2026.10.18column
この秋のフィル―ルド・ワークから①
9月15日、埼玉県立近代美術館で開催されていた「密やかな美 小村雪岱のすべて」の後期展を駆け足で見てきました。夏に同館学芸員の方から美しいポスターと招待券が届いたことからでした。端緒は小村雪岱が美術を担当した映画『おせん』(1934年、石田民三監督)のフィルムの一部を見つけた同監督研究者である佐藤圭一郎さんからの希望で、国立映画アーカイブにフィルムを寄贈する手伝いをしたことからでした。今回の展覧会では8月9日この映画上映会も行われました。
超方向音痴の私なのですが、この美術館がある埼玉県営浦和北公園は駅前に広がっているので分かりやすかったです。
公園入口に大きな看板が掲示されていました。この日はあいにくの雨でしたが、緑が一層鮮やかでした。

これは西野康造さんの「風の中で」。噴水も一緒に楽しめる設計なのでしょうか?

重村三雄さんの「階段」、1990年。

他にもたくさんの造形作品が点在していて、お天気が良ければこの公園は市民憩いの場として親しまれているのだろうと思いました。この公園の中に目指す埼玉県立近代美術館がありました。

目的の小村雪岱展ですが、開館して直ぐだったこともあり、ゆっくりと見て回ることができました。何点か撮影できる作品もありましたが、相当な数の展覧会で学芸員さんの努力の成果だと感心しながら拝見しました。私が小村雪岱(1887-1940)について知ったのは、下掲2021年3月13日付け京都新聞の記事でした。その折のことはこちらで書いています。そのすぐ後に尾上松之助主演『(実録)忠臣蔵』(1926年)の映画を観て約500コマの絵で映画を描き切り、自分で製本していた芹川文彰少年(当時15歳で、熊本県山鹿市在住)の原画展を開催するところでした。後に私どもは彼の絵を“キネマ画”と名付けました。

1927年1月16日に15歳の芹川少年が描いた1枚です。マンガのべた塗りの先駆け?と思っていたところでしたので、福住廉さんの文章を興味深く読みました。残念ながら今回の図録に氏の論考は載っていませんでした。西山純子さんのコラム「小村雪岱と邦枝寛二、挿絵と浮世絵」によれば、1932年邦枝氏の『江戸役者』から共作が開始され、そのあと『おせん』『お傳地獄』『喧嘩鳶』と続いて、「雪岱調」が確立するそうです。
手元に大佛次郎著『赤穂浪士』3巻(1928年10月18日、同11月20日、1929年8月3日各巻発行)があり、挿絵を手掛けたのが岩田専太郎(1901-1074)です。

上巻にはさほど挿絵はありませんが、下巻には挿絵も増えていて、大衆文芸ブームは、読み手の側にも挿絵を求める気持ちをもたらしたのだろうと勝手に想像しています。
挿絵で知られる岩田仙太郎の27~28歳の仕事。上手いなぁと思いますが、芹川文彰少年の絵もなかなか素晴らしいです。彼が残した絵には伊藤彦造の挿絵の模写もあって参考にしていたことがわかります。挿絵は絵心がある若者の心ときめかす仕事だったのでしょう。

「春告鳥」(1932年)
「おせん」1933年新聞連載された挿絵の中から、1941年頃に自ら3点を選んで肉筆で描き直したうちの1点。
1934~35年読売新聞夕刊連載「お傳地獄」の挿絵の一枚。小村雪岱は歌舞伎や新派の舞台装置でも活躍していましたが、映画『おせん』のように映画でも活躍していました。溝口健二監督『狂恋の女師匠』(1926年)で初めて映画製作に携わったそうです。その2年前に『忠直卿行状記』で初めて舞台装置を手掛け、高く評価されたことから、以後歌舞伎や新派、舞踊の舞台装置・美術考証に数多く携わっていることから、溝口監督も「江戸・明治の粋で退廃的な美しさ」「リアルかつスタイリッシュな室内装飾」を映像化するために、雪岱にオファーしたのでしょう。図録の菊池真央さんの「小村雪岱 モノクロ映画の美術考証」を読むと、当時の映画評には「スクリーンは絶えず完全な一幅の絵画であった」との賛辞もみられるそうです。「小村雪岱考証」と載っていて、日本映画の「美術考証」の端緒とも言われているそうです。この映画は残っていないようですが、初期溝口映画の傑作として評価される作品だそうですから、どこかのご家庭から、16㎜などに短縮されたバージョンが見つかると良いですね。
端正なルックスの小村雪岱は、その仕事も品よく繊細で粋な美、洗練された美を追求しました。私は愚かにも昨年12月27日~今年3月1日まであべのハルカス美術館で最初にスタートし、続いて千葉市美術館、そして最後に埼玉県立近代美術館で巡回展がなされたことを後になって知りました。わざわざ遠くへ行かずとも、でしたが、おかげで人生2度目の埼玉県の土地を踏むことができました。折角の機会なので、この足を延ばして東京都美術館開館100周年「大英博物館百花繚乱」を観に行きました。


