おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2022.01.19column

「喜劇のレジェンド展」に、1921年9月のロスコー・アーバックル事件を報じる紙面を加えました‼

5日から開始した喜劇映画研究会(東京)45周年記念「喜劇のレジェンド展」では、チャップリン、キートン、ロイドの肉筆サイン入りポートレート、コメディアンゆかりの品々、ブロマイド、当時の販促品、1988年からの同会活動ポスターなど同会が所蔵する貴重なコレクションを展示しています。中には、スラップスティック・コメディ(体を張ったコメディ映画)を創始し、「喜劇映画の帝王」「映画の父」と呼ばれたマック・セネット(1880ー1960)の直筆サイン入り契約書もあります。1917年当時キーストン撮影所所長だったセネットが、監督契約を交わしたときのもので、相手はフェリス・ハートマンという芸人。この人物が、日本へ最初にオペレッタを持ち込み、やがて浅草オペラになり、エノケンが登場します。

それから12/25、26東京で幕を開け、1月8~10日大阪、14~16日福岡、1/28名古屋、2/3~17東京凱旋公演の「SLAPSTICKS」が2003年に公演されたときのポスターもあります。この時は、オダギリジョーさん、ともさかりえさん、古田新さんほか出演で、大勢のお客様がご覧になったそうです。このポスターは相当なマニアの方はお持ちかもしれませんが、プロダクションや関係者も既に持っておられない貴重な1枚です。

「SLAPSTICKS」は、1921年9月にハリウッドで起きたスキャンダル殺人事件を題材に、喜劇映画研究会初代会長ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが1993年に発表された戯曲、悲恋の大ドラマです。

そのハリウッド大スキャンダル殺人事件を報道した100年前の新聞二紙を当館が所蔵していましたので、早速展示に加えました。相当劣化していますので、ページを繰って中も見て貰いたいところですが、額装して掲示しています。

向かって右の新聞1面に卵形の写真が載っていますが、それがロスコー・アーバックル(1887-1933)です。先に述べたマック・セネットにスカウトされて当初はキーストン社に在籍。まだ新人だったチャップリンとも共演しています。バスター・キートンを映画に導いたのも彼です。メーベル・ノーマンドら人気俳優とも共演し、その後に自分のプロダクションを設立して、無声映画時代に最もギャラが高い国際的スターのひとりとなりました。愛称は“Fatty”。その愛称の通り大柄な体格なのですが、その割に動きが俊敏で、日本でも「デブ君」と呼ばれて人気がありました。

新たにパラマウント社に移籍したのを祝って、1921年の9月3日、サンフランシスコの高級ホテルで自ら催したパーティーで、駆け出しの女優ヴァージニア・ラッペ(ラップともが強姦され、3日後に膀胱破裂に起因する腹膜炎で死亡するという事件が起こります。様々な憶測が飛び交い、証言もあって犯人の嫌疑が掛けられたアーバックルは逮捕され、ハリウッドスキャンダルとして大々的に報道されます。結局、証拠不十分で無罪となりますが、世間のハリウッドへの視線は厳しく、アメリカ国内では、アーバックル排斥運動に発展し、映画界から半ば追放された形になります。フィルムも焼却処分されたことから現存するフィルムはほとんど残っていません。傷心の彼を救ったのがかつての愛弟子、キートンでした。

彼が亡くなった後の1985年に、事件を担当したサンフランシスコ最高裁判所が改めて完全無罪判決を下したことからアーバックルは再評価を受け、今日のフィルム発掘に繋がり、映画関係のオークションで彼に関連する品々は高嶺の花となっています。

さて、右の「シンシナティタイムズ-スター」9月12日(月)付け新聞(全24頁)1面の記事を、アメリカのランドルフ・メーコン大学国際教育部部長の中村真由美さんに要約していただきました。

大見出しは「ロスコー・アーバックル女優の殺人罪で起訴される」

「逮捕された喜劇俳優を巡る富と司法との戦い」

「死にゆく女性は彼を非難した」

「絹仕立ての衣服と体に残る幾つものあざは重要な証拠」

概要は「アーバックルは機知と財力と影響力を持って、弁護士を立てて無罪を証明する抗議をしましたが、地方検事はラッペさんに行われた残忍な犯罪はたとえ殺害の意図がなかったとしても一級殺人とみなすこととし、アーバックルが行った決定的な証拠もあるとしました。たくさんいた目撃者の中の一人によると、ラッペさんが亡くなる最後の何時間か前に“自分が負った怪我はアーバックルによるものだ。そして自分(ラッペさん)のフィアンセがアーバックルの近しい友人の一人という事実を元に、アーバックルを激しく非難していた”ことがわかりました」。

目撃者のリストの中にサンフランシスコのエンターテイナーである“アリス・ブレーク”という人の名前があるそうですが、後述するように演劇「SLAPSTICS」に目撃者としてサイレント映画ピアニストの“アリス・ターナー”が登場します。原作者のケラリーノ・サンドロヴィッチさんに、“アリス・ブレーク”さんの名前をヒントにされたのかと尋ねてみましたら「ネーミングはそうだったような気がします。30年近く前のことなので、もうあまり憶えていませんが」と返事が来ました。

この記事は7面に続くと書いてありますので、その部分も中村さんに要約して貰いました。

見出し1「ヴージニア・ラッペの臨終に立ち会ったのは、友人たった一人であった」

友人のスペックルさんはラッペさんと6年前に知り合いになったとされ、金曜日に療養所からラッペさんの見舞いに来るよう依頼の電話があり、死がすぐそこまで来ていると感じた彼女は牧師さんに来て貰って一緒に祈りを捧げて貰ったそうです。

見出し2「被害者のフィアンセが正義を求めて祈り」

ラッペさんの婚約者であるヘンリー・パテ・レアマン氏はアーバックルに対して辛辣で、「アーバックルは映画の世界に9年前に現れた。彼はもともとサンフランシスコで床屋で働き、洗い物や掃除をしていた。そんな人間は野蛮なやり方以外に人生の楽しみ方を知るわけがない」と話し、続けて「サンフランシスコのホテルでアーバックルに呼び出されたラッペさんに付き添ったデルモントさんという女優と電話で何度も(当時の状況を)話した。彼女によると“呼び出されたラッペさんはアーバックルを信用していなかったため自分に一緒に来て欲しいと依頼した。アーバックルの部屋で何杯かお酒を飲んだのち、アーバックルが立ち上がってラッペさんを掴んで別の部屋に連れ込んでドアもロックした。彼女が抵抗して叫んでいるのが聞こえて来たので何度もドアを叩いた。15分後にとても大きな叫び声がしたので、ホテルに連絡すると訴えたらやっと部屋のドアを開けた。ラッペさんの衣服は部屋中に散らばり、その時にはもうラッペさんは意識がない状態だった”と言っていた」。リーマン氏は「愛する人の遺体を埋葬する許可が出次第、西に向かう。埋葬場所はロサンゼルスになるだろう」と言っていた。

向かって左の紙面は「ロサンゼルス・エグザミナー」1921年9月11日付け朝刊紙面1面。大きく載っている写真の女性が被害に遭ったヴァージニア・ラッペさん。全くお気の毒です。

見出しは「アーバックルは殺人のために開催した」。

概要は「女優のヴァージニア・ラッペさんがアーバックル主催のパーティーに参加した後不可解な死を遂げたことから、その重要参考人としてアーバックルが警察から取り調べを受けたのち、容疑者として裁判所に連行され、尋問された」というもの。記事の後半部分は文字が切れていて内容が正確に読み取れませんが、“乱交による被害者”との表現があります。この記事にも「2面のコラムに関連記事掲載」と書いてあるのですが、残念ながら2面は「クリーブランドニュース」の1921年9月22日付けでした。大きな見出しに「KU KLUX KLAN EXPOSED」とあり、XXXの儀式とウイリアム・ジョセフ・シモンズ氏の写真が載っていて、ヴァージニア・ラップさんの記事とは無関係。黄ばんだ紙質ではありますが、後日二つの新聞紙面を複写して作られたものでした。

公演「SLAPSTICS」では、ロスコー・アーバックルの役をスリムな金田哲さんが肉布団を着て熱演されているそうです。アーバックルが投獄され、映画は中止。裁判で「ロスコー・アーバックルがラップ(劇中の表現)さんを殺すところを見た」と証言したサイレント映画の伴奏ピアニストのアリス・ターナー(ケラリーノさん創作人物)役を桜井玲香さんが演じておられます。主人公木村達成さん演ずるビリー・ハーロック(これも創作人物)はマック・セネットの助監督で、初恋の人がアリスという設定でした。

となると、当館が所蔵していた新聞はこの公演の舞台設定そのまま。各会場とも大変な好評だそうで出演俳優さんの人気が大きな要因かもしれませんが、ご覧になって無声映画を伴奏付きで上映していた時代にも興味を持っていただけたら嬉しいです。そして、鑑賞前・後の予習復習に今回の「喜劇映画のレジェンド展」が活かされればもっと嬉しいです。

「喜劇映画のレジェンド展」は2月27日まで。オミクロン株の心配がつきまとう日々ですが、可能でしたら見にいらしてください。皆様のご来場をお待ちしております‼

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