おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2023.09.10column

もうすぐ「第37回山中忌(山中貞雄を偲ぶ会)」

6月24日から始まった北海道立文学館での特別展 生誕120年・没後60年「小津安二郎-世界が愛した映像詩人」が8月20日に終了しました。

会期中は、当館が所蔵する「山中貞雄之碑」文を拓本した軸で協力させていただきました。小津安二郎監督の戦争コーナーで立派なケースに入れて展示して頂き、恐縮するばかりでしたが、北海道の方にもご覧頂くことが出来て嬉しく思っています。

そしてその軸が、7日に戻ってきましたので、早速今の展示に加えました。

北海道立文学館とは天と地ほどの差がある例年通りの展示で、軸も「これだからなぁ、えらい差だよ💦」と思っているかもしれませんが、会場が狭いので致し方なく。

同文学館副理事長・全国小津安二郎ネットワーク会長の中澤千磨夫先生に翻刻して頂いたものを、軸の傍に掲示しています。

この軸のもとになった石碑は、京都市上京区にある大雄寺境内に建っています。1940(昭和15)年に神武天皇即位紀元(皇紀)2600年を祝って「紀元二千六百年記念行事」が国を挙げて行われました。その2年前の1938年9月17日、才能豊かで多くの映画人から尊敬され、愛されてきた山中貞雄監督が誕生日直前の28歳の若さで中国大陸にて戦病死します。

彼の死を悼んだ友人知人たちは1941年6月に親睦団体「山中会」を結成し、栄誉を称える文章を考え、それを揮毫したのが山中監督と親しかった小津安二郎監督でした。建碑は1941年9月のことです。10月には「山中会」がその年で、最も意義ある仕事をした新人監督に贈る「山中賞」を設けます。

第1回(1941年)受賞者は『愛の一家』春原政久監督(因みに、春原監督のデビュー作は依田義賢脚本の『僕らの弟』)。第2回(1942年)は該当なし。

第3回(1943年)は『姿三四郎』の黒澤明監督と、『花咲く港』の木下惠介監督でした。今当館で開催している展示品の中にこの作品の脚本(木下惠介記念館所蔵)とスチール写真(岩本浩明氏所蔵)が含まれています。戦時統合で、映画界は東宝、松竹、大映の三社に。各社月2本という制限の中では、新人が出る幕がありません。そのような映画界の状況の中、黒澤監督と木下監督が如何にその才能を評価されていたかがわかります。

以降「山中賞」は選定できなくなり、戦後の映画界復興の中でも、「山中賞」は復活しませんでした。黒澤監督と木下監督を越える監督の出現がなかったとも言えましょう。

京都の映画界も多くが東京へ移り、かつて山中貞雄監督が中心だった映画仲間“鳴滝組”のメンバーの多くも京都から離れてゆきます。戦後「山中会」も残念ながら中断しながらも、1971年に解散しました。その年は、大映が倒産した年で、京都の映画界は斜陽産業と呼ばれました。けれども、京都には山中監督の甥、加藤泰監督も居られるところから1984年に「山中忌(山中貞雄を偲ぶ会)として再開しました。年を重ねるごとに山中監督と縁故の方も少なくなり、やがてファンの集まる会になります。とりわけ黒木和雄監督は、山中監督の信奉者の一人で熱心なファンの一人として、山中監督のドキュメンタリー映画を計画するぐらいでした。結局この計画は実現できませんでした。

今では、残念ながら親族の中にも山中監督を知る人がいなくなり、ファンだけの集まりになっています。彼らは山中監督の人柄というよりも、彼が遺した映画のファンです。生涯で30本弱とはいえ、残存している名作は『丹下左膳余話百万両の壷』『河内山宗俊』『人情紙風船』の3作品のみ。このことは映画がファンによって支えられている証明でもありましょう。もし、彼が戦後も生きていたら、どの様な名作を生み出したことでしょうか。

今年も、9月17日14時から、菩提寺の大雄寺で「山中忌」が営まれます。

新人賞の「山中賞」を受賞した木下惠介監督と黒澤明監督は良きライバルでもありました。「柔」の木下監督と「剛」の黒澤監督は共に1943(昭和18)年に監督デビューし、奇しくも鬼籍に入られた年も同じ1998(平成10)年でした。木下監督は86歳で、黒澤監督は88歳でした。山中監督の死後60年の隔たりがあり、活躍した時代は違いますが、山中監督の誕生は黒澤監督より4か月半早いだけで、三人は同世代でした。

小柄な木下監督は語り口も穏やかで、多くの女性を主人公にした庶民の日常を描きながら、そこに時代や社会への批判精神を色濃く含ませた作風、一方の大柄な黒澤監督は荒々しい男の世界や強さを好んで取り上げました。二人は戦後日本の映画界を支えた偉大な監督です。その偉業を長く記憶に留めて頂きたいと、10月1日まで木下監督を主にした展示をしています。一人でも多くの方にご覧頂きたく、皆様のご来場を心よりお待ちしております‼

 

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