2026.02.26column
初期映像装置を再生してみよう!Part3 オンブロチネマ
今頃になって誠に申し訳ありませんが、11月16日と12月21日の2回に分けて、初期映像装置“オンブロチネマ”と“キノーラ”を新たに作って披露した折りの振り返りです。いずれも2部制で実施しました。
先ずは11月16日のチラシを掲載します。

「初期映像装置を再生してみよう!」シリーズのPart1は手持ちのミュートスコープのリールを見るための道具作りでした。講師の東京芸術大学大学院映像研究科特任研究員で、映像玩具の科学研究会を主宰する橋本典久さんに、お得意の3Dプリンターを駆使して本体を作っていただき、Part2は、その本体を活用して、iPhoneで1分間撮影した旧ミュージアム内の記録映像を用いて動態保存したリールを新たに作り、覗いてみるという内容でした。そして迎えた11月16日のPart3は、 “オンブロチネマ”の再生です。

第一部は初期映像装置“オンブロチネマ”を体験しよう、ということで様々なオンブロチネマを実際に触って体験しました。この回は初めて公益財団法人北野生涯教育振興会の助成事業として実施しました。当日はご担当者様が会場にてお手伝いもしていただき、恐縮至極の進行でした。初期の映像装置に触れて学べる内容なので、子どもたちにも多く参加して頂きたく呼びかけもしましたが、なかなか難しかったです。この点がいつもながらの課題です。
オンブロチネマはフランス語で“シャドー・シアター”「影と映画」の意味です。1910年頃にパリの玩具メーカーのソシーヌ社が考案し製造しました。2、3コマ程度の絵を縦に分割して、アニメーションのようにゆったりと見せる装置でした。オルゴールのゼンマイの力でロールを巻き上げます。なお、オルゴールなしのバージョンも同時販売していて、ロールは同じものを使っていたので、注文するときにはどちらか選択するようになっていたようです。1枚の絵でありながら、スリットを通して見ることによって変化して見える古典的な絵のアニメーションのことです。縦の格子をピケットフェンスまたはバリアグリッドと呼びます。元絵を3枚作り、それを分割合成して種板を作り、その前にスリットシートを載せます。細く等間隔で切り、緑、青、ピンクなどに彩色した絵に 2コマを隠す黒いスリットを載せると、見せたいコマだけが見えます。透明の隙間を広くすると明るく見やすいですが、1/3ほど隠す黒い格子にすると少し暗くなるので、裏から照明を当てることで見やすくなります
その仕組みを使った有名な絵本、ルーファス・バトラー・セダーの『ギャロップ‼』『スウィング!』『WADDLE!』を紹介してもらいました。

終了後に当館でも購入しましたので。来館の折りにページをめくって体験してみてください。ページを開くことで、中の絵が動いて見える仕掛け絵本です。スリット・アニメーションの一番古い本は『モトグラフ ムービング ピクチャー ブック』だそうです。この仕組みを利用した時計やコーヒーカップ&ソーサーのセットもなかなか面白いです。

カップにスリットのような縦棒の鏡が描いてあり、少し角度を変えてみるとソーサーの絵が鏡のスリットに反射してアニメーションのように動いて見える仕掛けになっています。
『ガリバー旅行記』など販売されていたオンブロチネマの額絵には、ヤシの木タイプと街灯タイプのおそらく2タイプがありました。今回再生してもらったのは、ヤシの木タイプ。 オンブロチネマが登場する前には、スクロール型のパノラマ装置とオンブロシノワーズ(中国の影絵)がありました。スクロール型のものは、日本の絵巻物と同じようなものでした。この二つが合わさってオンブロチネマが登場しました。

パリの高級玩具店“AU NAIN BLEU”から英米などに販売されて広がりました。現在では自動ドアを使っての、オンブロチネマ的な装置は世界各地にみられるとのことです。
素材に用いたのは古川タクさんが描いて未公開だった作品で、それをスキャンして合成して使用しました。裏側のオルゴールで引っ張って動かすためには、元絵を左右反転させる必要があるのと、古川さんはすべて手描きなので、その良さを活かしながらスリットアニメーションを作るのに苦心したそうです。

AとBの2コマの元絵を等間隔に切って、AとBを1つおきに選んで重ねて合成した絵を作ります。それを同じ幅で切ったバリアを被せてずらすと、Aしか見えない瞬間と、Bしか見えない瞬間があります。バリアグリッドは透明1、黒が1なら最低限再生できますが、本物を調査したところ、ほぼ2対1だったので、3コマ分が再生できるピッチで作られました。

そして第二部では、実際にオンブロチネマを披露し、参加者はその面白さを体験しました。箱に描かれているのは、右はチャップリンのようですが、左はチャールズ・プリンスという喜劇俳優で、 “リガディン”の通称で人気があった人物ではないかとのことでした。3月14日に講演して頂く喜劇映画研究会代表新野敏也さんも「そういわれたら似ていますね」と仰っていました。YouTubeで、彼の作品『リガディンと魔法の杖』(1912年)を見ることができます。
使用されたオルゴールの曲は1900年にエリック・サティが作曲したシャンソン『ジュ・トゥ・ヴ―』です。これまで橋本さんに作っていただいた再生装置全てについて、事前にどのようなものを制作されるのか聞いておらず、この瞬間にこのオルゴールの音色を知りました。 一昨年12月1日ミュートスコープ発表後の体験会で初めてオンブロチネマを見て、後方からのライトに照らされ、オルゴールの『ムーン・リバー』の音色を伴って、絵が動く玩具に心をつかまれ、直ぐに「来年は、これを作って欲しい」と要望したのですが、それが叶った瞬間でした。



お披露目を終えて、早速オンブロチネマを始め、仕掛け絵本、ミュートスコープなどに参加者が触れて、その面白さを体験しました。この催しの第二部 は全国科学博物館振興財団助成事業として実施しました。
“オンブロチネマ”は、この日から当館の展示品に仲間入り。

これは11月21日に近くの西陣中央小学校に通う小学5年生のシェニファーさんが、友達を連れて遊びに来てくれた折りのもの。 “オンブロチネマ”を見せてあげました。この時はライトボックスを後ろから当てています。

1月16日に公立西オーストラリア演劇芸術アカデミー(WAAPA)のダミアン先生が再訪して下さり、昨年4月には無かった“オンブロチネマ”を見て頂きました。この時も今も、ライトボックスの上に立てて展示しています。手にしておられるのが、ルーファス・バトラー・セダーの『ギャロップ‼』です。大学で映画を教えておられる先生は、流石、オンブロチネマも、ルーファスの本もご存じでした。でも一般の方はそう多くはご存じでは無いと思いますので、ご来館の折りにはぜひご覧になってくださいね。

片付けをしていて出てきたのですが、左の二つは、縦10.2㎝×横12㎝×厚さ0.1㎝の「PUNCH CINEMA」で日本製です。東寺ガラクタ市で購入したもの。右は北海道の松山さんから寄贈してもらったもので、彼が函館のアンティーク雑貨屋さんで見つけたそうです。同市内の蔵から見つかり、持ち主の名前が鉛筆で書いてあり、宝物のように大切に残しておられたことがうかがえます。「北海道開道五拾年記念」櫻正宗一升壜詰景品付大賣出しの五等景品だったようです。スクリーンの上に「漫画活動」と書いてあります。舞台に燕尾服を着た活動写真弁士らしい男性が立ち、詰めかけたお客様がこれから始まる動くマンガ上映への期待でワクワクしている様子が伝わってきます。北海道開道50年記念を検索すると、1918(大正7)年8月1日~9月19日まで開催されたようです。フランスで1910年頃販売された“オンブロチネマ”が世界中に広まって、日本ではその後暫くして、こうした玩具を製造して子どもたちに親しまれるようになっていたことが分かります。


