おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2024.04.28column

今日まで、「シナリオライター依田義賢生誕115年記念展」

依田義賢先生の展覧会も今日で終わり。昨日は駆け込みで見に来て下さった人が続きました。その中で、京都府南部からお越しのご婦人二人連れは、京都府日中友好協会会長だった依田先生と一緒に中国へ行かれたことがあるそうです。「新聞で依田さんの名前を見て懐かしくて」と。今回の展示では日中友好についてのものはなかったのですが、私たちも依田先生からよく中国の土産話を聞かせて貰ったものです。
 
 
大阪大学大学院で真山青果を研究している平尾漱太さん(右端)は何度目かの来館。2度目の時は尺八のお稽古の日だったらしく、ねだって吹いて貰ったことも。溝口健二監督の『元禄忠臣蔵』の脚色が依田先生だったので見に来てくださいました。期間中金曜夜に開催していた依田先生ゆかりの映像を見ながらの勉強会に「来たかったのだけど、時間が合わなくて」と残念に思っていて下さったことも嬉しいことでした。
 
本地陽彦先生からお借りして展示している『映画評論』11月号(1941年10月25日、映画日本社発行)に、真山青果原作『元禄忠臣蔵』のシナリオが載っています。その最後に「添へ書」が載っていて、それを書き写しますと、
……前後編とも、シナリオ作法の常道から申して、かなり破調の本であります。
 この破調は意識的に構成して見たのであって-と、書くと、見得を切っているやうですが、毛頭、左様な意味合ひではなく、この「元禄忠臣蔵」で、新しい時代映画の境地を開拓しようとした、我々の情熱と苦闘が、このやうな破調のシナリオを書かせたのです。
 前篇のラストに動きのない「御濱御殿」を持って来り、後篇の後半に、だれると言ひ古るされた描寫を敢へて行ったのも、みな、その故です。失敗か成功か自分らはわからない。ただ、形式より内容を重く見た必然の結果でした。
 今、このシナリオに自負と自卑と、限りなき愛情を持って對してゐると言ふのが偽りなき心境です。
 前篇の未定稿は、小生らの發行してゐる「時代映画」誌上に載せましたが、決定稿を合せ發表するのも、意義あるであらふと爲す、映画評論編輯部の意見に従ひ、前後篇を同時に掲載致す事になりました。
 十月十日  脚色者…………
 
当時は美術監督水谷浩さんの助手だった新藤兼人さんが、“建築監督”の名刺を作って貰って東京大学の教授に会い、江戸城“松之廊下”の図面を見せてもらうのに成功し、それを写しとって溝口監督に見せたところ、「そのまま作れ」ということになって、実寸サイズで巨大な松の廊下のセットを組んだという話はよく知られています。
 
 
松竹に興亜企画という特撮プロができ、その製作で「國民映画」「忠臣蔵の決定版」として、1941年12月1日に封切られました。この7日後に真珠湾攻撃。日米開戦。あとの歴史は皆さんご存知の通り。予算をはるかに超える膨大な製作費が、製作関係首脳、責任者が引責辞職をしなければならぬ羽目に陥り、戦争への突入、などもあって溝口健二監督夫人の心労に大きな影響を与えたのだろうと依田先生は『溝口健二の人と芸術』に書いておられます。
 
平尾さんと『元禄忠臣蔵』の話に花を咲かせていたところに永美太郎さん夫妻が来館(前掲写真中央の2人)。永美さんは、『エコール・ド・プラトーン』全2巻の他、『夏のモノクローム』連載中(トーチweb)で、京都出身の漫画家さん。映画のことをもの凄く研究しておられて、依田先生の展示も興味深くご覧くださいました。平尾さんの時は尺八演奏でしたが、永美さんの場合は記念に色紙にサインをして貰いました💗早速館内に飾りました。
 
さて、今回の展示で快く資料提供の協力をしてくださった三品幸博さんから、昨日新たに資料が届きましたので、早速展示に加えました。1940(昭和15)年、雑誌『映画ファン』に掲載された記事です。みんなが注視する中央で、依田先生が『浪花女』の本読みをされている様子。緊張感が伝わってきますね。
文章を書き出してみますと、
……昨年、『残菊物語』を出して、巨匠の名をさらに高めた溝口健二監督は、愈々起上った。即ち、依田義賢のオリヂナル・シナリオ『浪花女』を、三木滋人のカメラで製作するのだ。プロデューサー白井信太郎氏は、この映画を今年度の日本映画ベスト・1にする為には、どれだけの製作費、如何なる條件をもかなえてやると云ひきった。しかも、出演俳優は坂東好太郎、高田浩吉、川浪良太郎、藤井貢と云う下加茂オールスターに、大船から田中絹代、舞臺から中村芳子、新興から梅村蓉子を擁して来ての、豪華編成。分けて、溝口、絹代の初コンビは我々を充分期待させるものがある。文楽の三味線を弾かして一代の名人豊澤團平とその妻お千賀をめぐる明治藝談、人情話。しかも得意の上方ものである。-寫眞は上が同映画の本讀み。正面見臺で脚本を讀んでいるのが依田義賢、その右は溝口健二、左へ順に、好太郎、川浪、藤井、芳子、絹代の諸優。下は本讀みを終ってホッとした『浪花女』製作スタッフ。右より脚本依田義賢、演出の溝口健二、そして、プロデューサー白井信太郎所長である。かくて、名作『浪花女』遂にクランク開始さる‼……
 
Facebookで昨日この記事をUPしたところ「クランク前から名作と謳っているのがすごい!」と書き込んでくださった人がおられました。今回の展示では、展示場所が狭くて、お借りした資料の中には展示を見合わせざるを得なかったものもあります。準備を始めた当初は、「埋まるのかなぁ」と心配して資料提供協力を求めたのですが、その後も依田先生宅や三品さんなど新たに見つかった資料を提供して下さったおかげで、充実したものになりました。展示をしたことで、少しでも依田先生の功績が記憶に刻まれ、これからも語り継がれることを願っています。
 

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