おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2024.04.03column

すっごく良かった‼『SPレコード博物館』著者、“ぐらもくらぶ”保利 透さんのトークとレコード再生イベント

3月30日、NHK朝ドラ「ブギウギ」は、前日の最終回を終えて一週間分のダイジェスト版を放送。主演の趣里さんがドラマのモデルである笠置シヅ子さんを見事に演じ切り、淡谷のり子さん役の菊地凛子さん、服部良一さん役の草彅剛さんらの熱演もあって、半年間毎朝の楽しみに観てきました。この朝ドラ最後の日に、これらの人々の当時の歌声やリズムを刻んだレコードを聴く特別な催しをしました。

講師は、上掲チラシに載せた『SPレコード博物館 明治・大正・昭和のレコードデザイン』著者で“ぐらもくらぶ”代表の保利 透さん。音楽アーカイブ、音楽プロデューサー、戦前レコード文化研究家としてご活躍です。

最初にお会いしたのは、2016年4月16日「無声映画の昼べ」をした時。SNSで繋がっている保利さんと直接お会いできて舞い上がったことを今も良く覚えています。その後、当館で正会員やサポーター会員の特典用に作ったDVD「活弁と生演奏で彩る~おもちゃ映画の玉手箱」では、童謡歌手として人気があった平井英子さんが独唱する『茶目子の一日』(作詞作曲は佐々紅華、1929年4月)のレコード音源をお借りして、西倉喜代治のアニメーション(1931年)と同期させたバージョンを収録しています。

そんな風にお世話になっている保利さんが、昨年12月13日に単著『SPレコード博物館』を出版されたと知り、「これは購入せねば」と思っていたところにタイミングよく、「関西でトークと蓄音機による再生イベントをしたい」と連絡があり実現に至った次第です。保利さんは、前日の29日にMBSラジオの生ワイド番組「福島のぶひろの金曜でいいんじゃない?」に出演されたのだそうです。

福島暢啓アナウンサーは、2年前の昨日4月2日に虫眼鏡を手に帽子にマントを羽織った探偵のいでたちで来館。暖簾をくぐって入って来られた時には既にカメラが回っていてびっくりポン!の状態でしたが、楽しい思い出です。車で走っていて風に揺れている黄色の暖簾が目に入って「何だろう?」と関心を持たれて、突撃で訪ねてきてくださいました。その福島アナウンサーの番組に保利さんも出演されたばかりというのも面白い巡り合わせです。

さて、30日は2年ぐらい前から始めたという蓄音機DJから。

持参されたのは、コロムビア241のポータブル蓄音機2台。

最初に淡谷のり子さんとコロムビア・ナカノ・リズム・シスターズの歌で1936年の『おしゃれ娘』(作詞:久保田宵二、作曲:服部良一)。レコードをかける前から、先ず蓄音機のゼンマイを巻き、鉄針を付け、レコードをのせて準備をして、次いで、アームをレコード盤の上にセッティング、回転したレコード盤に、いよいよ丁寧に針を落とします。音楽が流れるまでに、結構手間と時間がかかりますね。この時間がレコード好きにはたまらない魅力なのでしょう。淡谷さんについては、なんとなく「ブルースの」というイメージでいたのですが、速いテンポのリズムに乗ったお洒落な歌。最初誰の歌声かわからず、あとで保利さんに聞いて「へえ~」と思いました。

曲が掛かっている間に、もう一つの蓄音機のゼンマイを巻き、レコードをセットして、鉄針をセット。絶妙のタイミングで針を落として2曲目がスタート。朝ドラで何度も聞いた笠置シヅ子さんの『ジャングル・ブギー』。ネットで調べると、この曲の作詞は黒澤明監督で、作曲は服部良一さん。1948年4月27日に公開された黒澤監督『酔いどれ天使』の劇中歌で、笠置さんは「ブギを歌う女」として出演。レコードが発売されたのはこの年の11月だそうです。

2枚目が終わる前に最初の蓄音機のゼンマイを巻き、針を取り換えて準備。そして絶妙のタイミングで3枚目の『ヘイヘイブギー』(作詞:藤浦 洸、作曲:服部良一)がかかります。歌は笠置シズ子さん。これもネットで調べると、1948年4月12日に公開された大映東京撮影所の映画『舞台は回る』(田中重雄監督)で笠置さんは主演をされていて、この曲は主題歌。同じ1948年ですが、ネットで検索すると、歌手を引退してから彼女は「シズ子」から「シヅ子」にかえたというのがありましたが、後述のようにひらがなで「しづ子」というパターンもありますから、よくわかりません。

そして4枚目のレコードは『東京ブギウギ』(作詞:鈴木 勝、作曲:服部良一)。1947年の発売なので、保利さんの本で調べると、SPレコード盤面には「笠置シズ子」とあります。朝ドラでも歌っておられたので、耳になじんだ曲。番組が終わったタイミングでのイベントなので、「ブギウギ」ロスを吹っ飛ばそうと、優しい保利さんは笠置さんの曲を多めに聴かせて下さいました。

この朝ドラには直接かかわってはおられないそうですが、朝ドラバブルのような感じで、諸々依頼を受けて気ぜわしい日々を過ごされたそうです。そんな中でも、㈱Pヴァインから出版の話を持ち掛けられて、昨年12月に『SPレコード博物館』を出版されました。カラーページがレコードのレーベルだけで432頁、モノクロは36頁しかないそうです。値段もそれに呼応して4,800円+税の5,280円と高額ですが、表紙に「永久保存版!」の文字が躍るように、重宝するレコード大全。一家に一冊、如何でしょう!

流行歌ばかりではなく、演説のレコードなども含まれていて、戦前から戦後にかけてのレコードのあくまでもデザインの変遷を見て楽しんでいただけるよう工夫された本で、全部保利さんのレコードで構成されています。「松井須磨子の発売レコードは恐らく全て収録されているだろう」とのこと。今年52歳になられるそうですが、こうしたレコードを集め始めたのは12歳ぐらいのことだそうです。ですからもうかれこれ40年。「もともと家にLPやEPを聴くステレオセットがあったので、レコードそのものに興味があった」と保利さん。モノを知らない私は、ここで既に躓き。「EPって、何?」。ネットで参考になるのを読みましたので、リンクを貼りました。

集め始めた最初の1枚は“ポンキッキ”の「今月の歌」のようです。「集めることに魅せられ、マンガのレコードを集めているうちに古いマンガに出合って、聴いているうちに深みにはまっていった」と保利さん。35年ほど前に福田俊二さんの『昭和流行歌手総覧』を読んで、いずれこうしたものを作りたいと思うようになったそうですが、40年後に実現されたのは立派です‼

続いて、映画関係のレコードをかけて下さいました。高杉妙子さんの『年ごろ』。1938年アメリカで公開されたディアナ・ダービンらが出演するミュージカル映画『That Certain Age』のナンバーを西原武三さんの訳詞で高杉さんが歌いました。彼女は舞台やスクリーンでも活躍されました。

蓄音機のゼンマイを巻き、鉄針を替えて次の曲へ。映画『東京ラプソディ』(伏水修監督、1936年)の挿入歌『恋の饗宴(うたげ)』(作詞:門田ゆたか、作曲:古賀政男)。歌うのは映画で主演した藤山一郎さん。レコード盤の状態から「もしも針飛びをしたらご愛敬ということで」と最初に言われましたが、特に気にならなかったです。SP盤で一番よくない状態に針飛びがあり、500gぐらいあるヘッドを上手くレコード盤に落とせず、ポンと落とすとレコードに穴が開くこともありますし、バリバリバリと傷をつけてしまうことも。ヘッドを押して傷になることもあって、場合によっては再生不能になることもあるそうですから、「取り扱いは注意深く」ですね。

SPレコードのアコースティック再生は、ゼンマイを巻いて、モーターを動かし、鉄の針からサウンドボックスという振動板を震わせて、ラッパの形の折り曲げフォンから音を聴かせる構造になっています。鉄の針で500gぐらいあるサウンドボックスをレコードにあてることは、ほとんどが鉄の何かで引っ掻いているのと同じようなものだそうで、レコードは少ないもので100回ぐらいで聞けなくなってしまうものなのだそうです。1950年までのテクノロジーは、レコードの溝を減らすのと、針を減らすのと同時にやることによってクオリティを保つものでした。「針が擦り切れる、レコードが擦り切れる」というのは、あながち誇大表現ではないのですね。

基本的に保利さんは蓄音機でレコードをかけることは余りやらないそうです。それは、電気で再生するほうが迫力があるように思うから。ですから、この日は特別な場だったのですね。世界的に見ても、歴史を振り返ると、1925年前後から電気で録音するようになります。それまではラッパに向かって大声で演奏した直接の振動音をレコードに刻んでいました。

その後にマイクとアンプを使ってレコードを作るテクノロジーが開発されました。ちょっと連想して思い出したのですが、上掲スクラップは、1930年に公開された『何が彼女をそうさせたか』の録音風景。サイレント映画を一部同期録音で行いました。主演の高津慶子さんの声と合奏団の演奏を写真右下のマイクで採っています。アメリカではこの頃からレコードトーキーに移行し、そしてフィルムに直接焼き込む録音方法に代わっていきます。この映画も、イーストフォン方式と言ってレコードトーキーでしたが、相当に大きなレコード盤で、一般に市販されたレコード盤とは異なりますが、原理は同じです。如何に溝の振幅を無駄にしないで入れようかということで、低音を少なくして高音の迫力ある音をたくさん入れるようになり、電気で再生する時は低音をグッと上げるとかいうことが出来るようになりました。

日本では昭和30年代ぐらいまでコロンビアがポータブル型を作っていて、電気で作られたものをポータブル型で聞くと、録音レベルが高いので、あっという間にレコードが悪くなりました。それで日本ではわざわざダビングをして、録音レベルを下げるようにしていたそうです。どうやっても低音がなかなか聞こえて来ず、高音がカンカンしてしまうという欠陥がありました。

と専門的な話を聞かせて貰った後、いよいよ当館所蔵のターンテーブル“トーレンスPrestage”を使ってレコードを聴いてみることに。

この時、保利さんは初めてこの大きくて重たいトーレンスと対面されました。「せっかくの機会だから、うちにあるトーレンスを使ってみませんか」と私の方から要望し、現状写真を送っていたので、オルトフォンのSP盤専用カートリッジCG65DiMKⅡを持参してくださいました。「円が安い今、海外から買うと10万以上はするだろう」という高価なもの。

トーレンスPrestageは重い金属を使っていて、ベルトドライブで回します。当館にこの音響設備一式がやってきたときは、どうやっても回転しなくて、直してくれる人の出現を待ち望んだものでしたが、原因はこのベルトが劣化して落ちていたことでした。直してくれたのは開館して1週間後に来館して下さったアメリカ人。その時のことは、こちらで書いています。その後もたまにしか活躍する場を作ってやれず、「宝の持ち腐れ」状態でした。けれども、ようやく活かせて下さる人と出会えました💖

電源を入れても33回転から78回転にするまでに時間がかかります。巨大で重いものを回すと、慣性の法則でなかなか止まらないというのがあり、そうして回転数を一定にさせます。ピックアップ、カートリッジ、アームが全て独立していて凄い仕掛けになっています。

JBLのスピーカーが後ろにあるので、参加者の皆さんは、体の向きを変えたりしながら、それぞれの姿勢で耳を傾けました。

レコードは『ラッパと娘』(作詞・作曲:服部良一、1940年)。朝ドラですっかり耳になじんだ曲です。レコード盤には「笠置しづ子」とひらがなで書いてあります。続いて、『東京ブギウギ』ですが、今度は日本のレコードをアメリカで再プレスした盤。蓄音機で聴いた日本盤とトーレンスで聴く米国プレス盤との聴き比べ。電気の方が迫力がありました‼

次にグレンミラー楽団の『ムーンライト・セレナーデ』(アメリカプレス盤)。この曲も実に良かったのですが、次の『蘇州夜曲』(曲:服部良一、1941年)が秀逸でした。独奏した田中和男さんのヴィブラフォンがとても心地よかったです。そしてこの日最後に聞かせていただいたのは、美空ひばりさんの『上海(Shanghai)』(作詞:ミルトン・ディラグ、訳:奥山靉、曲:ボブ・ヒリヤード、1954年)。朝ドラの終わり近くに美空ひばりさんと笠置シヅ子さんの確執が描かれていましたが、この曲を聴くと、ひばりさんまだ16 ~17歳なのに、歌の上手さに舌を巻きます。ドリス・デイの曲を見事にカバーしています。

以上11曲を聴かせていただきました。この様子は、動画を撮影していましたので、YouTubeで公開します。木造の天井が高い空間に響いたトーレンスの音色は生でないと伝わりませんが、雰囲気だけでも味わっていただけたらと思います。そして、保利さんと「ぜひ第2弾をしましょう」と話しています。具体的に日時が決まったらご案内いたしますので、どうぞ楽しみになさってください。

最初の写真に多少写り込んでいるCDは、明治・大正・昭和期のSPレコード音源を様々な切り口で復刻した“ぐらもくらぶ”の商品です。他に、前掲スクラップ写真のようにマイク1本による戦前の録音風景を再現した『大土蔵録音シリーズ』もリリースされていて、こちらは2021年度のミュージック・ペンクラブ音楽賞最優秀作品賞に輝きました。お求めは、“ぐらもくらぶ”をご覧下さい。

保利さん、素敵な時間をどうも有難うございました‼そして参加して下さった皆様にも心から御礼を申し上げます。「行きたかったけど、仕事と重なって残念だった」という声も届いています。第2弾でお会いしましょう!!!!!

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