おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2026.10.12column

すごく楽しかった9/27「無声映画で楽しむ喜劇のひととき」

いつもながら遅れがちの振り返りですが、9月27日に開催した「無声映画で楽しむ喜劇のひととき」について書きました。登壇はお馴染みの活動写真弁士の坂本頼光さん、サイレント映画ピアニストの天宮遥さんでした。

チラシを作ってくれた京都芸術デザイン専門学校の松本凰伽さんが付けてくれたタイトルの通り、みんなが声を出して笑いながら観た愉快な「無声映画で楽しむ喜劇のひととき」となりました。

最初に斎藤寅次郎監督『石川五右衛門の法事』(1930年)から上映しました。この作品は寄贈いただいたフィルムで、今回が初上映です。頼光さんもネットオークションで大枚をはたいてこのフィルムを落札され、これまでも公演で用いておられます。頼光さんは「自分も持っているから」と今回上映素材の送付を希望されませんでした。前説で「二つがどういう違いがあるのか、さほどないのか、保存状態もあるので、その辺を楽しみにしている」と話されましたが、本作活弁中に「…この部分は私のフィルムにはなかったです。おもちゃ映画ミュージアムにあるのだったら買わなきゃよかった」と仰って笑いが起こりました。

無声映画だけでなくトーキーになってからも劇場で上映されたフィルムは、日本に於いては圧倒的に残存しておりません。人気があった作品は家庭用に短縮版が「おもちゃ映画」(35㎜)やパテ・ベビー版(9.5㎜)として販売されていたので、私どもの活動を知った人々から「押し入れから見つかった」「物置から見つかった」などと声をかけて下さることがあります。『石川五右衛門の法事』もそのうちの1本で、パテ・ベビー版でした。頼光さん所蔵フィルムと当館のを比べてみることで、少しでも長く状態の良いコマを保存することができます。お客様から届いたメールに「なかでも『石川五右衛門の法事』はなかなか見応えがありました」と書いてくださったのもあり、来年10月ポルトガルのセトゥーバル市での上映会に向けて頑張って用意しなければという思いでおります。主役は渡辺篤さん。黒澤明監督の映画に出ていた名脇役ですが、サイレント時代はコメディ俳優さんだったのですね。

石川吾郎君という青年が恋愛問題に悩み、それを先祖の石川五右衛門(横尾泥海男<でかお)>上掲写真右端)が出て来て解決してやろうという話。
二代目石川五右衛門役が青木富夫(スクリーン中央の男の子)で、前年につくられた小津安二郎監督『突貫小僧』の悪ガキ役も熱演しています。彼はこの後上映する『子宝騒動』(1935年)の主役・小倉繁(和製チャップリンと呼ばれた)の実子だそうです。『突貫小僧』の人気で、子どもの頃は突貫小僧を名乗っていたほどで、当時はさぞかし多忙な子ども時代だったことでしょう。頼光さんの話では、実際の青木富夫は芝居で見せる10倍くらい悪ガキだったようです(笑)。
吾郎君が、結婚に反対している恋人の父親・古屋源蔵(坂本武)の顎の下をくすぐるしぐさが可笑しくて。飼い猫をゴロゴロ言わせて手懐けるあのしぐさ。セトューバル市の愛猫家にもこの面白さが伝わるかしら。

続けて、市川右太衛門主演『怪傑夜叉王』(1926年、牧野省三監督)です。この作品は当初『石川五右衛門』だったのですが、前年に出来た映画検閲制度によって改題を余儀なくされました。坂本さんの解説によれば「石川五右衛門は共産主義者だから」という理由だそうです。『石川五右衛門の法事』(1930年)の4年前のことですが、こちらは全く検閲に引っかかっていません。「権力に逆らうことが共産主義で反体制=共産主義者とかコミュニストとかに考えていたんじゃないですかね。共産主義者が城に忍び込んだりしますかね?豊臣秀吉によって釜ゆでにされた安土桃山時代の盗賊石川五右衛門のつもりでご覧になってください」と坂本さんの名調子は続きます。

『旗本退屈男』で知られる市川右太衛門さん若き日の雄姿です。阪東妻三郎が独立して不在になった後の穴を埋めるべく右太衛門さんのデビュー2作目。本来は13巻からなる大作でしたが、悲しいかな残っているのはパテ・ベビー版の8分程度。「強者はまた強者を知るか!」と名調子のところでお終い。坂本頼光さんは「『何でここで終わらせたの?』と聞きたいぐらい。短縮版を作るにはセンスが要る」と語りましたが、この「強者はまた強者を知るか!」の言葉を私はこれまでの人生で一度も使ったことがないので、AIジェミニに尋ねました。ちょっと脇にそれますが、読んでお楽しみいただければ。

……

「強者はまた強者を知るか」という台詞、とてもシビれる素晴らしい語りですね!

この言葉の背景には、古くからある「同類の者や、真の実力を持つ者同士だからこそ、互いの本質や凄さを一目で理解し合える」という武芸・剣豪世界や古典文学の思想があります。

1. 言葉の背景と意図

・「英雄重英雄(英雄、英雄を知る)」の思想 中国の故事や日本の武道・公団世界には「英雄、英雄を知る(同好相求む)」や「蛇の道は蛇」といった考え方があります。敵対する関係であっても、圧倒的な腕前や気迫を持つ者同士(強者)が対峙したとき、言葉を交わさずとも相手の底知れぬ実力や覚悟を瞬時に察知する瞬間を表しています。

・対峙する者同士の緊張感「ただの力自慢や凡人には分からないが、本物の強者だからこそ、相手が秘めた牙や凄みに気づいて畏怖し、また敬意を抱く」という、チャンバラ劇・活劇における最高潮の緊迫感を表現する表現です。

2. サイレント映画・講談における活弁の役割

『怪傑夜叉王』のような本格的な時代劇活劇において、活弁士は単に場面を説明するだけでなく、画面上の剣士たちの「見えない気迫のぶつかり合い」を講談調の七五調や名調子でドラマチックに引き立てます。

坂本頼光さんのように伝統的な無声映画の語り(弁士調)や講談・浪曲の文脈を深く汲み取っていらっしゃる弁士は、登場人物たちが対峙して互いに構えを崩さない一瞬の「間(ま)」に、こうした格式高く情景が浮かぶフレーズを鮮挿入されます。

凡夫には見えない「強者同士の無言の対話」を、語り一言で観客の脳裏に鮮烈に浮かび上がらせる、まさに活弁ならではの妙技・名台詞と言えます。

……

さて、次は『突貫小僧』(1929年、小津安二郎監督)。これまでいろんな人の活弁で何度も見ている『突貫小僧』ですが、坂本さんが初めて取り組んだこの作品で映画に登場する“かにぱん”に注目しました。これまでの誰も触れなかったように思います。人攫いをおちょくる青木富夫は当時5~6歳でしたが、この映画に出てくる悪ガキの10倍ぐらい悪かったようで、撮影中も言うことを聞かないし、公然と寝てしまうこともあったようです。映画は“かにぱん”で誘い出して子どもを誘拐する人攫いの話なのですが、スタッフが撮影のためにたくさん用意していた“かにぱん”を彼は撮影前に全部バラバラにしちゃったそうです。仕方がないので助監督やスタッフ全員で爪楊枝でくっつけて修復し、ごまかして撮ったらしいです。
ベンチで、人攫いが買ってくれた“かにぱん”を貪り食べる突貫小僧を「手に負えないガキだ」ぐらいの気持ちでみている人攫い。ネットで検索したら「かにぱん」の歌がありました。今もコンビニなどで売っているようです。
人攫いの親分も突貫小僧にさんざんな目に遭わされ、手に負えず。演奏している天宮遥さんの楽しそうな顔が印象的。世界にその名が知られる小津安二郎監督がまだ若い頃の喜劇映画で、3日で撮ったそうです。上映会後、坂本さんは「この作品をまたやりたい」と仰っていましたから、きっとどこかで近いうち再演されるでしょう。彼のプログラムをチェックして、次はご自分の目と耳でお楽しみください‼

そして最後が、マツダ映画社さんからお借りした『子宝騒動』(1935年、斎藤寅次郎監督)。
坂本さんからこの映像を受け取ったのが実施日の二日前でした。お忙しくされているから仕方がないですが、天宮さんはそれでもきっちり合わせて演奏して下さいました。私は私で、受け取った映像を見て直ぐに思ったのは「よくもまぁ、こんなドタバタ喜劇を作られたものだ」ということ。ひっちゃかめっちゃか、ナンセンスコメディの極み。

斎藤寅次郎監督も早撮りだったそうです。この作品が撮られた直ぐ後に、松竹は蒲田から大船に移ります。「蒲田は工業地帯なので、トーキーになると工場からの音が入ってきて具合が悪いと判断されたのでしょう」と坂本さん。脚本の池田忠雄は『突貫小僧』にも参加しています。子どもが6人いる福田さんちの奥さんは身重。今にも生まれそうなのですが、失業中の福田さんちは子宝には恵まれてもお金には恵まれておらず。いよいよ産気づいて産婆さんを呼びに行きますが…。作られた時代を反映して“産めよ増やせよ”の映画。「福田さんの前途には子宝の数だけ幸福が待っていたという蒲田ナンセンス『子宝騒動』の大団円であります」で、坂本さんの活弁公演は無事終演。

坂本さんによれば、最初は『産児無制限』というタイトルでしたが、それは無責任だということで『子宝騒動』になったそうです。この作品の対極にある斎藤寅次郎監督で小倉繁が主人公の『この子捨てざれば』(1935年)というのがあり、今度は子どもを町へ捨てに行こうとするが、逆に子どもを拾ってきて、また子どもが増えてくるというお話のようで、凄く面白い作品だったようですが、残念ながらフィルムが残っていません。坂本さんは、「残っていないのは惜しいですが、またおもちゃ映画ミュージアムに寄贈されるかも知れないので待っています」と話しておられました。どんな作品か観たいです‼ そんな評判になった面白い作品なら、きっとおもちゃ映画かパテ・ベビーの短縮版で販売されていたでしょう。どこかのお家に眠っていませんか?今一度、押し入れや、蔵を探してみてください。宜しくお願いいたします。

坂本さんは「今回のプログラムには4作品ともどことなく関連性があり、こうした番組編成も珍しいんです」と仰いました。そういった特別なプログラムに最後までお付き合いいただいた皆様と記念写真を撮りました。

皆さんの笑顔が、とても楽しかった活弁上映会だったことを表していると思います。ようこそおいで下さいました。またこうした場を設けたいと思います。その時またご一緒しましょう‼

坂本頼光さん、そして天宮遥さん、熱演ありがとうございました‼ 「久しぶりに映画で声を出して笑いました」と書いて下さったお客様もおられます。本当に楽しい喜劇のひとときになり、心から感謝しています💗💛💚💙

記事検索

最新記事

年別一覧

カテゴリー