おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2016.06.04column

鈴木重吉監督「闇の手品」

5月22日、開館1周年を記念して上映した鈴木重吉監督「何が彼女をそうさせたか」(1930<昭和5>年)には、神戸新聞の田中真冶記者が取材に来てくださいました。その折、4月23日付け夕刊連載「キネマコウベ―日本映画史余話7」の記事を見せてもらいました。田中記者は月に一度この連載を執筆しておられます。「日本映画史夜話7」は、同じ鈴木重吉監督(1900~1976)が1927(昭和2)年に製作された「闇の手品」を素材に、それを製作した「神戸の本庄映画研究所」がいかなる組織で、どんな経緯で製作したものかを追跡したもの。

記事を読んで、「実際にどんな映像か見てみたい」という私に、「そういえば紀伊國屋から出ているDVD『何が彼女をそうさせたか』に特典として入っていたかも」と連れ合い。唖然としたのですが「まだ見ていない」のだといいます。それでは、というので閉館後に一緒に見ました。映画史に残る世界中の古典映画の中から選び抜かれた傑作100作の中に、連れ合いらが復元した「何が彼女をそうさせたか」が収められていて、そのDVDに特典として「闇の手品」も収録されています。モノクロ、サイレントの35分。「神戸三宮親交教会懸賞当選脚本」をもとにしていて、鈴木監督は脚色にも名を連ねています。

登場人物は、貧しい父母と誠一少年の一家3人、黒衣の男、金貸しの男、そして警官の6人だけ。

冒頭「闇は手品を使ひます/どんな手品を使ふでせうか…/恐ろしい/闇の手品師」の文字。なんだか人の心の闇を暗示するかのような暗い出だし。子どもたちが輪になって「お手てー、繋いでー、野道を行けばー♪」と、のどかに遊ぶ風景。場面は切り替わって、ニッポノフォンのSPレコードが大写し。蓄音機でレコードをかけながら幼い女の子二人が音楽に合わせて手をたたき、傍で父親が小型カメラの説明文を読みつつ子どもたちの様子を見て微笑んでいます。隣で小型映写機で楽しむ母と息子。明るい電灯の下での家族の団らん風景。これらの道具はお金で困ることのない裕福な家庭の象徴として描かれています。いつも来館者に玩具映画・映写機を説明するときに、「中流家庭より上のご家庭でご覧になっていた」と見てきたように言っていましたが、正しいことを証明する場面でした。この映像を見られただけでも得した気分です。もっとも、この映画を製作した本庄商会は、神戸元町3丁目に1923年に設立され、外国映画配給も手掛けるほか、カメラを5台も所有する活動写真部もあり、その広告には家庭用活動写真機、シネグラフなども販売していることが載っているので、その宣伝の意味合いもあるのかもしれません。

家族団らんの温かい電灯とは対照的に、雨の中を素足に下駄を履いた夕刊売りを終えた誠一が、破れた傘をさしながらトボトボ歩いてきます。彼の頭の中は、どうしたら貧しい父母を助けることができるかの一点。父親は病に伏せ、金貸しから30円返せと迫られていますが、返すメドはたちません。逆からあてた光が、降りしきる雨と彼の悩みの深さを強調しています。冷たい街灯の明かりに照らされた1枚の張り紙。そこには「正直の頭に神宿る」と書かれています。「神様/私は正直です/一度も嘘は申しません/神様!/神様!/お助け下さいまし!」。その時、黒衣の男が現れ、誠一に紙包みを明日の朝まで預かってくれと頼みます。それは札束でした。驚いた誠一は男に尋ねます「人はどのくらい働いたらこんなにお金が…」。男は黙って去っていきます。家に帰ると急いで預かったお金を机の引き出しにしまうのですが、そこへ金貸しがやってきて、「金を返せ」と両親を責めたてます。しまいには、両親が「これだけは」と懇願するのを振り払い、その大切にしていたものを取り上げてしまいます。見るに見かねた誠一は、両親の窮地を救おうと、思わず机の引き出しに手をかけ、札束から30円を抜いて渡してしまいます。そこへ警官が現れ…

この続きは紀伊國屋から発売されているDVDをご覧いただくとして、正直に生きることが貴いという教育映画です。金貸しの顔が多重露光で表現され、誠一が追い詰められている心理を効果的に表現していますが、宮川一夫先生の「無法松の一生」(1943<昭和18年>)の走馬灯のように過去を振り返る有名なシーンを連想しました。サイレント時代から、様々な手法が考案されていたことがわかります。欧州で学んだ鈴木監督の前衛主義の影響を受けた実験的な映像表現なのでしょうか。先の蓄音機の映像、オーバーラップする電灯の様子などアヴァンギャルド的表現が随所に見られ、当時27歳だった鈴木監督の表現への意欲的な姿勢が感じられます。主役の誠一を演じたのは相澤鋓三ですが、記事によれば六代目菊五郎の跡取り(後の七代目尾上梅幸か)とあります。正直に生きるべきか、両親の一大事を前に葛藤する役を上手に演じています。

6月1日にこのフィルムを所有しておられた神戸映画資料館の安井館長が来館されたのでお尋ねすると、「前から持っていたフィルムの中にあった」そうで、21年前に膨大な量のコレクションの中から見つかりました。約1万5千本ある中から、つい先日の5月26日にも、美空ひばり12歳の時の作品「南海の情火」(35㎜)が発見されたと報道されたばかり。修復と公開を目指すとおっしゃっていますので、「いずれは『青空天使』と併せて上映会をしましょう」と持ちかけました。今後も、どのような映像が見つかるのか目が離せませんね。

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