おもちゃ映画ミュージアム
おもちゃ映画ミュージアム
Toy Film Museum

2022.05.07column

フィルムデータ保存環境を整えるために、NASを導入しました!

3月17日に交付が決定した“文化芸術復興創造基金”による助成金で、下掲のQNAP製NAS(ファイルサーバー)を新たに導入し、あわせてデータ取り込み、編集、資料整理、情報発信などの作業をするパソコン環境を整え、さらにフィルムをデジタル化するために必要な備品を購入することができました。その報告をさせて頂きます。

4月30日シネマトグラファー京都の石井さんの協力を得て、NASを新しく取り付けました。この白い箱のようなものがNASと呼ばれるもの。本体を入荷してから石井さんのところで、初期化して当館での作業に使えるように調整して、持参してくださいました。

奥にあるのが昨年7月29日にアメリカMovie Stuff社から届いたフィルム・デジタル・スキャナー“Retro Scan Mark-Ⅱ”です。2020年の秋に石井さんの助言で別のスキャナーをお借りして、どのようなものか試してみました。フィルムは生き物なのでどうしても劣化を防ぐことはできません。せっかく寄贈いただいても見られなくなってしまってはいけないので、少しでも早いうちに救出したいと昨年3月に石井さんを介して輸入契約を交わしました。

私どもにとっては大変高額でしたので、“清水の舞台から飛び降りる”ような覚悟が要りましたが、3月18日にどうにか支払いを済ませました。Movie Stuff社は入金確認後、その受け付け順に製造着手の方針でしたので、4か月以上もかかってようやく手元に届きました。

その設置の際にも石井さんに手伝ってもらい、メーカーとの質問などのやり取りには語学堪能な友人の松山ひとみさんに手伝ってもらいました。お二人の協力なしには成しえなかったことと感謝しています。輸入した当初は、9.5ミリと35ミリ仕様の機械でしたが、当館にあるのは35ミリの玩具映画、17.5ミリ、16ミリ、9.5ミリ、8ミリと様々な種類があるので、それらにも対応できるようにアパーチャー・ゲートを工夫したり、リールを手作りして、うまく稼働できるよう創意工夫を重ねました。

写真で作っているのはパテ・ベビー(9.5ミリ)のリールです。他にもフィルムの先端に取り付ける保護リーダーやフィルムを接合するスプライサーも必要なのですが、今では使われていない規格なので国内では入手できず、海外でもごくわずかしか製造していません。そのため金額が高く、入手が非常に困難を極めています。今回は9.5ミリのスプライサーをどうにか1台イタリアから輸入することができましたが、レギュラー8のテープ・スプライサーは未だ入手できていません。また保存のための保護リーダーも必要です。こうしたことは、世界中のフィルムアーカイブ共通の悩みです。

リールの大きさから現在は700フィート程度が限界なのですが、それまでのテレシネ(映写機で投影して、それを撮影する方法)より、幾分劣化していてもパーフォレーション(送り孔)がまぁまぁの状態なら読み取ることができます。作業に慣れるまで試行錯誤を繰り返しました。どうしても、入力エラーが起こって、その原因がパソコンの性能にあることが分かり、パソコンも買い換えました。

その練習風景をYouTubeで公開しています。とても劣化しているフィルムも映像保存することができました。

そして、こちらは、長崎県雲仙市にお住いの菅さんから寄贈を受けたフィルムデータの取り込み練習風景。

この動画は昨年10月13日に公開したのですが、SNSで反響がいくらかある程度で日にちが過ぎていきました。内容的にはとても貴重な映像なのに、このまま埋もれてしまうのももったいなくて、別件で取材に来てくださった京都新聞の記者さんに伝えましたところ、つい先日大きな扱いの記事になりました。

新聞の影響力はとても大きく、さらにネットでも流れたことから、早速“長崎ケーブルメディア”の「ながさき原爆記録全集」を製作しておられるディレクターさんから連絡がありました。番組内で取り上げたいとのことでした。別に長崎にある“日本二十六聖人記念館”関係者の方からの問い合わせもありました。一般の方からYouTubeチャンネルへの感想書き込みもあり、貴重な映像を活かすことができそうで何よりです。

菅さんから寄贈いただいたフィルムは下掲のように他にもあり、京都国際映画祭や当館での催し、あるいは活動写真弁士さんが公演で用いたり、テレビ番組などでも使用されたりと様々に活用しています。

ここでは、ほんの一例として菅さん寄贈フィルムについて紹介しましたが、つい先日も毎日放送「よんチャンTV」の“京都のれん探偵”でミュージアムのことを紹介していただき、早速番組をご覧になった方から16ミリフィルムとそれを見るための手回し映写機を寄贈していただきました💛

そのうちの1本が内田吐夢監督、大河内傅次郎主演『仇討選手』(1931年)でした。2時間近い作品なのですが、日本の無声映画の残存率はとても低くて、同作品はこれまで当館所蔵の約1分のおもちゃ映画(35ミリ)が唯一かとみられていました。それが、寄贈いただいた16ミリフィルムは画像こそ劣りますが、30秒ほど長かったのです。繋ぎ合わせて編集したのが上掲映像です。クライマックス部分が見られるという事で「感動した」と大きな反響がありました。

この事例のように、まだまだ日本のどこかの家の押し入れや蔵に「幻の」と付くようなフィルムが残っていることと思います。放置していたり、ひょっとして「良い値で売れるかもしれない」としまい込んでいたら劣化して、二度と見られなくなるかもしれません。今のうち社会の財産として映像を保存して次世代に継承できるよう、更に促したいです。

写真は、石井さんに操作を教わっているところです。フィルムスキャナーが取り込んだデータを、これまではUSBでハードディスクに保存していたので、人間がバックアップの作業をどうするか判断しなければなりませんでした。今回NASに変更したことでデータの転送速度が速くなり、作業が早くなったメリットがあります。

また、NAS自体を24時間稼働させることができることから、NASが本来持っているバックアップの機能を利用してその間に他の作業ができることもメリットです。さらに、ハードディスクはある日突然壊れる可能性がありますが、NASはハードディスクが3つ入っているので、1個壊れてもデータが失われない可能性がグンと高まりました。

音については、これまでは読み取ることができなかったのですが、石井さんと話していて、それを読み取るソフトがあることもわかりました。追々それについても調べて、いずれはトーキーフィルムについても対応できるようにしていけたらと思っています。

ともあれ、文化芸術復興創造基金の助成金を得たことで、よりデータ保存環境が整えられたことに感謝しています。もし皆様のお宅やお知り合いの家に古いフィルムがあれば、どうぞ捨てないでください。それを社会の財産として活かす方法があり、私たちはそのお手伝いができます。

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