おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2022.01.23column

小津安二郎監督『突貫小僧』を英語の“カツベン”とアドリブピアノ演奏付きで公開しました‼

世界的に有名な小津安二郎監督の初期無声映画『突貫小僧』が、2015年開館を知らせる日経新聞の記事を読まれた熊本県の篤志家から寄贈された中から発見されたのは、2016年9月のことでした。パテ・ベビー(9.5㎜)で、家庭用に短縮版として編集されたものでしたが、それまでのフィルムには欠けていたタイトル部分も残っていて世界発信のニュースになり、この話題は世界中を駆け巡りました。

なぜ、発見まで1年間も掛かったのか、所蔵するパテ・ベビー映写機を、連れ合いが改造したことで動かせるようになったからです。それまでは業者に発注してデジタル化するしか方法がなかったのですが、それではお金が掛かりすぎて手に負えませんでした。ようやく映写機で映し出してみて、「あれっ、これまで欠落していた部分がある!」と気付いたわけです。これまで世界各地の映画祭などで上映してきましたが、小津監督の人気には今更ながら驚きます。

一つの例として、2018年10月にイタリアで開催された第37回ポルデノーネ無声映画祭で上映された時の分厚い公式図録を載せます。映画の字幕翻訳のみならず、図録での解説もロチェスター大学のジョアン・ベルナルディ教授にお願いし、さらにDCPにするのにお仲間たちに大変尽力して頂きました。

翌2019年1月23日、丁度今から3年前の今日、アメリカのバージニア州アシュランドにあるランドルフ・メーコン大学で音楽の教授として教鞭をとっておられるジム・ドーリング教授と学生さんたちが団体で見学に来て下さいました。その時の様子はこちらで書いています。ジム先生はそれ以前の2017年1月17日にもお越しでしたので、ダメ元でこの『突貫小僧』を上映して、即興でピアノ演奏をして欲しいと依頼しました。この時は私が撮影に失敗したので、先生が大学に戻られてから新たに演奏したものをその年の特典DVDにして、正会員やサポーターになってくださった方に御礼にお渡ししました。

因みに2017年来館の時の様子はこちらで書いています。その時「御礼に何か演奏する」と仰ってくださったので、うちで編集した『チャップリン短編集』を上映して、即興でピアノ演奏して貰いました。愉快な演奏風景はYouTubeでも公開していて、その映像も上掲特典DVDに収録しています。

『突貫小僧』の演奏は、とても親しみやすく、何回も映像を見聞きしているうちに、自然と口ずさんでしまいます。『チャップリン短編集』の映像も同様に。映画が誕生して以来、欧米に於いて無声映画はピアノ演奏付きで楽しむのがスタンダードでした。映画館には必ずピアノが置いてありました。普段から映画のリズム、テンポを感じながら見る習慣が欧米の人たちには備わっているのかもしれません。

さて、その出来上がったDVDを用いて、この1月、ジム・ドーリング先生の日本映画の音楽についての授業の折、同大学で日本語を教えておられるカイル・マグラクラン先生が俄弁士になって、“カツベン”をつけて紹介されました。日本への団体旅行に同伴され、通訳もしてくださった同大学国際教育部部長の中村真由美さんからその映像が届きました。それがとても興味深いので、それぞれの同意を得て、YouTubeで公開することにしました。それが冒頭の映像です。とても面白いので、是非アクセスしてお楽しみ下さい‼

このことをニューヨーク州にあるハミルトン大学准教授の大森恭子先生に話しましたら、活動写真弁士の研究をされている先生なので、大変興味を持たれました。先生によれば「貴重なフィルムに、こんな風に“カツベン”が英語でついたのは画期的です。お話の筋はタイトルに忠実にされていますが、細かいところ(親分はウイリアム・シャトナーみたいだとか、トム・クルーズの顔真似もできるよというような台詞)は、アメリカの観客も喜ぶでしょう」とのコメントを頂きました。

その大森先生が受け持つ1月20日から始まった大学1年生対象の授業で、正会員特典としてお送りしたDVDの中の映像を用いて、学生が自分たちで選んだ作品に1分間英語で“カツベン”を付ける発表や、秋学期にもzoomで私どもや弁士の方々とを繋いで、学生さんたちと交流する授業の提案を受けました。もちろん大賛成しました。

いつから“カツベン”を授業で取り入れられたのかをお聞きしたところ、2014年から始まったとのことでした。大森先生が担当する映画クラスの学生さんに無声映画を使って、自分たちの“カツベン”を準備して貰い、全学年向けの発表会では、片岡一郎弁士、音和座さん、カナダとフランスの演奏者による新しい音楽での『雄呂血』前半発表に続き、学生さんたちが“カツベン”を付け、カナダ人のピアノ演奏者・作曲家であるガブリエル・シボドーさんが即興で伴奏するという取組みだったそうです。

その後もなるべく毎年のように映画のクラスや今回提案があった大学1年生向けの日本映画と文学の授業で“カツベン”を取り入れ、これまで10回はしているとのこと。2014年と言えばまだ当館開館前のことで、私どもが知らずにいただけで、そんなにも早くから取り組まれていたとは驚きました。学生さんたちは日本映画の歴史的なことも勉強していることから、英語での1分間“カツベン”発表の後の2分間の説明では、「私は、徳川夢声のように前説は必要ないというスタイルの弁士です。言葉遣いについては、この映画が出た1925年当時流行っていた言葉を取り入れてみました」とか、「これは声色掛け合いが適切だと思いました。映画館は浅草の電気館です」などという説明がなされるそうです。いやはや“カツベン”文化の国に住んでいながら、全く脱帽です。恐れ入りました‼ 秋のzoom交流会に向けて、今のうちから勉強しなきゃなりません💦

無声映画に音楽だけではなく、“カツベン”を付けて楽しむ文化が世界中に広がれば面白いなぁと思います。ひょっとしたら、他の学びの場でも既に試みられているのかも知れませんね。ともあれ、もっと広がれ!“カツベン”文化‼

 

 

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