おもちゃ映画ミュージアム
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Toy Film Museum

2023.05.05column

ギリヤーク尼ケ崎さんの青空舞踊公演「魂の踊り」

4月半ばに紀さんから電話がかかって、今年5月3日京都の円山公園内ひょうたん池前でギリヤーク尼ケ崎さんが4年ぶりに青空舞踊公演「魂の踊り」をされることを聞き、前夜にテルテル坊主さんに好天を祈りました。その願いが叶ったのか、ギリヤークさんが晴れ男なのかわかりませんが、青空が広がり汗ばむぐらい好天に恵まれた一日になりました。私が駆けつけた時には、既に人垣が幾重にもできていて、前の人の肩越しにのぞき込む賑わい。

14時、黒子役の紀さんに車椅子を押してもらいながら、伝説の大道芸人ギリヤーク尼ケ崎さんが登場されると大きな拍手が沸き起こりました。

顔を白くし、破れ笠、赤い着物に、軽くするために張りぼてで作られた三味線を手にしたギリヤークさん。ギリヤークさんご一行とは、2021年10月10日、門真国際映画祭2021でギリヤークさんを撮った映画がドキュメンタリー部門優秀賞を受賞され、その表彰式の後で当館にお越しいただいてご縁が結べました。ギリヤークさんの「魂の踊り」を見たのは、この時が最初でしたが、「まだまだうまくなって踊りを続ける」としっかり語られた言葉の通り、この日再会できました。

ご本人の手を握り再会の喜びを伝え、最後に「お気をつけて過ごしていただき、来年もお会いできるのを楽しみにしています」と申しましたら、「『お気をつけて』の言葉は良いねぇ」と返して下さったのが、嬉しかったです。10歳年下の弟、光春さんとも再会のご挨拶をしたら、よく覚えていてくださいました。ギリヤークさんの人徳なのでしょう、紀さんや弟さんらがお世話をなさっておられるから、こうして生きがいにされている大道芸を92歳の今も実現できています。そして、ギリヤークさんの「魂の踊り」を見て励まされている人々の存在も大きいといえましょう。翌日の読売新聞によれば400人もの人が集まったとか。つくづく「人は人によって支えられて生きている」のだと思います。最初の一曲『じょんがら一代』の踊りで大喝采を浴びたのに続き、

白い袖なし羽織を脱ぎ、真っ赤な着物姿になったギリヤークさんは、『よされ節』を踊ります。車座に座っていた観客を引き入れ、共に輪の内側を歩きます。

中には男の子やまだ小さな女の子も一緒に歩いて、その姿が微笑ましい。「ギリヤーク!日本一!」の掛け声があちこちから飛び交い、明らかに子どもの声の「日本一!」の掛け声も。

黒い着物と赤い羽織に着替えて、手に数珠を持ち、3曲目の代表作『念仏じょんがら』を披露。

巡礼者のようにゆっくり歩きながら、座り込み、大きな数珠を振り回して、終いに地面を転がって。最後にバケツに汲んでいた水を頭から被ろうとするときには、観客から「頑張れ‼」の掛け声があちこちから飛び交いました。パーキンソン病を患い、近年ではペースメーカーを入れ、3月に腸の手術を受けたばかりで満身創痍のギリヤークさんの目の表情で、訴えを理解した紀さんが、少しバケツの水を減らして挑戦し、それを見事に成し遂げると、より一層大きな拍手が送られました。

四方八方から色とりどりのおひねりが飛び、空になったバケツはおひねりで一杯になっていました。半世紀以上にわたり、観衆が投げた投げ銭を糧に鎮魂の祈りを捧げてきたギリヤーク尼ケ崎さんの「魂の踊り」は14時40分ごろに終了しましたが、その後もギリヤークさんの傍によって話しかける人々が次から次へと。踊りの途中も、敬愛する出雲阿国の話や、生まれ故郷の北海道函館での思い出、大好きだったお母さんの話などをゆっくりと話をされました。記憶の中にしっかりとその記憶が刻まれているのです。

5月4日付け読売新聞京都版はカラー写真4枚も使った大きな記事扱いで、円山公園でのギリヤークさんを紹介していました。前日記者さんが、踊り続ける理由を尋ねたところ「夜空の星を眺めてぼーっとする時間や喜怒哀楽とか、僕の場合はそういうのを大事にしている。踊るということは、生きていくことへの感謝っていうか、生きることの意味に通じるから」と答えられたそうです。

 

25歳で亡くなった妹さんを供養するためにつくった「念仏じょんがら」を踊る前に入れ歯を外されたのでしょう。歯は1978年、ニューヨーク公演に行く前に、この鎮魂の曲の振付がなかなかできず、2週間かかって全部抜いたのだそうです。抜歯後、鏡に映ったおばあさんのような顔を見たら、直ぐに踊りが浮かんだそうです。完成までに10年以上かかったのがギリヤークさんの代表作『念仏じょんがら』。だからこそ大事にされて、こうして待ちわびる人々に命を懸けたこの踊りを披露されるのでしょう。

老いた体を観衆の前にさらけ出し、踊り続ける姿に、生きること、生きていくこと、年を取ること、いろんなことができなくなっている現実、心身とも脆く弱くなっていく自分を重ねて見ていました。それが自然なことなのだと改めて認めつつも、ギリヤークさんが観客からの声援に「もっとうまくなって、これからも街頭で踊っていきます」と前向きに力強く応えられた姿に励まされる思いがしました。

紀さんから5月4日に届いたメールに「来年お伺いできるようにギリヤークさんともども頑張ります」と書いてありました。来年もこの場に見に来れるよう、私も楽しみにしています。

「どうぞ、お元気で!!!!!」

【5月25日追記】

今朝の京都新聞1面コラムで、ギリヤーク尼ケ崎さんの青空舞踊公演のことについて書いています。確かに2021年10月10日夜、当館で魂の踊りを披露して下さった時も「僕の芸はまだ伸びる」と話しておられ、その言葉に強く感動を覚えました。来年も「魂の踊り」を皆さんに披露して下さることを、ただただ祈っています。

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