おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2023.12.26column

名作映画を学校教育の場で鑑賞できるようになれば良いのに

忘れないうちにご紹介。21日に来館いただいた林 瑞絵さんとお嬢さんの未来(みら)さん。

11月20日付け京都新聞夕刊に「日本映画事情@フランス」の連載最終となった5回目を読んで、21日「何度読んでも、フランスの映画鑑賞教育が羨ましい」と書いて投稿したのですが、その原稿を書かれたのが写真右端の林 瑞絵さんでした。

余りに羨ましくてスクラップして館内掲示板に貼っていて、これはと思う人と出会った時には押しピンを外して直接お見せしていますので、新聞には幾つものピンの跡が写っています。この日は京都市の「京都映画賞」担当の方たちも取材で来られていたので、取材終了後に林さんが書かれていた内容を紹介しました。

林さんに教えて貰ったのですが、シネマトグラフの生みの親、ルミエール兄弟が活躍したフランスの都市リヨンでは、「古典の名作を盛り上げよう」という趣旨の「リュミエール映画祭」があって、9割以上の集客があり、若い人が熱狂的に名作を観ているそうです。企業の側も文化を盛り上げることが企業イメージにプラスになるので協力を惜しみません。

ミュージアムで知り合ったフランスのオリアン・シードルさんからは、パリの「KINOTAYO現代日本映画祭」で研究対象でもある宮沢賢治と父を描いた『銀河鉄道の父』(2023年)が鑑賞できたことを喜ぶメールを受け取りました。それより先に「最近観た日本映画でお勧めは?」と尋ねてくれたので、数少ない鑑賞作の中から書いて送りましたが、古典の名作ばかりでなく、現代の作品でも良い作品を特集してフランスで上映して紹介して下さるのはとても嬉しいことです。

林さんの話に戻ると、この記事を読んでX(旧Twitter)で紹介したところ、早速林さん本人から「今度日本に行ったら、おもちゃ映画ミュージアムにぜひ伺います」と返信があり、「ええっー」と歓喜の声を挙げてしまいました。ネットの世界の素晴らしさをまたもや味わわせて貰いました。それだけでも凄い事なのに、記事を読んで1か月後に本当に訪ねて下さった驚きは相当なものでした。「信じられない!」と何度言ったことか。

記事には「フランス政府は教育にも映画を取り入れていて、毎年幼稚園から高校生の子どもたち約200万人が授業として世界の名作を映画館で鑑賞する。リストをのぞくと、小学生に小津の『お早う』、中学生に黒澤の『用心棒』、高校生に溝口の『近松物語』を見せている。日本よりフランスの子どもの方が、日本の巨匠の名を知っているかもしれない。映画は娯楽を超え、一般教養の一部だ」とあります。

何度もため息まじりに書いてきたことですが、館名に「映画」の2文字が入っている当館に来られた日本の若者に、黒澤明、小津安二郎、溝口健二、それに今年夏に特集展示をした木下惠介、2020年6月に特集展示した成瀬巳喜男などの監督を知っているか、とよく尋ねるのですが、監督名やその作品を知っている率は極めて低いという感触です。それに比べて海外の若者は、フランスに限らず他の国の人々も含めて、良く知っておられます。掲示している宮川一夫先生が作られた幻のポスター『影武者』を指して、「黒澤明監督の作品ではこれも見たし、あれも見た」と話し出す人が多いです。小津監督の作品などについても然りで、日本の若者との差に唖然とします。

木下惠介展の時もせめて1作品だけでも上映する場を設けたかったのですが、25人という小さなキャパに高額の上映料負担は厳しく諦めました。せめて大学の授業などで一般教養として名作を鑑賞できるようにしてほしいものです。Xの投稿に返信して下さったArthouse Press/藝術電影館通信さんに、「フランスの映像教育についてはhttps://arthousepress.jp/articles/kids_cinema_maniwa/ 映画館のサブスクについてはhttps://arthousepress.jp/articles/france_subscription/ をご覧下さい」と紹介いただきました。それを読んで、山崎樹一郎監督が、お住いの岡山県真庭市でフランスの映画鑑賞教育を実践しておられることを知りました。羨ましいと思うだけでなく、工夫次第でできるのですね。こうした動きが広がっていけば良いのにと願います。

他にもXへの投稿に、「フランスは本当に公立映像教育プログラムに力を入れている。直接にはパリ郊外2市しか知らないけどうちの子は3歳から月1とかで行ってるんじゃないかな。映画館側にもメリットのある話。学校向けの割引価格とはいえ一般客の少ない午前中から数十人単位で埋められるわけだから」と書いて下さった方がおられます。連れ合いも随分前から、映画館の最前列の席辺りを、お金がないけど映画を勉強したい若者に安く開放したら良いのにと言っていますが、なかなか実現しませんね。

日本で映画興行が始まった頃からの名残でしょうか、今も映画は芸能・娯楽面で語られることが多いですが、フランスは一般教養の一部です。そのことが羨ましいです。林さんの記事は共同通信からの依頼だったそうなので、おそらく日本各地の新聞でも掲載されてご覧になった方も多いでしょう。それぞれの地域から行政に働きかけて一般教養としての映画鑑賞教育が広がっていけば良いですね。さらに、私どもも尽力している無声映画の活弁上映の体験もさせてあげて欲しいです。活弁と生演奏で見る無声映画は日本独特の文化であるだけでなく、一期一会のライブ感も楽しめる古くて新しい映画鑑賞スタイルです。そして、年を重ねた私の子ども時代の記憶では、学校の講堂で全校生徒で映画を鑑賞した思い出があります。一つの作品をみんなでスクリーンに目を凝らして見入る体験は、何十年経っても忘れられない思い出です。今や映画はネットを介して一人で見る時代になってきてますが、同じ映画を観て、ここで笑った人がいる、あの場面ですすり泣いている人がいる、といった他の人たちの反応を知ることも多様な受け止め方があることを知る体験になります。映画を通して時代を知り、相手の文化を知って理解することができます。このことは平和構築にも有効なツールだと思うのです。

林さんが書いて下さった文章を契機に、いろんなことを知っただけでなく、ご本人ともお会いすることが出来て本当に嬉しく思います。

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