おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2016.06.09column

セルロイドの天井

今日の朝日新聞オピニオン面は、映画監督で女優のジョディ・フォスターさんに映画担当記者がインタビューしたもの。質問の一つに「女性の昇進を阻む見えない障壁『ガラスの天井』という表現が、映画界ではフィルムの材質にひっかけて『セルロイドの天井』と言われるそうですね」とあるのに興味を持ちました。不勉強で「セルロイドの天井」という言葉を初めて耳にして、一体誰が言い出した言葉なのかネット検索。でもちょっとわかりません。Wikipedia「ガラスの天井」の項目には、類語の用語として「ステンドグラスの天井―宗教分野」、「竹の天井-アジア系労働者」、そして「セルロイドの天井-ハリウッド分野」と言葉は載っています。これらから社会的不平等、差別を表す言葉だという感じは伝わってきますが、なぜセルロイドなのか…。

今映画フィルムは第3世代のポリエステルに置き換わっていますが、初期は可燃性セルロイドフィルム。硝酸で作られたこのナイトレートフィルムは、1889年にイーストマン・コダックが発売しました。有名な映画「ニュー・シネマ・パラダイス」(1989年)では、映写機の中でナイトレートフィルムが引火して、主人公のトトが愛した劇場が燃えてしまいますが、現実に1897年5月4日パリでの上映中の大火災、1911年もロシアやトルコなどで大火災が発生し、その後もいくつものナイトレートフィルムによる火災が起きています。白熱灯などに触れると発火し、一度火が付くと手が付けられません。危険視されたセルロイドフィルムに代わって登場した酢酸系の不燃性アセテートフィルムは、1950年代の日本映画全盛期に安全フィルムとして、ナイトレートから置き変わりました。この第2世代のフィルムは、古くなると酸化して溶け出し、カールして縮んでくることが1980年代から顕著になってきます。そして、先に述べた第3世代のポリエステル製フィルムは、ペットボトルと同じ素材なので500年持つと言われ、今はその過渡期にあたります。

こうして、フィルムの歴史を振り返ってみながら、「セルロイドの天井」の言葉を思う時、女性を厄介、危険、安定性がないという意味合いでとらえているのかなぁと思います。これこそジェンダーの面から由々しき問題だと思わざるを得ません。ジョディ―・フォスターさんも記事の中で、「ハリウッドの大手映画会社が手がける、いわゆるメジャー映画が女性監督に任されることはほとんどありません」「女性監督は、リスク要因と考えられているからです」と述べておられます。映画の現場に限らず、どこの現場でも、女性だから、男性だからという性差ではなく、能力がある人に託せる社会になっていけば、ならなければならないと思います。

日本の法律では、セルロイドは消防法第5類危険物に属しています。この危険視されているナイトレートフィルムを、ジョージ・イーストマン・ミュージアム(旧ジョージ・イーストマン・ハウス)では適切な環境の保管庫で大切に守られていて、昨年から春に「ナイトレート・ピクチャー・ショー」を開催。100年前の貴重なサイレント映画の数々を見られるとあって、世界的にも注目されています。

この取り組みについて、7月9日午後3時から、おもちゃ映画ミュージアムに於いて、、ノースカロライナ大学アシスタントプロフェッサー・小川翔太さんにお話しいただくイベントをします。同氏は、1983年生まれで、2014年に米国ロチェスター大学視覚文化学博士課程を修了されました。2012~14年まで博士課程フェローシップを通して、ジョージ・イーストマン・ミュージアムでテクニカラーやシネマトスコープに関する展示の企画準備に関わられました。演題は「ジョージ・イーストマン・ミュージアムでのナイトレート・ピクチャー・ショーの報告~ナイトレートで見えるもの見えないもの:ジョージ・イーストマン・ミュージアムより~」。

当日は、ナイトレートフィルムの作品ではありませんが、米国RKO社によって販売された黒澤明監督の「羅生門」(1950年)を16㎜映写機で上映します。上映後にはアメリカの映画事情についての質疑応答時間と交流会の場を設けます。またとない機会ですので、多くの方のご来場をお待ちしております。申し込みはおもちゃ映画ミュージアムFAX075-803-0034 または、電子メールinfo@toyfilm-museum.jp までお願いいたします。満員の節は入場をお断りする場合がございます。また、準備の都合上、一般見学の方は14時半で終了とさせていただきます。悪しからずご了承くださいませ。

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