おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2025.02.26column

海外で広がっている日本の「活弁」文化への関心

まだ、荷物が片付いていない新拠点ですが、2月12日に「見学したい」との希望メールを受けて、14日、寒い京都の町家に真逆の暖かい国アルゼンチンのブエノスアイレスからお二人のお客様が来館。メールの送り主は、背が高いアーティストで映画製作者のホアキン・アラスさん。一緒に来られたのは、マリウ・ファーマニさん。お二人は日本の弁士について研究をされていて、東京アーツアンドスペース(TOKAS)の国際交流プログラムでプロジェクトを行っているそうです。マジック・ランタン(幻燈機)にも興味があるということでお声がけいただきました。16日京都府立文化芸術会館での無声映画上映会に片岡さんら8名の東西の活弁士さんが登壇されると聞いて、それを観るために来京され、その事前学習も兼ねて当館に来て下さいました。

写真は手回しの家庭用映写機に時代劇フィルムを装填して、くるくる回しながらチャンバラ映画をご覧になっている様子。手前に置いているできたばかりのミュートスコープも体験。引っ越す前の壬生のミュージアムを巨大なパラパラ写真でご覧頂くことができました。

まだネット環境が整っていませんので、少しだけ紙フィルムやおもちゃ映画のアニメーションの映像を見て頂きました。

まだ、仮に置いただけなので不十分ですが、幻燈機などを並べた棚を興味深そうに覗いておられます。

この日はバレンタインデー。日本での思い出の1頁に刻んでいただけると嬉しい。

南アメリカ大陸からは2組目、アルゼンチンから最初のお客様です。ブエノスアイレスにピンでマーキング。ホアキン・アラスさんに「日本の無声映画はほとんどがなくなっている。おもちゃ映画として家庭用に切り売りされていた短い断片でも大切だと、それを発掘して残す活動をしている」と説明しましたら、

『エル・アポストル』のタイトルを教えて下さいました。1917年にアルゼンチンで作られたアニメーションで、『使徒』の訳。Wikiによれば、イタリア系アルゼンチン移民のキリノ・クリスティアーニ監督とプロデューサーのフェデリコ・ヴァッレがカットアウトアニメーションで制作。世界初の長編アニメーションと言われているそうです。

Wikiから、アニメーション映画で用いられた当時のイリゴ―ジェン大統領をモデルにしたエル・ペルードの切り抜きと関節可動フィギュアの画像を拝借。70分もあったというのですから大作ですね。それに先駆け、産業映画のプロデューサーだったヴァッレは、新聞の風刺画で知られていたキリノ・クリスティアーニを雇い、自分が作ったニュース映画用に1分間の政治的小話アニメ『ブエノスアイレス州への介入』を作らせました。1916年のこととされていますが、実際の公開年は不明だそうです。こういった動向が日本で紹介されていたのか否か私には分かりませんが、日本で最初の国産アニメが浅草の劇場で公開されたのが1917年1月のことで、当時は駆け出しの漫画家だった下川凹天が映画会社から依頼されて作った『凸坊新畫帖、芋助猪狩の巻』だと聞いています。それよりも早くにアルゼンチンで作られていたことを知って驚きました。

さて、ホアキン・アラスさんに生の活弁上映はどのようだったか感想を尋ねていますが、返事が届けば追記で書くことにしましょう。

その「弁士」繋がりで、先日大阪芸術大学映像学科豊浦律子准教授から届いたイベントのご紹介です。3月1日大阪市北区の扇町キネマで17:15~19:00、大阪とハンブルクの友好都市35周年を記念して、映像による文化交流「映像が繋ぐハンブルクと大阪」が行われます。昨年10月に35周年記念としてドイツのハンブルクで日本の文化「活弁」を紹介しようと、2022年に大阪芸大の学生さんと豊浦先生が研究費で製作された『合戦秘話 馬鹿狐狸(まやかし)物語』を活弁上映されたということです。今回はそれに加え、ドイツで製作された無声映画『HARAKIRI』も「活弁」上映するという試み。

物騒なタイトル『HARAKIRI』のタイトルを検索しましたら、1919年にフリッツ・ラングが製作した英語のタイトル『Madame Butterfly』のことでした。1904年プッチーニによるオペラ『蝶々夫人』で知られていますが、私どもが出している小冊子7『川喜多長政と中国~映画の国際交流を求めて~』の中で、若き川喜多がドイツへ留学した際に、彼の地で話題を集めていたこの映画を観て、余りに日本のことが正確に描かれていないことにショックを受けて、国際理解を相互に深めていくには映画の力だと思ったことが書かれていたのを思い出しました。

1日の「弁士」は、監督も務められた稲森誠さんがされるようです。扇町キネマさんからいつも上映スケジュールのチラシが届くのですが、まだ行ったことがなかったので16日ご招待券を頂戴していた「ジャパン・アヴァンギャルド―アングラ演劇傑作ポスター展」最終日に行ってきました。笹目浩之さんが2万点以上コレクションされている演劇ポスターの中から、アングラと呼ばれる小劇場演劇の傑作54点が展示されていて、ご本人の解説を聞きながら鑑賞。それは圧巻でした。

いやはや、いろんな熱い思いのコレクターさんがおられるものです。もう一つ「弁士」繋がりで。

アメリカのランドルフ・メーコン大学のKyle Maclauchlan先生から連絡があり、3月テネシー州で開催される言語学会年次国際大会に同大学も参加され、「日本語と他の専門分野との協力」をテーマに発表の予定で、その中で私どもが作った下掲のジム・ドーリング教授のピアノ演奏バージョンを使って、生で「活弁」を披露するのだそうです。

国際大会で「活弁」を披露して頂けるのは、本当にありがたいことです。世界中で今も戦争が続けられていることに、ずっと心を痛めております。この『突貫小僧』は言葉がなくても、世界中の誰が見ても分かるし面白いので、それぞれの国の言葉で、その国の楽器を用いて活弁上映して下されば、みんなが笑顔になり、少しは世界の平和に役立てるのではないかと本気で思っています。アルゼンチンから初めて来て下さったホアキン・アラスさんとマリウ・ファーマニさんにも同じことを伝えました。

賛同して下さる方には、この映像を喜んで提供したいと思っています。

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