おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2017.07.27column

7月15日研究発表会は、1926年の映画館楽士が用いた楽譜で生演奏しながら当該映像を観る貴重な機会に!(その1)

白井さん発表会A - コピー

7月15日、京都の街は祇園祭一色。更に他にも興味深いイベントが重なり、我ながら素晴らしい企画だと自信満々だったのですが、現実は少ない客の奪い合い状態だったといえるのかも。でも参加いただいた方の中には研究者も数多くおられ、顔ぶれ豊かで、なかなか充実した催しとなりました。岐阜から参加いただいた女性は、7月1日京都国際マンガミュージアムで、戦前の国産アニメーションに活弁と生演奏付きで上映されたのをご覧になって関心を持ち、参加して下さいました。

DSC01472 (2)チラシには掲載が間に合わなかったのですが、講師の白井史人さんが「虚無僧の譜面も一つ入っていた」と言われたので、急遽尺八奏者としてご活躍の志村哲(禅保)大阪芸術大学教授にもお声掛けをして、ご多忙の中参加していただきました。シルエットが素敵ですね。

DSC01496 (3)

皆さん、熱心に耳を傾けて研究発表会が始まりました。スライドの中に紐でくくられた一塊の楽譜がありました。早稲田大学演劇博物館が、2014年にオークションで古書店から購入されたもので、段ボール2箱分あったそうです。署名入り五線紙に書かれたK.HIRANOの名前は、このコレクションが見つかるまで無名でしたので、1924、25年の楽士名簿から探したとか。その楽譜の元の持ち主、平野行一(1898~没年不詳)は、神奈川演芸館、品川娯楽館など日活直営館で活躍していました。平野自身が使っていた楽譜なので、どのパートをどの楽器が演奏したかわかります。ピアノ、フルート、チェロ、バイオリン、思っていたよりモダンな編成ですね。

DSC01514 (3)ヒラノ・コレクションに入っていた『Kino Music 日活楽譜』の中の尺八の譜面を元に志村さんが、鳥飼りょうさんのピアノといっしょに演奏。短いものですが、虚無僧の門付け、月下に恋をささやく場面などに用いるよう指示があります。ピアノ、尺八、フルート、トランペット、トロンボーン、バイオリン、チェロとありますから、私がこれまで日本の伝統楽器を主に用いて演奏していたのではないかという勝手な思い込みを遥かに超える豪華な編成です。

当時は尺八も洋楽っぽい演奏をしていたようです。ここで、志村さんから提案があり、同じ譜面を用いて、虚無僧っぽくソロで演奏されました。全く違う印象。お話されたことをうまく書けないのですが、「西洋の音楽は横に広がるが、明治になって西洋音楽が取り入れられるまでの日本の音楽は縦に広がる」と話されたのが印象に残りました。織屋建ての古い京町家の高い天井空間に尺八の音色が響き、満ち足りた時間を皆さまと一緒に共有しました。

先の岐阜の女性はメールで「尺八の生演奏もあり、初めて近くで聞かせていただいたのですが、音色がとても良いなぁと思いました。虚無僧の吹き方等、演奏の仕方にも種類があることを初めて知り、とても勉強になりました」と綴っておられます。

映画という新しい文化に、五線紙の楽譜に則って西洋楽器を駆使して演奏する楽士たち。彼らの意識はどんなだったかと思いながら聞いていました。凄くプライドを高く持っていたのではないかしら。だからこそ、尺八も洋楽っぽく演奏していたのでしょう。脱亜入欧の尺八版。1927年には、日本でも『映画伴奏曲集 時代劇全編』(映画音楽研究会編、シンフォニー楽譜出版社)が作られ、その表紙に刀を持つ阪妻が描かれています。

参考上映した『忠臣蔵』(1926年)に使ったのは平野選曲譜で、日活総楽士長・松平信博(1893-1949)が1924年に作った邦画のための新たな楽曲を平野行一が書き写して『忠臣蔵』用に譜面にしたものです。主要5楽器は、ピアノ、バイオリン、チェロ、フルート、三味線。よく、この楽器編成で演奏されたそうです。平野自身はピアノを弾いていたようで、手書きで別のパートを書き込んでいたり、三味線やフルートが別の手で書かれているのも見つかっているとか。

その楽譜を用いて、鳥飼さんのピアノ演奏で『忠臣蔵』の妻子との別れから討ち入りまでの映像を観ました。鳥飼さんは「残っている作品から演奏するのは初めて。今回1920年代から30年代の楽士さんが、一生懸命やって来られたのが良くわかった。改めて音楽はサイレント映画に大事だと思った」と話しておられました。

 さらに、同じ池田富保監督で大河内伝次郎出演『元禄快挙 大忠臣蔵』(1930年)に、今回のチラシに用いた譜面「元禄花見踊」のレコードをかけて鑑賞もしました。今回初上映した『照る日曇る日』はわずか6分しかありませんが、この映画用の選曲譜がありましたので、こちらは鳥飼さんの演奏付きで上映しました。当日は、『照る日曇る日』用のヒラノ選曲譜合計3枚をまとめたものと、お話のあらすじ、人間関係図を資料配布してくださいました。上映後のトークで、東京の楽士と関西の楽士の違いの話が出ました。東京の楽士さんは裏に徹して弁士を立てる。弁士のBGM的な演奏。それに対して、関西の楽士は弁士に全部任せることはしない。「どやっ‼」的な。「なるほどなぁ」と思いながら聞いていました。

スライドで日活が発行した『Kino Music 日活楽譜』に「K.Sassa」と書かれた譜面も紹介いただきましたので、大好きなお伽歌劇『茶目子の一日』の生みの親である佐々紅華と日活楽譜について白井さんに尋ねましたら、『Kino Music 日活楽譜』の中にいくつか佐々紅華の作品も含まれているそうです。日活に依頼されて伴奏曲集を作曲したという文献の記録も残っているそうです。白井さんたちは、彼の別荘だった埼玉県寄居の鮎料理で有名な「京亭」へ調査に行かれて、佐々がアメリカの伴奏曲集を持っていたことも確かめられたそうですから、最先端の映画音楽の研究もしていたのでしょうね。

ショックだったのは、スライドで見せていただいた選曲譜が残る作品のうち、フィルムが残っている作品の圧倒的な少なさでした‼ せめて、上映後に切り売りされたおもちゃ映画でも良いので、見つかれば良いなぁと思います。

再び岐阜の女性のメールから。「研究発表会では、日本の映画の楽士用の現存する楽譜がとても少なく、貴重であり、今も収集されているそうで、昔の音を再現する活動をされていることは、とてもすごいなぁと思いました。『なまくら刀』で楽士さんと弁士さんのやり取りを拝見するまで、サイレント映画に音が付けられていたことは全く知りませんでした。今回もピアノ演奏が付けられたことで、とても臨場感があり、映画を見ているというより、コンサートや舞台を見ているかのようなライブ感が感じられ、今の映画のスピーカーから出てくる録音された音と違って、(昔の映画は)とても豪華な娯楽だったのだろうなぁと思いました。サイレント映画の鳥飼さんのピアノ演奏もとても良かったです」と感想を述べてくださいました。

この女性の他にも感想を書いてくださった方がおられますので、次回に紹介させていただきます。続けてお読みいただけると幸いです。

 

 

 

 

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