞬映り(YouTubeで確認できました)、途中にもちょこっと、最後には飾り窓にいるのが大写しになるようです。が、この「おたやん」は、かつて法善寺にあった「お福」さんではなく、小道具屋さんから借用したものだそうです。「お福」さん曰く「あて、あんなに目が大きないし、肌もテカってない」(64頁)。
東さんの小説第一号『フェイドアウトー日本に映画を持ち込んだ男、荒木和一』のときと同じで、台詞回しがどうにもよく存じ上げている武部好伸さんにそっくりで、読みながら武部さんの声を聞いているような錯覚に陥りました。推測ですが、法善寺でぜんざい屋を始めた島之内生まれの木文字重兵衛さんのことを、『フェイドアウト』の取材で知って興味を持たれたのではないかと思います。こつこつ「好きなモンに没頭していたら」面白い素材に出会えて、創作意欲に繋がったのでは。
6年がかりの作品だそうです。ぜひ、皆様もお手に取ってお読みください