おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2023.04.25column

4月23日「イラン・ティータイム イラン人女性との交流会」

4月23日は午後3時から「イラン・ティータイム」をしました。当日司会進行を務められたアルマ・シャンツァーさんと写真展共同出展者の若林久未来さんが前日に打ち合わせをされた賜物で、その内容は大変良かったです。どれだけの人が「イランの文化と女性の自由について」関心を寄せて集まって下さるかと心配したのですが、当日参加も含めてそこそこお集まりいただき、良い形のお茶会になりました。

ゲスト3名のイラン人女性3名はそれぞれ京都の大学院でアニメーションやマンガなどの研究と創作活動を続けておられる作家さんです。アルマさん自身が彼女らと同じ大学院の修士課程を今春卒業したばかり。2年前から主に19世紀の湿板写真について研究し、それを用いた作品を作っておられます。その一例に今回の展示で、この日のゲストスピーカーの3名をモデルにしたポートレートを展示しています。

先日写真展を見に来られた方が、展示している写真は古いものを拡大したものと勘違いされている様子でしたので、「23日このモデルになった3人のイラン人女性がトークイベントに参加されますよ」と話しをしたところ、大変に驚いておられました。そういう私も、実際の彼女たちを目の前にして正直驚きました。

お客様の中には海外出身の方が幾人かおられたこともあり、オーストリアのウィーン出身のアルマさんは、最初に流暢な日本語で話し、続けて英語でも話して、参加者皆さんが理解できるよう努められました。その配慮が素晴らしく、見事でした。

アルマさんの最初の挨拶によれば、この写真展「carnation×reincarnation」には、「写真における女性のエンパワーメント、または平等に焦点を当てる」という目標があるそうです。それは、カメラのレンズの前の女性でもあり、カメラを操作している女性のエンパワーメントという意味でもあります。“エンパワーメント”を検索すれば「ひとり一人が本来持っている力を発揮し、自らの意思決定により、自発的に行動できるようにすること」の意味。丁度、今朝の番組に登場した兵庫県芦屋市の新市長に当選したばかりの高島峻輔さんが話しておられていた「自分の人生を自己決定できるようにしたい」という抱負と重なるように思いました。高島さんは統一地方選後半戦で無所属新人として出馬し、このトークイベントが行われた4月23日の投開票で史上最年少の市長として当選を果たされました。ハーバード大学在学中に、対話を重視するボストン市長に学んだそうです。

少し話が横に逸れましたが、アルマさんたちはこの写真展のタイトルに付けた“カーネーション”という花を、肉体・輪廻転生・変化を起こす持久力と力の象徴として選んだそうです。“カーネーション”の語源には、一説にはラテン語の「Carnis」に由来し、花のピンク色と赤色のため「肉体」を意味しているそうです。それ以外にも、“カーネーション”は、ポルトガルの1974年に起こった革命の象徴でもあります。独裁政権のエスタドノヴォが倒された時に、兵士たちは銃の中にカーネーションの花を挿し、この花は無血・平和のシンボルになりました。そういうこともあってアルマさんたちは、“カーネーション”を抑圧されている人々への力と急迫してきた問題への取り組みの象徴として使っていこうと考えました。その中でも今回はイランの現状に主眼を置きたいとこの催しを企画されました。

結婚、離婚、服装、移動などイランには、女性のあらゆる日常生活で抑圧されたり、処罰されたり、自由が厳しく制限されたりしている歴史があります。2022年9月のマハサ・アミニの死によって、基本的人権であるはずの「女性、命、自由」を求める現政府への抗議行動が全国的に引き起こされました。ゲストスピーカーの3名は、この講義が始まった頃は日本におられましたが、彼女たちのアニメーションとマンガ作品はイランでの生活と文化をテーマにしています。

ということで、最初に其々の方の作品を紹介しながら、お話をして貰いました。

最初の作品は、ニヤさんのアニメーション。日本生まれで子どものころから良質のアニメーションを見てきたことから、アニメーションに興味を抱き大学院でデザイン領域アニメーションを勉強中。

この日見せて下さった『Yin and Yang』は、マルチプレーンカメラを駆使して製作された切り紙のストップモーション。ペルシャの詩人ネザミの作品を元にしていますが、もういちど古代のイランに戻って欲しいとの願いを込めて結末を変えたそうです。それは、白と黒はっきり分かれるのではなく、グレーのキャラクターを登場させて、それを平和のイメージにしたという点です。月と太陽、陰と陽、男と女、一緒に存在することが大事。表現の厳しい政治の中でバランスをとることが大切だと作品に思いを込めて描きました。

ヒジャブを被ったマリアムさんは、5歳頃まで日本で育ち、幼い頃から日本のアニメーションに関心を抱いていたそうです。イランに帰国後、イランの国内で放送される日本のアニメーションを見て日本文化の可能性を感じ、今は大学院でアニメーションの制作から視聴までの流れをテーマに取り組んでおられます。

このアニメーション『MyLand』に登場している2つのキャラクターはイランでよく知られているそうです。目が大きくなって驚く表現や、ムカッとした時の表現、額の汗などは日本でよくみられる描き方で、それらの表現を採り入れて描いています。「日本に小さい頃から親しみを感じつつ、外からの目でも見ている作品をアニメスタイルでこれからもずっと描いていきたい。アニメ作品は私自身でもあります。自分の考えで、これからも作り続けます」とマリアムさん。

左から二人目のロクサナさんは、大学院でマンガ学を勉強中で、モチーフの多くは心理学に基づいているそうです。右端がこのイベントで大活躍のアルマさん。

見せて頂いた『悪夢物語』は、いくつかの悪夢、または人間の無意識の恐怖を短編として描いています。ペルシャの本の装丁で良く用いられる装飾やタイルのデザインなどペルシャ文化の視覚的要素を反映する一方で、京都の風景や浮世絵で描かれた髑髏など日本的な文化の影響も受けて表現するなど、細部表現に日本とイランを融合させながら、それらの持つ記号要素を通じて、人が持つ「死」への恐怖を表そうとしています。4つの短編からなるこの作品の最後は、今のイランを反映した作品です。「人は宗教を自分で選べるはずだが、今のイランは政治とイスラム教が一体になっていて、最近はより厳しくなっています。イスラム教でヒシャブは自分の体の一部とみなされて、自分の服装は自分で選びたいのに、いつも女性の服装をチェックするポリスに見張られています。日本に来てから自由に服装を選ぶことが出来るようになりましたが、今でも警察官を見ると無意識に怖く感じことがあります」と話して下さいました。

遠い国のことで余り知らなかったのですが、調べてみると、1979年にイラン革命が起こってパフラヴィ―皇帝が国外逃亡して、最高指導者でシーア派の精神的指導者ホメイニ師がイランに亡命先から戻ってきた当初は「生きることの本義は簡素・自由・公共善にあり」との信念を持ち、人々にも呼び掛けていたそうで、へジャブはしなくても問題にならなかったそうです。けれどもそれは僅かな春のこと。その後、イランとイラクが1980-88年まで8年間も戦争をしていて、政治と宗教が一体になり、保守派強硬派による弾圧が強まり、だんだんと自由がない国になっていきました。アルマさんの挨拶にもあった2022年9月の出来事は、そのヘジャブを巡っての悲劇から起こった動きです。同年9月13日、当時22歳だったマフサさんは、家族と訪れていた首都テヘランで「ヒジャブを適切に着用していない」として風紀警察に拘束され、その3日後に死亡しました。テヘラン警察は死因を「心臓発作」だと発表しましたが、彼女の家族は「心臓に問題があったわけではない」としています。この悲劇に反発する多くの女性が公の場で髪の毛を切ったり、ヒジャブを燃やしたりと象徴的な行動を起こし、立ち上がりました。

先日観に行った映画『聖地には蜘蛛が巣を張る』の最初のヒロイン役に依頼された女優さんは、ホテルで頭髪を覆うスカーフを投げ捨てるシーンを理由に出演を辞退したそうです。ことほどさようにヘジャブはイラン女性にとって大きな抑圧になっているようです。

これは昨日京都芸術センターで見たKYOTOGRAPHIE京都国際写真祭の展示の一つ「レジリエンス 変化を呼び覚ます女性たちの物語へようこそ」で掲示されていたパネル。世界報道写真財団とオランダ王国は、2000~2021年までの世界報道写真コンテストの受賞作品の中から、世界各地の女性や少女やそのコミュニティのレジリエンス(再起力)と、彼女たちの挑戦を写した17作品を選出して、それらが展示されていました。

そのどれもが訴えかける力がありましたが、23日にイラン女性の話を聞いたばかりということもあり、この写真を紹介します。(上掲写真キャプションから)イランの女性写真家フォルーグ・アラエイ自身が男性に扮して、女性サポーターと一緒にサッカースタジアムに入場して撮った一枚です。イランのサッカースタジアムでは、女性サポーターによる入場が制限されていて、FIFAの働きかけで2018年6月からテヘランのアザディ・スタジアムでは限られた女性の入場が許可されたそうですが、ほとんどの試合では依然として女性の入場が禁止されているそうです。女性サッカーファンは、逮捕される危険を冒して男性に扮してスタジアムに入場して、女性の権利を訴える活動をしています。

(キャプション続き)2018年11月10日、テヘランのアザディ・スタジアムでイランのペルセポリスが日本の鹿島アントラーズに敗れ、気絶する女性サポーター。それぞれ別の観客席を用意された男性と女性のサポーターたち。

(上掲写真キャプションから)どうすれば人々は公平かつ正当に扱われるのでしょうか?歴史上、人々や場所はたびたびステレオタイプな視覚的表現によって描写されてきました。その結果、階級、年齢、国籍、人種、民族、カースト、性的指向、ジェンダー、言語によって区分けされたコミュニティに対する偏った価値観が生まれました。フォルーグ・アラエイは、ストーリーに登場する女性たちと親密な関係を築き、イランの女性写真家としてこの女性コミュニティのニュアンスと複雑さを巧みに表現してきました。写真家のアイデンティティは、作品が持つメッセージ性にどれほど影響を与えるのでしょうか?

この作品はスポーツ・ストーリーの部第1位です/2019年度世界報道写真コンテスト。

一枚の写真が伝えるジェンダーバランスの不均衡問題。何が自分にできるだろうと自問しますが、先ずはいろんな世界について見聞を広めることかなぁと思います。その意味でも23日の「イラン・ティータイム」は小さな集まりでしたが、いろいろ学べる意義深い集まりでもありました。当日お集まりいただいた皆様に心より御礼を申し上げます。

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